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【演劇】花と龍

 2024年2月25日(日)、劇団文化座公演の『花と龍』を観ました。記録を残します。

◆公演概要

  • 劇団文化座公演166

  • 日程:2024年2月23日(金・祝)~3月3日(日)

  • 場所:俳優座劇場@東京・六本木︎

  • 原作:火野葦平、脚本:東憲司、演出:鵜山仁

  • 上演時間:2幕3時間(幕間休憩15分を含む)

  • 出演:代表の佐々木愛さんをはじめとする36人による舞台とありました。

 火野葦平ひのあしへい(1907〜1960)は、昭和戦前・戦後を跨いて執筆した小説家です。1938年に『糞尿譚』で芥川賞を受賞。
 彼がどんな人だったのか、どんな作品を書かれたのか、以前から知りたいと思っていました。今回、他劇場で入手した公演チラシから『花と龍』の舞台化を知り、観に行った次第です。

 そして、「劇団文化座」は、1942年に結成された団体です。HPによると、【地から湧いた演劇】をモットーとしているとありました。文化座の公演を観るのも初めてです。

◆あらすじ

 広い世界が見たい!
 共にめっそうもない野望を抱いた男と女が、北九州若松の港にたどり着く。持ち前の度胸と正義感で波止場の暴力と闘い、めきめきと頭角を現す男、 玉井金五郎たまいきんごろう24才。曲がったことが大嫌い、男勝りで誰れにでも遠慮のない、タバコを吸う小娘、 谷口たにぐちマン19才。
 男は支那大陸を、女はブラジルを目差して肉体を酷使する。
 時は明治の終り頃、最下層の港湾労働者、ゴンゾウの世界から、地廻り、ヤクザの権力抗争を背景に、仲間の労働者たちの近代化を目差して闘う二人。 なぜか、男の背中には昇り龍と菊の花の入れ墨が……。
 火野葦平が両親を実名で登場させる、玉井一族のはじまりのものがたり。

文化座のHPより

◆歴史的背景

 明治初期の北九州の門司もじや、若松を舞台とした作品で、製鉄の原料となる石炭運びの労働が、話の軸となっていました。

(1)北九州港の歴史

1.北九州港の概要
1.3 北九州港の歴史と特長
①門司港の開港から北九州港誕生まで
門司港は、明治 22 年に石炭、米、麦、麦粉、硫黄の 5 品目の特別輸出港に指定され、明治 32 年に一般開港。
若松港(のちの洞海港)は、明治 34 年の官営八幡製鐵所の操業開始とともに諸工場が進出し、明治 37 年には特別輸出港に指定され、大正 6 年に一般開港。
小倉港は、背後に商業中心地をひかえ、大正年代から港湾整備が進められた結果、港勢は急速に進展し、昭和 10 年に一般開港。
・5 市合併により北九州市が発足したことを契機に、昭和 39 年、門司港、小倉港、洞海港の 3 港の管理者を統合して北九州港が誕生。

北九州市の資料より

(2)用語解説

「権蔵(ごんぞう、ごんぞ)」 とは、北九州地方における沖仲仕の俗称。

Wikipediaより

「沖仲仕(おきなかせ、おきなかし)」、「仲仕(なかし)」は、狭義には船から陸への荷揚げ荷下ろしを、広義には陸から船への積み込みを含む船内荷役労働者の旧称。今日の日本においては「沖仲仕」という言葉は差別的であるとされ、一般の報道などに際しては自主的に「港湾労働者」などに置き換えられて表現される。

Wikipediaより

「任侠(にんきょう、任俠)」とは、仁義を重んじ、弱きを助け強きを挫くために体を張る自己犠牲的精神や人の性質を指す語。

Wikipediaより

「手繰り」とは、次々と手から手へ受け渡して物を運ぶこと。(→「天狗取り」)※本作では、石炭運びで使われていました。

goo辞書。()内を追加。

◆感想など

(1)明治の近代化

 明治の近代化の中で、(もっと多くの潮流があるのでしょうが、)私は二つの流れを感じました。①製鉄と原料になる石炭の話、②取り仕切る「地廻り、ヤクザ」と労働者の権利の話です。

 特に、②については、主役の玉井金五郎の腕に「昇り龍と菊の花」の入れ墨が彫られていることもあり、最初はヤクザの抗争の話なのかと思っていました。しかし、①が絡まり、港湾労働者の団結の話に繋がっていました。
 「地廻り、ヤクザ」が労働者の取りまとめを行なっていて、そこから一足飛びに労働運動が起きたのではなく、工業労働者の増加や、明治以降の「法」の流入や「選挙」などが重なり、近代化が進んでいったように思いました。

(2)小気味よい任侠の世界

 舞台で任侠の世界を観るのは初めてでしたが、やはり男気を感じるというか、「かっこいいな~。」と思いました。主人公・玉井金五郎(演:藤原章寛)とその妻・谷口マン(演:大山美咲)のやり取りで、会場から笑いが起こる場面もありました。

 あまり詳しく書くとネタバレになりそうなのと、作品との距離感が近くなり過ぎるような気がするので控えますが、「惚れ惚れする男だね~。」といった台詞や、「ヤクザにでも負けない◯◯さんが、おかみさんから✕✕になるなんて!」といった台詞など、小気味よさが感じる場面がたくさんありました。
 また、船に乗り込み漕ぐ場面など、板をシンプルに使ったセットで、その分、労働者の身体性(肉感)が感じられるような気がしました。

◆最後に

 途中少し記載しましたが、玉井金五郎、谷口マン夫妻は、火野葦平の両親だそうです。そして、アフガニスタンで尽力した医師の中村哲(1946~2019)は、火野葦平の甥にあたると公演パンフレットにありました。中村哲さんについて書かれた本なども読んでみたいと思います。

 そして何より、いつか必ず、原作『花と龍』を読んでみたいと思いました。また今回は、こうした原作を、上演時間も想定しながら、脚本として書き起こす「脚本家」の業務のすごさを感じました。

 本日は以上です。最後までお読み頂きありがとうございました。冒頭の写真は、「龍」で検索し、わいえほさんの画像を使用させて頂きました。こちらもありがとうございました。


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