見出し画像

《その参 》小説『AP』刊行記念! “テレビ業界のリアルな裏側“プロデューサー対談 角田陽一郎(バラエティプロデューサー)×植田博樹(ドラマプロデューサー)

元TBSプロデューサー・角田陽一郎がテレビ業界に生きる人たちをリアルに描いた青春お仕事小説『AP アシスタントプロデューサー』。その刊行を記念して8月31日に代官山蔦屋書店にて、現役TBSドラマプロデューサー・植田博樹氏を迎えてテレビ業界のリアルな裏側やテレビタレント・俳優・アイドルなどのマル秘エピソード、これからのテレビドラマの可能性などを語り尽くしました。第三弾、完結編です!

Q特番やベントでSMAPが集まる可能性はどれくらいありますか?

植田)ないでしょうね。

角田)僕はちなみに3週間前のYouTubeで復活があるかという質問が来て「あると思います」と言っちゃいました。あれだけのスーパーグループが復活しないわけない。日本全国誰も分かんないんだけど、あると思うしかない。

植田)グループが再結成するのは、食い詰めるとかソロ活動に限界がある人たち。

角田)先週のYouTubeで解散と復活には3つの条件があると言って、1つ目がわだかまりや事務所との関係、2つ目は経済的要因で、3つ目はファンの後押しと言った。2つ目が今の話ですよね。困窮すれば復活するけど、困窮してなきゃ復活する意味がないですもんね。そうなったときにSMAPはスーパーグループで、それぞれでもうやっていけちゃうから、復活する必要がない。

植田)あと終わることでレジェンドになったんだよね。復活したときに、あのレジェンドがこうなってしまったか、ということを彼らは美学として見せないんじゃないかと俺は思ってる。いろいろあったけどこうやって5人集まってよかったね、と言って涙する5人を彼らは美学として見せないんじゃないかというのが俺の考え方。

角田)この議論、すごくおもしろいです。なので、バラエティのプロデューサーとして僕はむしろ復活をやってみたいなと思っちゃうんです。美学が分かったうえで、ってことはやったら数字とれるよね、とか思っちゃうので、できないかもしれないけど僕は果敢にチャレンジしたいな。よくAさんとも話しましたけど、誰を復活させたらおもしろいかな、みたいな。『金スマ』のときはピンク・レディーを復活させたらおもしろいなと思ってやったり。どうリバイバルさせるかみたいなこととかをいつもバラエティで考えてるんですよね。その延長の一番の目標としてSMAPっておもしろいよなって思っちゃう。

植田)SMAPが集まってあの当時以上のパフォーマンスを出せる目算がついたら集まるかもしれない。

角田)つまりレジェンドを超えるレジェンド性があれば!


植田)ただ、松田優作があそこで終わったからレジェンドになるように、SMAPもあそこで終わったからレジェンドで、悲劇性のある物語なんだと俺は思うけどな。バラエティの人とドラマの人が大きく違うと思うのは、ピンク・レディーが再開した後の続きがそのふたりにとって幸せなんだろうかと思うか。

角田)バラエティの良いところと悪いところの両面があると思います。

植田)バラエティって、その瞬間の数字とか話題性とかを作るという意味ではイベンターだよね。

角田)その指摘は昔から思ってました。『元気が出るテレビ!!』で熊野前商店街を復活させようという企画をやってた。商店街を復活させるとかはテリー伊藤さん演出の『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』が走りだったと思う。その半年後くらいに行ったら閑古鳥が鳴いてた。それまではたけしさんがいてすごくお客さんが来てたのに。それでいいのかなって学生時代に思ったんですよ。そう思ってテレビ局に入って『さんま・玉緒のお年玉!あんたの夢をかなえたろかSP』の総合演出をやってたんですけど、あれがまさにおっしゃる通りなんですよ。その瞬間でいいものの夢をかなえるのはいいんだけど、「商店街を盛り上げたい」みたいなやつって放送のときは盛り上がるけど、後で盛り上がらない。逆に下火になっちゃったりするじゃないですか。それって先方に悪いなと思っちゃって。僕はだからそういう夢を叶えるのをあえて排除してたんです。その瞬間の「誰に会いたい」とかはハッピーじゃないですか。だから瞬間の夢は叶えたかったんですけど、永続的な夢は、その人に、人生に関わりすぎちゃってるんだったら、道義的にやっちゃダメなんじゃないかなと思ったことがある。

植田)昔、ある番組で、明らかに障がいを持っている人がいじられているコーナーがあった。ディレクターはその子に電話で出演の説得をしていたわけ。「○○ちゃんはテレビに出ることで色々いじられるかもしれないけど、みんな君のことがうらやましいだけなんだからね」って言ってた。俺はそれが、悪質な騙しとしか思えなかった。電話を切るまでじっと眺めてて電話を切った後に「お前さ、すごくひどいことをやってるよ」と言ったら「でも彼はこうしないと光が当たりませんから」と言うわけ。でも、彼に光を当てるのはお前の都合であって、彼にとっては光があたればそれで良いのか。

角田)むしろ利用してるだけかもしれないですもんね。

植田)そのケースは利用してるだけなんだよ。テレビの功罪というのは常にあって、実は『Beautiful Life』のときに、視聴者対応で、電話が一本入った。「主人公の杏子は死ぬんですか?」というよくある質問で僕は何の気なしに「それはドラマの結末なので今は申し上げられません」といった。すると「実はうちの娘が杏子と同じ病気なんです。もし死ぬんだったらこれ以上見せられないんだけど、彼女はキムタクのファンでずっと観ている。私たちはどうしたらいいんですか」と泣かれて、電話は一方的に切られた。僕はそれ以来、その問いについて、ずっと考えながらドラマを作っている。これをやったら、誰かにとんでもない傷跡を残すんじゃないかとか、ずっと思い悩みながら台本を作っている。ドラマを作っている。ドラマとバラエティの違いはそこだよね。

角田)バラエティも、『金スマ』で一回あったのは、ある有名な末期がんのかたを亡くなるまでずっとドキュメンタリーで追ってたんですよ。亡くなる前日はまだ元気だったんですよ。ちゃんと化粧してインタビューを撮れてるんですよ。撮影が終わって、翌日急に体調が悪くなっちゃって、病床でもカメラで映像を撮った。ドキュメンタリーを流すときに本当だったらそれを最後の映像として流すところを、本当に痛々しかったので、僕とAさんで話して、あれを出すのはかわいそうだから、前日に明るく話しているあのインタビューで終わりにしようぜとふたりで決めた。つまり、ドキュメンタリーとしてはやらせなんです。最期の映像まで見せてないんです。

植田)いや、でもそれはやらせじゃなくて、痛みに対する想像力だよね。配慮というか。

角田)それはその対象の女性をテレビで紹介するんだったら一番きれいに映ってる最期で終わらせてあげないとダメだなと。僕がAさんのことが好きなのはすごく意見が一致したから。それは今の『Beautiful Life』の話とつながるなとすごく思った。

植田)テレビっておもしろけりゃいいんでしょとか、キュンキュンすればいいんでしょみたいに思われがちだけど、作ってる人たちは七転八倒しながらそこに向かい合っている。そこはYouTubeの人とはなんかちょっと違う気もする。

角田)バズればいいやとは思ってないですよね。

植田)人の痛みが分からないバカだなと、上司にこの前叱られた俺としても、それは考えなきゃなと思ってやってる。『AP』を読みながら思ったのは、それでも前に進んでいくというか。

角田)そういうセリフを『AP』の中で上米龍三郎はしゃべってます。

植田)そういうことをAさんも角田君も分かってて、そこに進んでいってるというところがすごく胸に響いた。

角田)そのテレビマンの矜持も誰かが言わないと忘れ去られちゃうのかなと思って、それを書きたかったんですよね。TBSに22年9か月いて教わった。大部分はAさんに教わってるんですけど。それは何か出したいなと思って。それを出すとテレビはオワコンじゃなくて、まだまだ作品でやっていけるんじゃないかな。

植田) 『AP』が重版がかかったと聞いてほっとしたというのが正直なところ。つまりテレビという狭い世界をぶたいにしてて。俺は読んでてすごくおもしろい。でも観てる人たちにとってテレビの世界がもう憧れじゃなくなってしまってるのかなとか、APってちゃらちゃらしてるんでしょみたいに思われてるのかなと思ってた。でも重版って、読んで面白かったよと言う人がいて、それで買った人がいる。面白さと、矜持やメッセージは両立するんだという勇気をもらった。

角田)すごく嬉しい!もっと売ってドラマ化しましょうよ!


Q 植田さんに質問です。人気が出たドラマを担当されたときなどは、どのタイミングでこれはいけるなと思うのでしょうか?

植田)ドラマは完パケ(放送できる状態の映像)ができるまでは分からないですね。

角田)撮影して1話を作るじゃないですか。1話のときですか?


植田)1話の完パケをMAルームで観てるときに、これあたるかもと思う。

角田)ということはぶっちゃけると、あたると思わないときもあるということですよね?そのときはプロデューサーとしてどうするんですか?まだ1話だから。

植田)のたうちまわります。なんとか面白くならないかなとか、どうプロモーションするかなとか。

限りある経験だけど、『GOOD LUCK!!』と『Beautiful Life』のときは「今、日本中が観てる」という感じがした。

角田)かっこいい!言ってみたいー!
でも分かりますよね。僕も『金スマ』で20%とったときそう思った。なんか分かりますよね。

植田)今このシーンでみんな泣いてるだろうなとか思うときはありました。

角田)それは完パケを観てるときですか?

植田)完パケを観たときと、放送時に鳴るラインとかかな。最近は大ヒット作を作っているわけではないけど、例えば『リコカツ』でいうと、このシーンが放送されてるなというタイミングのときにそのセリフがLINEで送られてきたりするから。というのは、ずっと配信をやってて地上波が久しぶりだったから、こういうリアクションもあるのかと改めて思いましたね。地上波独特の現象ですね。
でも視聴率をとってもスカスカだなと思うときもありますよ。『ケイゾク』をというドラマを準備しているときに、三軒茶屋のツタヤにほぼ毎日通ってたんですよ。それで何が借りられてるかというのをずっとチェックしてたわけ。そしたら山口雅俊さんというプロデューサーの作品がずっとレンタルされてるわけ。『きらきらひかる』とか『カバチタレ』とか。放送中は話題だった月9は借りられずにずらっと残っているわけ。そのときに俺は月9じゃなくて山口雅俊さんのつくるような末永く借りられるドラマを作りたいなと思った。その後もしばらく三軒茶屋のツタヤ通いは続いて、『ケイゾク』が借りられてるとよしっと思ってた。ヒットって視聴率だけじゃなくて、そういう歴史に残るかみたいなものもある。そのとき数字が良くても1年後、10年後には誰も覚えてないようなものもある。

角田)時代にそぐい過ぎてしまっているということかもしれないですよね。

植田)でも作ってる人たちはワンカットにかける手間を変えてはいない。火ドラがエンターテインメントに徹している矜持もすごく分かるしバカにするつもりも全然ないけど、そういうコンテンツを目指すか、長く愛され続けられるドラマを作るべきかというのは、これも夜中にのたうちまわるほど悩むよね。だから基本的にウツなんですよ。基本的にウツ体質だからTBSを出なかったというのもあるんだけど。
ヒット作というのは台本だけじゃないし、演出もすごく大きい。『GOOD LUCK!!』も曲が入るまではわかんなかった。山下達郎の『RIDE ON TIME』。あれ木村拓哉さんが選んだんですよ。そういう奇跡も大きいですよね

角田)『GOOD LUCK!!』はどうやって企画が通ったんですか?

植田)『GOOD LUCK!!』って実は最初は違う企画を提案したんです。僕が提案したのは、パイロットではなく警察官の話だったんですよ。制服警官で『ばんこのアヒル』というタイトルだった。交番を業界用語で「ばんこ」と言うんだって。それで帽子がアヒルのくちばしみたいだから、ばんこのアヒル。そう呼ばれて馬鹿にされてる地域警察官がいろんな殺人事件を解くんだけど、間抜けだから事件の手柄を警視庁の捜査一課に取られちゃう。「あんた本当に間抜けね」みたいなことを相方に言われてるという物語。ところが、相方がある日、彼は手柄を取られてるのではなく手柄を捜査一課に押し付けてるのではないかと気づく。なぜ手柄を自分のものにしないかというと、自分が目立たないようにするため。それがなぜかというと、実は過去の凄惨な大量殺人事件を追っている公安の刑事で、身分を隠しておまわりさんになって町に溶け込んでいるから。という結構よくできたプロットがあった。それをFマネージャーに持って行って、こういう企画をやりたいんですけどって言った。Fさんはぱらっと1枚目をめくって、3秒ですよ、ぱっと閉じて「暗いわね」と。「そもそもね、制服警官って服装がダサいわよ」って言った。でも木村さんが着るとかっこいいかなと思わなくもないんですけど、と言おうとしたら、「あ、あたし閃いた!植田さん、制服ものをやりたいならパイロットよ。」と。俺は制服ものをやりたいとは言ってないし、事件もので最後に公安の刑事だと分かるまで身分を隠してるところがかっこいいなと思ってたのに。でも横にいた編成マンのG君が「あたりますね、それ!」と言った。たしかにその通りになったし、たしかにパイロットの木村拓哉はかっこいいと思った。
でもね、企画替えは簡単ではなかったんですよ。とあるパイロットの人に取材したら「パイロットに求められるのは定時制と安全性ですね」と言われた。「バスの運転手とあまり変わらないということですか?」と言ったら「まったく変わらないですね」と言われた。その前にフジテレビが、バスの運転手が勝手にバスを違うところに走らせてヒロインを追いかける変なドラマをやってたわけ。それが浮かんでどうしようかなと悩んでね。定時制と安全性だけじゃドラマにならないぞと。なにかヒントになるかと思って成田空港と羽田空港に交互に毎日通ってずっと飛行機を眺めてた。そのうち、取材を重ねていくと、あるパイロットの方が「大統領を乗せたときに大統領がパイロットに××空港に降りろと命令してもパイロットはいうことを聞かなくていいんです。飛行機の中ではパイロットが一番偉くて、責任があるんです。パイロットは全ての乗客の命を背負っているから、たとえ大統領であろうが国王であろうが、その空港で降りろとか引き返せとか言われても絶対にその命令は聞きません。機長が全部決めるんです。」と言った。そして飛行機のことをシップということも知った。飛行機のシステムは船乗りのシステムの伝統を受け継いでいる。そのときに「艦長」だったら、木村拓哉の放つセリフが浮かぶと思った。全ての物事に対して諦めない覚悟を持つ男というキャラクターが生み出されて『GOOD LUCK!!』ができた。それもまた、奇跡
とも言えますかね。僕の手柄ではないということは改めて明言しておきます。
ちなみに『ばんこのアヒル』はいまだに企画書の山の中に眠っています。でも、たぶんやることはないんだろうな。人生も残り少ないし、いつ飛ぶかわかんないからね。

《了。》-2021年8月31日、代官山蔦屋書店にて-

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?