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【心に残るドラマ】ナルコス:メキシコ編 シーズン1

観終わって、過去のナルコスとはまた違った余韻がある。複雑な感情と言ってもいい。

それは主役であるフェリクスの人間性の複雑さによるものだと思う。それは、演じるディエゴ・ルナが素晴らしかったということと同義だ。


もちろんシーズン1~3のパブロやロドリゲス兄弟もとてもよかった。彼らはベースが「悪党」であり、常にその眼には狂気がくすぶっていた。ちょっとした火花でも爆発するような恐怖を周囲に与え、観るものにも緊張をもたらしていた。そんな彼らが、家族や仲間を思う時に見せるふとした優しさや、ちょっと弱気になる人間らしさのギャップに心を揺さぶられた。

ところがフェリクスはだいぶタイプが異なる。

もともと、キレる頭脳と交渉力でのし上がった男。どちからといえば参謀風で、メキシコの巨大麻薬カルテルを牛耳るボス、というにはあまりに線が細い。悪人にはなりきれない眼差し。いつも眉間を押さえて苦悩しているし、見下してくる悪徳政治家や警察に翻弄され悔しがっている。どうしても過去のボス達と比べると小物感は否めない。あるエピソードでは、コロンビアの薬物輸送に手を出そうと目論むフェリクスが、パブロ・エスコバルとの交渉の場に立つ。存在感と威厳で圧倒するパブロに、なんとか虚勢を保つフェリクス。両者の対照的なキャラクターが鮮明になる場面だ。


しかし、そんな彼が徐々に「らしく」なっていく。非情な決断を下し、対抗するものを容赦なく暴力で排除していく。そのときフェリクスの鋭い眼光は、マフィアの頂点に君臨する男だけがもつ冷徹さと迫力を備えている。それは限りない苦悶や葛藤のすえにたどり着いた境地だ。パブロがカリスマ的で、“ボスの才能”に溢れた人物だとするならば、フェリクスは“努力のボス”といったイメージ。そのボス的成長が、ディエゴ・ルナによって見事に演じられていると思う。

また、忘れてはいけないのはもう一人の主役、キキ。

彼もまたDEAという組織に属しながらエリートコースを外れ、それでもメキシコで成果を上げ出世したいという野心をもった、いわば「成り上がり願望」の人だ。

そんな彼が、上司の怠慢や国家の腐敗という壁に阻まれながらも、フェリクス率いるマフィアに立ち向かっていく。こちらも当初はいかにもさえない捜査官といった風情。常に周囲への不信感を露わにした視線を走らせ、家では不満をアルコールにぶつける日々。それでも妻の支えもあり徐々に同僚との信頼関係を深め、少しずつ、しかし着実に本丸へと近づいていく。そのプロセスにおいて、彼の心を占めるものが野心から使命感へと変貌していく様子が、キキを演じるマイケル・ペーニャの眼が放つ光や、表情の晴れやかさによって伝わってくる。こちらもとてもよかった。また主役の二人だけでなく登場人物もみな清濁併せ持ち、一癖も二癖もある。だからこそ人間臭くてとても魅力的だ。


フェリクスとキキがお互い成長し少しずつ牙を研ぎ、やがて対決のときを迎える…

そのとき、自分がどちらに肩入れして観ているのか、もはやよく分からない。ひとつ言えるのは、善と悪が渾然一体となり複雑に絡み合うナルコスの世界に、どっぷりと浸っている自分がそこにいるということだ。


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