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【読書感想】ハンナ・アーレント「戦争の世紀」を生きた政治哲学者

グーテンターク!皆さまこんにちは。

フランクフルトのYokoです。ちょっと時間がかかりましたが、ハンナ・アーレントの伝記を読みました。

内容(「BOOK」データベースより)
『全体主義の起原』『人間の条件』などで知られる政治哲学者ハンナ・アーレント(1906‐75)。未曽有の破局の世紀を生き抜いた彼女は、全体主義と対決し、「悪の陳腐さ」を問い、公共性を求めつづけた。ユダヤ人としての出自、ハイデガーとの出会いとヤスパースによる薫陶、ナチ台頭後の亡命生活、アイヒマン論争―。幾多のドラマに彩られた生涯と、強靱でラディカルな思考の軌跡を、繊細な筆致によって克明に描き出す。

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難解で知られるハンナ・アーレントはなかなか読むきっかけがありませんでしたが伝記なら入門書によいかなと。この本を買うきっかけは、日本ではヒトラーに誰かを当てはめて批判する色々騒動を見てウンザリしたことです。元々ヒトラーのことやナチスドイツの組織や歴史も全く踏まえずに、単にヒトラーという名前をあまりに軽々しく出す人が多いので。

そしてナチスドイツの負の歴史でフォーカスされるのはいかなる状況があったにせよ、全体主義も最終解決という名のもとに民族を壊滅させる取り組みに大衆が積極的に、あるいは消極的に、あるいはしょうがないと思考停止しながら突き進んだことです。ドイツが傷口に塩を塗り続けるのはそのため。

それを前提に話を続けますが、ドイツ国民にもフランス国民にもあった。フランス人全員がレジスタンス活動をゴリゴリやっていたわけではない。フランス人はだからレジスタンス活動の歴史を誇りにし、心の支えとして強調します。だからレジスタンスの歴史を記録した博物館がフランスのあちこちにあります。数年前、ある場所を見学した際に、展示の写真にヒトラーや幹部の写ったパネル写真がありました。特に悪名高い人たちは触られて(消されて)顔が消されていてぞっとした。憎悪の深さと、具体的対象ほしい人間のサガだなと思ったものです。

ハンナ・アーレントは、個人を批判しません。ヒトラーよりアイヒマンに着目したのもその考えの表れで、アイヒマンが何を言ったのかより、アイヒマンにそう言わせるものの人間の心理、集団行動の真理を探ろうとしています。全体主義や、役割の遂行や生存戦略の中に自らを紛れ込ませたときに抜け落ちる判断や責任への罪悪感を普遍的な思索を巡らせています。

ユダヤ人として差別され、命も落としかけ、友人知人をたくさん亡くしても、彼女の哲学思考は感情を超えて普遍的な形になるため時にユダヤ人からも受け入れられないほどのラディカルさを持つ。しかしこの本を読めば彼女が感情を持たない冷酷な観察者でないことがわかるし、彼女の考え方を理解することができる良書だった。(賛成反対のジャッジはさておき)

彼女の哲学思考は、普遍的でヒトラーやアイヒマンを裁き、叩きのめすだけでは解決しないものを、今も全ての人々の心の中に持っているという不都合な真実に近づこうとしたからこそ賛否両論を巻き起こした。
その考え方は、さらにわたしたちの現代社会が抱えている様々な課題を考えるにあたって、ヒントをくれるのではないかと。

今度はハンナ・アーレントの作品も読んでみたい。
(難しいだろうな。。。😅)


著者の矢野久美子さんの願いにそえるよう、私なりのペースでハンナアーレントの作品をこれから読んでいけたらと思う。

“アーレントと誠実に向き合うということは、彼女の思想を教科書とするのではなく、彼女の思考に触発されて、私たちそれぞれが世界を捉えなおすということだろう。自分たちの現実を理解し、事実を語ることを、彼女は重視した。”

著者あとがきより

現実を理解して事実を語る、ためには私わたくしではなく公おおやけを強く意識することが重要だと肝に銘じて。

それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました!

Bis dann! Tschüss! ビスダン、チュース!(ではまた〜)😊

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