見出し画像

ダリオ・アルジェントの幻の初期作

いつか値が上がるんではないか、と思って、引越しのたびに捨てないで持っているのが、ダリオ・アルジェントの「サイコ・ファイル」VHSだ。

画像1

中身は、1973年にイタリアのテレビで放送された「La Porte Sul Buio」という番組。タイトルは「暗黒への扉」という意味らしい。

この番組は、かつての「ヒッチコック劇場」のように、若きダリオ・アルジェントが案内役となって、約60分のミステリードラマを放送していた。イタリアで1960年代に発展した「ジャーロ(ジャッロ)」(猟奇性、幻想性、性的側面を強調したエログロ犯罪ドラマ)のジャンルだ。

結局4回、4本のドラマが放映されたが、そのうち、アルジェント自身が監督した「変死体」と「目撃証人」の2本が収録されている。

この2作品は、海外のwikiではアルジェントの監督作品として記載されているが、なぜか日本のwikiでは記載されていない。

「変死体」の原題は「トラム」。路面電車の中で若い女が殺される。他の乗客や車掌もいたのに、誰も気付かなかった。犯人はどんなトリックを使ったのか、という謎を刑事が追う。トリックに懐かしさがある(昔の路面電車に乗ったことある人しかこのトリックはわからない)。また「見えているはずなのに、見えていない」という「サスペリアPART2」の視覚トリックの先取りでもある。ドラマとしては間延びしているが、最後に犯人が刑事の恋人を襲う場面がなかなかよい。

「目撃証人」の脚本は出来がいい。若い女が夜道を運転中、女を跳ねた。道に横たわった女の体には刺された跡があり、刃物を持った男が追いかけてくる。運転していた女は必死に逃げて警察に連絡するが、警察が来た時には女の死体は消えていた・・。警察は女の証言を疑う。真相は?という話。最後の「意外な犯人」登場シーンにはけっこうドキッとさせられる。

前述のとおり、ジャーロであり、ディクスン・カー的な「本格」味あるミステリーであって、今でいうホラーではない。「歓びの毒牙」「わたしは目撃者」の世界だ。

アルジェントのファンでも見たことない人が多いだろうから、「幻の作品」と言っていいだろう。

アルジェントでは、かつて「4匹の蝿」が日本で見られず、長らく幻のアルジェント作品だった(ファンは輸入したレーザーディスクなどの上映会で見ていたと思う)。

このテレビ番組が作られたのは、アルジェントが初期の動物3部作を撮り終え、ジャーロの最高傑作「サスペリアPART2」(1975)を撮る直前の時期にあたる。

「変死体」も「目撃証人」も、今の水準ではユルユルなミステリーだが、雰囲気の作り方や、エロいカメラワークは、紛れもない全盛期のアルジェントで、ファンなら楽しめると思う。

「変死体」で、ミニスカートの美女が殺人鬼に追いかけられ、おパンツ丸見えで逃げまくるシーンは、のちの「シャドー」でそっくり再現される。

まあアルジェント映画のテーマは、一言でいえば「美女いじめ」だ、と改めて感じる。(それはエドガー・アラン・ポーの美学と一緒だ)

なお、「目撃証人」の監督名は公式には別人になっているが、実際にはアルジェントがほとんどを撮った。その経緯は以下のとおりだという。

「目撃証人」のエピソードでは、監督にロベルト・パリアンテのクレジットがされている。ロベルト・パリアンテはベテランの助監督で、『歓びの毒牙』からアルジェントと仕事をしている。『わたしは目撃者』でもダリオはパリアンテの才能を買っていた。だが、『四匹の蝿』の撮影でダリオとパリアンテはけんかをしてしまった。しかし、アルジェントはパリアンテに借りがあると考え、監督デビューのきっかけとして「目撃証人」の演出という機会をパリアンテに与えた。しかし、実際に撮影がはじまると、パリアンテの演出はとてもジャーロとは呼べないコミカルなものだった。ダリオは3日で彼を解雇、ルイジ・コッツイを呼び、残りの部分を一緒に作った。しかし、ロベルト・パリアンテの名前だけは残された。ダリオは撮影をさっさと終え、主演女優のマリル・トロと旅行に行った。

音楽がジョルジオ・ガスリーニであるのも魅力だ。ジャズピアニストのガスリーニは「サスペリアPART2」も担当したが、アルジェントが満足できず、大部分をゴブリンに差し替えた。しかし、ガスリーニのピアノを私は好きで、このドラマでも楽しめる。

日本では、1990年代の貸しビデオブームで発掘され、「サイコ・ファイル」というタイトルで発売された。それを私は持っているというわけである。それ以後は日本でソフト化されていないはずだ。

邦題は、当時流行っていた「Xファイル」にあやかったのであろう。(La Porte Sul Buioの残りの2作も「新サイコファイル」というタイトルで発売された)

定価は15800円だが、私はレンタル落ちを2000円くらいで買ったと思う。

いまamazonで見ると、中古を1980円で売っていた。・・全然上がっていない。

まあ今はYouTubeでも見られるからなあ。がっかりだ。



この記事が参加している募集

おすすめ名作ドラマ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?