見出し画像

(無題)

もうひとつの人格と体を同じくしている状況。彼女は僕を知らない。追い出したいわけではない。僕は彼女を友人だと思っていて、酒を酌み交わすことができたらと考える。しかしいつもそこで、ふと、思い至る。彼女と対面する事はできない。もどかしさに包まれる。その繰り返し。
イマジナリーフレンドと呼ばれる存在。それが僕だ。遠い昔に彼女によって生み出され、成長とともに忘却された。その時に消えてしまえたら良かったと思った事もある。しかし彼女から目が離せない僕は、ずっと彼女の中に留まっている。どうしても、出て行く事ができない。愛しい彼女。

ふと、彼女に呼ばれた気がした。遠い記憶の中で呼ばれていた名前を呼ばれた気がした。

彼女は泣いていた。覚えているのだろうか。僕という存在を。ここに居る事を伝える事ができたなら、どんなにか救われるだろう。彼女も僕も、どれほど、救われるだろう。泣いている彼女の体の中で、悲しみが、怒りが、痛みとなって伝わってくる。僕は彼女とひとつだ。この痛みを感じる事しかできない。抱きしめることもできない。こうして日々は過ぎ去っていく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?