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高校生の切り取る世界で「映画をつくる方法」を考えた話

音楽×映画の祭典"MOOSIC LAB 2023"で 『はじめての映画』(大崎章監督)と  『可惜夜(あたらよ)』(村田夕奈監督)を2本立てで観た。

『はじめての映画』
高校生5人組がはじめて映画に挑む様子、その顛末が全編即興で描かれる。

©️「ハッピーエンディングス」製作委員会

思わず赤面してしまいそうなくらいの瑞々しさを炸裂させながら生きる高校生たちの共同作業。その過程で、彼らなりの大切なものへのこだわりや葛藤が明るみになる。大切なものへの遠近感、は高校生特有の癖があって大人になるとよくこの頃のことを忘れている。赤面しそうなくらい恥ずかしく懐かしいのは今の自分との遠近感の違いに向き合いたくないのかもしれないと思う。

全編即興、そして長回しというだけあってヒリヒリ感が心地いい。メインの俳優たちの緊張と緩和をコントロールする立体的な表現力が際立つ。この雰囲気は濱口的なものを想起させた(その後『ドライブ・マイ・カー』で圧倒的パフォーマンスを見せた岡田将生が過去に出演していた『ハルフウェイ』(北川悦吏子)が最も感覚的に近いかも。と思い出す。岡田将生は緊張感の中で生きるときに目を離せない魅力を放つ。)


2本目は『可惜夜(あたらよ)』
女子高生監督と話題の村田夕奈によるリアル"はじめての映画"。全編スマホ撮影でゼロから制作したという。

©Youth Film

この企画の発端は、コロナ禍で楽しみを奪われた高校生が映画制作によって青春を取り返そうとする試みだったという。

女子高生監督という立場でどうやって映画を作り上げたのか興味津々ではあるが、観終わった後のトークイベントを聴きながら村田夕奈の作家性について考えを巡らせる。

つまり、何も考えずに回されたカメラと、映画作家が切り取る世界とでは何が違うのかを考えていた。

映画を立ち上げるのに必要な要素が存在するとしたら、この10代の作家が追い求めたのは「構造」「瞬間」「言葉」かもしれない。

映画には構造がある。映画には瞬間がある。映画には言葉がある。
口で言うは易しだが物語の中に、フレームの中に、それらを取り込んでいくのは容易ではない。(かつて日本最大のインディーズ映画祭"ぴあフィルムフェスティバル"でセレクションをさせていただいたことがあるが、その際の体感では映画の片鱗が見える作品は応募作の中でも10本に1本もない)

劇中、電車を逃した主人公たちは時間を潰すために学校内でかくれんぼをすることから物語が展開する。高校生がかくれんぼ?という可愛げで観客を煙に撒き、あっという間に構造を導入するのだ。かくれんぼには拡散、集合という構造がある。同じところにいる数名がかくれんぼをするために一度、離ればなれになる。そして、その後ひとりひとり見つかっていくと再び集合していく。かくれんぼという装置の構造を物語と同期させ、ドラマを立ち上げる。

どうしても学校の中が中心となるロケーション。何かが起きる場所選びにも工夫がある。村田監督がそのひとつに選んだのは「屋上につながるはずの開かずの扉の前の階段」だ。

扉の前にふたりの女子高生が立ち、話す。

「私が開けてあげる」
「...どうやって?」
「気合い(笑)」

ここではないどこか、開くはずのない(はずの)ドアの向こうへの憧れ。ここにもたしかに構造が見つかる。


人は誰しも理想的でない現実に直面する。高校生であれば尚更かもしれない。そのときに発する「外に出たい欲求」と「内に篭りたい欲求」にどう向き合っていくかがドラマであり映画でもある。だからこそ主人公たちが「外」と「内」の境界を越える瞬間に映画が生まれる可能性が高い。

村田監督が描く主人公たちはたしかに境界を越える。そしてそこに必ず瞬間があることを逃さない。例えば、それは扉が開く刹那の瞬間であり、階段に座って天井に広がる星空を並んで展望しながら内なる世界を覗き込む引き伸ばされた瞬間である。

全編に渡り語られるモノローグは、山戸結希的/新海誠的/岩井俊二的とも言える残像を形成する。肥大しがちな一人称を世界に馴染ませるために必死に言葉を並べる若さは、一度失うと戻ってくることのない特権なのかもしれないと思わされる。だからこそ、青春を取り戻す10代の逆襲を装飾するものとして最もふさわしい。画面に映らない言葉をそれでもスクリーンに投影する挑戦からもしっかりと映画の輪郭が浮かび上がっている。

村田夕奈監督はこれからも映画を撮り続けるに違いない。
その時は必ず「構造」と「瞬間」と「言葉」が武器になる。
次の作品で「何」を描くかが楽しみでならない。

最後に、エンドロールのクレジットの中に見つけたスペシャルサンクス"今まで出会った映画たち"の文字からは彼女の映画へ愛を感じる以上に、覚悟と説得力が滲む。すでに「映画を撮ること」が夢ではなくなった高校生監督の夢を追いかけていく。そこに映画の未来もあると信じて。


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