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米澤穂信『ボトルネック』を読んで

 米澤穂信の古典部シリーズ『氷菓』をアニメで見たことはあった。しかし小説を読むのはこのボトルネックが初めてだった。
 氷菓のミステリーは日常の中に潜む謎や難解さを主人公の折木奉太郎が洞察力や観察力といえる力を活用して解決するものだった。
 ボトルネックでもミステリーは日常の中に溶け込んでいた。主人公の嵯峨野リョウはいわゆるパラレルワールドに迷い込んでいたので日常とは乖離していたかもしれない。しかしリョウの口から語られる日常の中にこそ物語における伏線が隠されていたのだ。
 いわゆる探偵役として立ち回るのは姉のサキでリョウは聞き役、まるで我々読者のようにパラレルワールドでの謎、自身の日常での謎が明かされていく様を見届けていたのが私の面白ポイントだ。まるで自分の物語を自分のものとして捉えて生きていないような感覚だった。自身が世界か金沢にとってのボトルネックだと突きつけられていくのだから仕方がないのかもしれないが。
 あり得たかもしれない理想に近い金沢を見せつけられて、歩き出そうにもいまさら取り返しがつかないと嘆く。諦めるしかないものを受け入れるのが得意なリョウが自死を受け入れるのか、自身がボトルネックとなる日常を受け入れるのか。読者がどちらと捉えるのか完璧に二分されるような人物像をたったの300ページで描いた米澤穂信を私は尊敬する。

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