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異語り 120 雪だるま

コトガタリ 120 ユキダルマ

40代 女性

北海道だから雪なんて飽きるほど降るんだけど、降り始めの時期は子どもたちのテンションが高くなる。
朝起きて積もっていた日には大はしゃぎで飛び出していって玄関先に雪だるまを作っていた。
まだまだ根雪(積もって春まで残る雪)ではないので数日で溶けてしまうのに、毎年飽きることなく作っている。

でも、本格的に積もるようになると、もう雪だるまに興味はないらしく雪玉を投げたりソリを引いて公園へ出かけていく。

玄関先に並ぶ雪玉を重ねただけの小さな雪だるまは、我が家だけでなくご近所の玄関でもちらほら見かける。
おそらく我が家と同じ年頃の子どもがいる家なんだと思う。


ある年、ちょうど降り始めの時期に子どもたちが揃ってインフルエンザに罹った。
少し積もった朝もまだ熱は下がらず、子どもらは恨めしげに窓から外をのぞいていた。

その翌日。
やっと熱が落ち着いたので、玄関前だけ出てもいい許可を出すと飛び出していった。
なのにすぐに揃って戻ってきた。
「どうしたの? もう雪なかった?」
庭の方にはまだ残っているが、日当たりのよい玄関側はもう溶けてしまったのだろうか?
不思議に思って玄関まで見に行くと
「もう雪だるま作ってあった」
「だれがつくったの?」
子どもらが指さす方をのぞくと確かに小さな雪だるまが一つ玄関脇に佇んでいた。
「あら誰だろうね? ひょっとしたらパパかも知れないね」
「じゃあボクのも作る」
「ママのもつくったげるね」
あらためて外へ飛び出ると家族分の雪だるまをこしらえて自慢げに帰ってきた。

その日の夜
寝る間際になって思い出したので夫に聞いてみた。
「ねえ、雪だるま作って行った?」
「いや知らないよ。勝手に作ったらあいつらに怒られそうだしな」
なるほど、
それもそうだなと納得できたけど、それじゃああの雪だるまは誰が作ったんだろう。
お友達がお見舞い代わりに置いていったのだろうか?

数日後に無事に学校へ復帰した子どもたちにそれとなく聞いて見たけれど
「よその家の雪は使わないよ」
「つくるならいっしょにつくりたいもん」
と言う返事が返ってきた。

我が子たち的には『なし』らしい。
でも『あり』なお友達がいたのかも知れない。
そう思ってそのまま忘れてしまった。


翌年、また雪の季節が来た。
子どもらが喜び勇んで雪だるまを作る。
今年はそれぞれ一つずつ。ちょっと大きめのができた。
成長に伴い形も装飾も少しずつ進化している。

次の日の朝、子どもらを見送った後ゴミを出しに外に出た。
ちょっとダレてきた雪だるまたちの隣に雪玉を積んだだけの小さな雪だるまが一つ増えていた。
「もう、遊んでないでさっさと行けばいいのに」
いつも時間ギリギリに飛び出していくのだから遊んでいる余裕はないはずなんだけどなぁ。
帰ってきてから声をかけると、そろって「しらな~い」と言われてしまった。


そういえば去年も一つあったんだっけ?

誰が作ったのかわからない雪だるま。
思い返してみると毎年三個並んでいたような……。

ただ雪玉を重ねただけの何の装飾もない雪だるま。

なんとなく壊すのも気味が悪くてそれとなく日当たりのよい場所にずらしておいた。


その次の年からは「いっぱい作ってきていいよ」と声をかけたおかげで一つぐらい増えていても気がつかないくらい雪だるまが並ぶことになった。



でもそろそろ雪だるま作りも卒業かも知れない。
…………ちょっと不安だ。

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