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見解6『おもひでぽろぽろ』カセットテープの秘密

前回は 〜

前回高畑監督の挿入歌をいくつか紐解きましたが、高畑監督の音楽遊びはさらに深くしっかりとした意味が加わってきます。
では見ていきましょう。

タエ子にとって小学5年生時代はやはり人生のピークなのです。実際、前にも説明したとおり、好きな思い出を何度も思い出しています。そう、『はやにえ』の話です。

見解4『おもひでぽろぽろ』ちょっと怖い思い出を食べるタエ子の話


つまり彼女にとって小学5年生時代の思い出は聖地なのです。
いやいや聖地って大袈裟でしょうとお思いでしょうがどうやら大袈裟でもないようです。

映画の冒頭で初めて小学5年生の記憶が蘇るシーンがあります。

それは1学期の終業式です。

その時に流れる音楽が『マイムマイム』です。

マイム・マイム 音源 キャンプファイヤー ダンス 体験学習 お泊り保育

能天気に終業式にこの曲をかける学校などありません。
つまり高畑監督が挿入歌として入れてるのですが、どう言う意味があるのでしょう?

実はシオニズムに答えがあります。

19世紀の後半,主としてロシアおよび東ヨーロッパに居住していたユダヤ人の間から,前1000年頃から西暦1世紀にユダヤ教徒の王国があったパレスティナに移住し,ユダヤ人の独立国家を建設しようという運動が興りました。
それをシオニズム運動と言います。

『マイムマイム』はシオニズム運動によってユダヤ人が聖地に戻り、水を掘り当てて開拓に励む喜びを表した曲なのです。
ちなみに『マイム』は水という意味です。

つまりタエ子が『聖地である小学5年生の記憶に戻り、再び水を掘り当ててあの頃の様な喜びと輝きを取り戻したい』と言う意味があります。

タエ子が言う
『でもどうして小学校5年生なんだろう?』の答えはここにありました。

ちなみにですがこのシーンで同級生のアイコマイム(水)を連想させる水玉を着ています。この水玉の服を着ているシーンはこのシーンとラストのタエ子が引き返すシーンだけなのです。
つまり最初のシーンと同じ服で、現在のエンディングシーンに水玉バージョンのアイコが出てきたと言う事は、あくまでもタエ子の中ではシオニズム運動が完結した、大人になれた事を意味しています。しかし皮肉にもこの演出自体、思い出に浸りすぎてしまうタエ子の悪い癖ですので、完全に大人になり切れていない事も同時に伝えています。


わざわざ主人公でもないアイコが、女の子達の輪に遅れて加わり視聴者に注目させる演出もしています。

②そして一番の遊びはトシオのテープです。

ハンガリーのムジカーシュ以外にもルーマニアブルガリアイタリアなどの曲が入っています。

only yesterday -Teremtés- Márta Sebestyén -Muzsikásonly yesterday - FUVOM AZENEKEM -Márta Sebestyén- Muzsikásonly yesterday - GHEORGHE ZAMFIR - FRUNZULITA LEMN ADUSonly yesterday - Italie Eternelle — STORNELLI

山形駅から本家までの車中でトシオがテープをかけますが、すぐにエンストしてしまいます。

エンジンをかけ直してスタートします。

音楽は少し小さくなりますが、また元のボリュームに戻ります。

トシオはタエ子が都会の人なのに農業に興味がある事を去年知っていますし、実際見ています。つまりトシオはタエ子にある程度興味がある事は想像できます。

そんな中トシオは「俺、百姓だから!」と言うとタエ子は「かっこいい!」と言います。

音楽はMAXになります

演出でトシオのとっても嬉しい気持ちをハンガリーの風景に例えています。
ちなみにこのヨーロッパの田園風景はこの映画の中で2回出てきます。いずれもトシオの気持ちがMAXに達するとこの景色になります。

「百姓」と言う言葉にタエ子が食いついて「ホラ見ろ!」ってところでしょう。

少し音楽が落ち着くとUターンしている車とぶつかりそうになります。
アニメだとなんとなく観てしまってますが、よく見るとかなり危ないシーンです。紅花摘みの準備は万端なのに、ここで事故を起こしてはせっかくの旅行も台無しです。

ほとんどの女性がそうだと思うのですが初めて会った人の運転で乗車してすぐ1回エンスト、1回よそ見運転で事故をおこしそうになる事を経験したら、とにかく引くと思います。

すると音楽は無くなります。

し~んです。

しかも高畑監督は車も信号で止めて嫌な静けさを作ります

つまりこれはどういうことかとい言うと、

トシオテープのボリュームはタエ子の気持ちの高鳴りを表しています。

気持ちが高まればボリュームが上がるし気持ちがなえればボリュームは小さくなるのです。

そうやって観ると、この車で本家に行くまでの退屈なシーンがとても面白いシーンになります(笑)

またすぐ音楽はかかりますが静かな曲調です。
車もまた止まり少し嫌な空気になります

そしてまた走り出します。

この最悪のスタートからトシオは自分アピールをする事になります。
芋煮会が行われる馬見ヶ崎(まみがさき)川あたり。
ちなみにこの川は扇状地(せんじょうち)に開けていて「暴れ川」として知られる川です。馬見ヶ崎橋(まみがさきばし)、

つまり危ない橋を渡るわけです。
前にも言いましたがジブリ映画で橋は2つの世界の境界線という様な、宗教的な意味を持つ事が多くこの橋の場合、昔からの日本らしさを無くしてしまった風景(東京と山形駅周辺)と本来日本はこうあるべきといった様な昔ながらの田舎風景の境界線を意味しています。

渡り終わると妙な間を作り、流れで自分の農業の話が始まります
先程『かっこいい!』と言わせたトシオが
「ちょっとかっこ良すぎたかな?」自分から焦って振ると

『そんな事ない』と否定的な言い方をされます。女性が脈がないと感じた相手に言う様な言い方にも聞こえますし、意味は違いますがトシオが求めていた言葉とは違う気がしますやはりエンストや事故未遂などのジャブが既に効いている印象です。

実際メイキングで高畑監督はこの時の表情をとても悩んでいました。

そこで『百姓としてまだ駆け出しなんです』発言です…

これで曲は完全に止まります。

言葉の重みすら無くなってしまいました。

そして高畑監督はこの音楽が止まった一番最悪な状態でトシオが一番話したかったであろう有機農業の話をさせます。

さらにもはや得意の信号止めで最低の空気を作り本当につまらない話の様な演出を徹底してやっています。
ちなみに家が近くなるとしっかり音楽が流れ出します。少しトシオがかわいそうですね。

③トシオのテープはまだまだ続きます。
次は蔵王です。

トシオはタエ子が喜ぶ様な話をほとんどしません。しかし、蔵王の帰り道の田園風景のシーンで起死回生の一打を打ちます。

それは以前話した『田舎とは人間と自然の共同作業』です。

見解1『おもひでぽろぽろ』タイトル画面の意味


これはタエ子が探し求めていたこの旅の答えみたいなものなので、
このシーンを始めるとまた音楽が流れ始めます。

「共同作業」の言葉を聞くと音楽はとても大きくなります

ちなみにヒバリも鳴いてます。

見解4『おもひでぽろぽろ』ちょっと怖い思い出を食べるタエ子の話


こちらも以前説明した、そう、ヒバリがタエ子の気持ちの高揚感を更に盛り立ててくれています

しかし、こんな絶頂時に高畑監督は一気に曲を止めてしまいます。

タエ子が有機農業を手伝うシーンです。

そう、「泥食うて藁食うて歯渋い渋い」のシーン。
タエ子の気持ちを代弁するツバメが登場するシーンです。(ツバメの『聞きなし』は巣作りの際、泥や藁を咥えるので口がシブイシブイと鳴くんだよって話)

見解4『おもひでぽろぽろ』ちょっと怖い思い出を食べるタエ子の話

有機農業をとことんつまらなく見せていますしタエ子も気持ちは下がりっぱなしです。

そこで休憩の誘いがあるとまた音楽が流れ出し、トラクター乳搾り、と続いていきます。

④個人的に高畑監督のギャグで笑うことはないですが、そう言った意味で一番好きなのはこのシーン。
ことごとく共感できなかったタエ子がドンガバチョのシーンでトシオの愛車スバルR-2がないにも関わらず、マシンガンダンディーの口笛からトシオのテープの曲がスタートするのがとても悲しい。

もうトシオの有機農業はトラクターにもマシンガンダンディーにも勝てないのです


次回は

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