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普通

今日はすごく調子がいい。

キビキビ動ける、うまく接客できる、なんでかな〜
今日の服装が気に入ってるから?
1番最初に接客したお客さんが老夫婦で和やかに接客できたから?
何にも追われていない状況でバイトができてるから?
お客さんいっぱいなのに1人でお店を回さないといけなくてどう考えても私がしっかりしないといけない状況だから?

アパレルの接客、難しい。
私は余計なことをずっと考えているので、お客さんからの質問に反射的に簡潔な言葉で説明することが苦手だ。
いつも、ああまた上手く言えなかった、になるのに、今日はまだ1回もない。

こういう日は少し不安になる。
調子がいい日に限って大きな失敗をする。

午後も身を引き締めて頑張りたい、お昼休憩。

バイト先のショッピングモールにはハイブランドのお店がたくさん入っている。
私のバイト先はスポーツブランドではあるが、一応ブランドではある。そのブランドだから買いにくるお客さん。
色々なお客さんが来る。といっても普通の夫婦。普通のカップル、普通の大学生、普通の高校生。

羨ましい。普通が羨ましい。
きっとこの人たちは普通の学生生活を送ったんだろうな。遠足、文化祭、修学旅行、スポーツ大会、全部楽しかったんだろうな。
普通の学生生活を送って普通の感性を育んだから、みんなが憧れるブランド品が欲しいと思うんだろうな。羨ましい。
ブランド品の何がいいかわからない。

1年前に財布が壊れたので買い替えた財布。
本当は全然好きじゃない。
周りの、財布はハイブランドがいいみたいな風潮に流されて買ってしまった。
使えば愛着が湧いてくると思った。
全然湧かない。好きじゃない。

普通の人の“良い”が私にはわからない。

私は高校生活は楽しくなかった。人生で1番つまらなかった。
学校行事も苦痛だった。

高校3年生の文化祭。みんな最後だから顔にキラキラをつけて、体操ズボンをまくり、髪の毛をふわふわに巻いて楽しんでる。

クラスに友達がいなかった私は友達がいっぱいいる違うクラスに行き、そのクラスの一員みたいな顔をする。そのクラスの子も受け入れてくれている。楽しい。

でも私はこのクラスの1人ではないという確固たる事実は変わらない。
いやいや、そんなの気にしなくていいよって言ってくれてるじゃん。気にすることないって、楽しいね。

なんとか1日楽しんだ。というか楽しもうと頑張った。
1日目が終わる頃には疲れてしまった。
自分のクラスの出店の奥、壁にもたれて座り、顔を伏せた。疲れた。2日目は休もう。十分楽しんだ。

それをみたクラスの男子が「戸谷がボッチでかわいそうだ!!お前ら!ダンボールで囲え!!家作ってやれ!!!」と言った。
あのときはありがとう大八木。だけど君のそういうところが嫌いでした。

最後の文化祭1日目の終盤はダンボールの家で人が忙しなく動くのをホームレスのように眺めながら時間が流れるのを待った。
私の文化祭の思い出。文化祭でこれが1番の思い出。
スマホのアルバムに、顔にキラキラのシールを貼った友達との写真がたくさんある中、ダンボールに囲まれた私がニコニコしてる写真が1枚。
可哀想な私。でもこの写真が1番好き。
バトン部の女の子に囲まれて真ん中でピースしてる私より、よっぽど私っぽくて好き。

なんとか楽しいの気持ちにしようと頑張るし、実際楽しいという気持ちにもなる。
でも振り返ると、楽しかったという記憶がない。楽しくなかった。

みんなと何かをするが苦手だ。
別に嬉しくないのにみんなが喜んでるから喜ばないといけない。別に楽しくないのにみんなが楽しんでるから楽しまないといけない。
運動会もスポーツ大会も大嫌いだった。

みんなの“楽しい”が私にはわからない。
きっと私は普通じゃないんだ。
普通に楽しい青春が羨ましい。

いつの間にか、会う人会う人に、きっとこの人は高校の文化祭が楽しかったんだろうな、と心のどこかで思うようになっていた。
実際に、高校に戻りたいと口にする子は文化祭の写真に顔にキラキラのシールが貼ってある。
ダンボールに囲まれて1人でいる写真なんてない。
楽しかった普通の高校生活。羨ましい。

私は普通じゃない。普通になりたい。
そう思いながらも、自分の心に素直になろうと思い、自分の好きを好きと言うようになった。
自分に素直な自分が少し好きになった。

好きだった人が、変でいいじゃんって言った。
変でいいんだ、と思った。
普通じゃなくても許された。
気づいたときには人と話すときに「私って変だよね〜笑」と言わなくなった。

好きなものが同じ人が、あなたの感性が好きって言った。
私の感性は好きな人も好きなんだ、と思った。
普通じゃなくても認めてもらえた。
気づいたときには自分の好きを堂々と言えるようになっていた。

昨日、友達が私のことを羨ましいって言った。
嬉しかった。自分のやりたいことをやって羨ましく思ってもらえる日がくるなんて。
私は誰かを羨むばかりだったから、羨ましがられることが嬉しかった。
普通じゃなくても羨ましいと思ってくれる人がいた。

羨ましいは自分になくて他人にあるもの、なので、普通じゃない私には人から見て羨ましいと思われるところが少なからずあるのかも、と思った。
自分が自分である理由の1つになった。
自信になった。

でもまだ全然普通が羨ましいけど。

普通の高校生活は一生の憧れだけど。

引き続きいい調子でレジ打ちをしていた。でもなんかそろそろ疲れてきたな、あと3時間。
ガッシャーーーン
小銭をぶちまけた。あーあ、やっぱりこれだ、
すみません…、いろんな人に謝る。疲れが一気にくる。

今度は、レジ締めで計算が合わなかった。(小銭ぶちまけた件とは別)
レジに誤差があったわ〜♪今日も帰りたくても帰れないわ♪心の中で歌う。
日曜日で大忙し、疲労困憊な上に帰りが1時間遅くなった。

途中までいい感じだったのに。
うわん、私はいつもこれだ。
でもきっと、これでいいんだ。
そうやって自分を少しずつ許すことにした。

帰って文字を打ちながら軽く寝る。
母に起こされて、お風呂に入って、お布団で寝る。
明日もバイトだ。明日はレジの誤差、ありませんように。

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