ある言葉に秘められた美しさ-1

#9 フランス人から教わった、ある日本語の持つ魅力


An attractive Japanese word taught by a French professor

2017年の冬、まだ日が昇る前の寒くて薄暗い中、パリ郊外のビジネススクールでベンチャーキャピタルの講義を受けていた。パリの冬は、日が昇るのが日本と比べて断然遅い。MBA最後の学期ともあって、クラスメイトも比較的緩く講義を受けている中、教授が「不確実性」と「リスク」の違いについて話をしていた(はず)。まだ頭が完全に起きていなかったため、フランスらしくカプチーノとパンオショコラを食べながら聞いていると、その話の中でフランス人の教授が面白いことを言い出した。

「俺は、"リスク"という言葉の日本語が好きだ。日本語では"リスク"をどのように言うか知っているか?えーと、この中に日本人はいるか??」

教授はそう言いながらクラスを見渡した。なぜ、その日本語が好きなのか全く理解できなかったが、そう言われたので自分は手を挙げて答えた。

うーん、、、「危険」とか「危機」とかですかね。

その教授は満足そうな笑みを浮かべた。彼は「危機」という言葉(漢字)がすごく好きだと言って、クラスメイトにその漢字を説明した。なぜか、「危機」という漢字も黒板にうまく書けていた。そして、その説明が自分のMBA生活の講義の中で不思議と一番記憶として残るものとなった。

「危機」の最初の漢字である「危」は「危うい、不安」といった意味がある。これは、我々が「リスク」という言葉を聞いたときにイメージする意味だろう。

でも、注目すべきは後半の「機」という言葉だ。実はこの言葉には、英語で言うところの「Opportunity」や「Chance」という意味合いが含まれている。そういうことだ!リスクは「危険や恐れ」でもあるが、それと同時に「機会や好機」ということでもあるんだ。すごく良くないか?

日本語について、そして漢字について、フランス人からすごく刺激的なことを教わった。日本でも昔から、「ピンチはチャンス!」という言葉があるが、まさにこのことだ。「危機」という言葉に対して何も意識をせず、ただネガティブな言葉として受け取っていたが、それ以来自分は「リスク」や「危機」という言葉にポジティブな印象も持つようになり、クライアントに対しても機会があればこの話をしている。

今考えてみると、「リスクを冒す」を英語にすると「Take a risk」である。riskに対してTakeを使うことに違和感を覚えるが、riskを「機会」や「好機」という意味で捉えると「機会を掴み取る」となり、すごくしっくりくる。


画像1


ブランディングの仕事をして、自分の意識が大きく変わった一つに「言葉」がある。一つひとつの言葉の選び方、使い方にすごく注意を払い、慎重になった。なぜか?それはシンプルで、言葉の持つパワーが想像以上に大きいからである。さらに、ブランディングにおいて扱う言葉というのは、企業の意思決定にも影響を及ぼすレベルのもの少なくないため、言葉はより一層重要となる。

次の投稿では、これに関連して不祥事やスキャンダルで失墜したブランドの復活の明暗を握るものについて書きたいと思う。危機を危険のままに終わらせ、ブランドを毀損したままにするのか。それとも、それを好機として捉え、さらなる成長に繋げるのか。

最後に少し余談だが、時代が進むにつれ、企業側が情報含めあらゆることを隠し通すことはできなくなってきている。どれだけ美しく着飾り、魅力的な化粧をしたとしても、その魔法は昔ほど長くは続かない。偽りの自分を装うことは、ブランディングの視点で考えるとコストが高くつく。そういう意味でTransparancy (透明性) やAuthenticity (本物であること) がこれからの時代は本当に重要になってくる。企業や組織が透明性を持ち、そして本物であるためには、「らしくあること」が最も重要となってくる。その企業らしく、そのブランドらしくいられるか否かが、今後のブランドの成功を分けることになる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?