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言葉の編み物

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押してみたい

座っているあなたを上から覗き込み つむじを押してみたい 腕を伸ばす時にできる 肘のくぼみを押してみたい 片方の空いている手の真ん中を ふにふにと押してみたい 頬杖をつくあなたの横顔を眺めながら 顎から首筋へと指でなぞり 喉仏を押してみたい そして そのまま下へと下がっていき 鎖骨のくぼみを押してみたい 寝転がるあなたの背中に乗り 背骨の節を一つ一つ 押してみたい それらと同じくらい 肘の内側や 膝の裏側で 指を挟んでみたい 骨と肉の使い方

目覚めたら

大嫌いだ。 そういうところが大嫌いだ。 うんざりだ。 そういうところがうんざりだ。 もうたくさん。 もう疲れた。 自分にも。 何もかも。 後味の悪い夢の中で、さようなら。

君と僕

僕は君を想ふ 君を想ふは僕 僕を想ふは君 それが僕と君 それが君と僕 僕から見る君 君から見る僕 二つだけ 一つだけ

スポットライト

そう これは あなたに告げることば 深海に降る雪のように 真っ暗闇に はらはらと落ちて 白い紙吹雪がたまって 積もっていく いつだったか いつからだったか 静かに 自重でゆらゆらと落ちて 深い深い底に溜まっていった 最初のひとひら あの日から スポットライトを浴びて ひらひらと舞い踊る言葉たち 言葉のあわ玉 光の乱反射で いっとうかがやく 役割を終え ゆらりゆらりと 弧を描き 螺旋に吸い込まれる またひとつ 舞い上がっては 底へと

予感が確信に変わる瞬間

頭に浮かぶ言葉たち わたしではない誰かの言葉 その存在に教えられるように 伝えるように求められて 操られるように文字を打つ そうすることが必然のようで当然だと はじめは何も分からなかった 何も認識していなかった 裏側では既に始まっていた 少し前から動き出していた こうして始まった物語 わたしとあなたの軌跡 ひとつ綴れば また言葉が湧いてくる それをわたしの外側へ吐き出す日々 まだ涙は止まらない 自分かどうかも分からない ただ日常は続く 何のために なぜ 自

星屑

あぁ まただ 彼女は抱えきれなくなった 悲しみや怒りが溢れ出ないように いつもこうして身体に押し込む 誰もいない部屋でひとり 口を固く閉ざし 身体を小さく折りたたんで ぎゅっと強く抱く 「ん゛ーーーーー」 「ん゛ーーーーー」 「ん゛ーーーーー」 言葉が漏れないように ぎゅっと爪を立てて 身体に閉じ込める しばらくすると声が聞こえなくなった 鼻をすする音がする 何もできないから そっと見守る わたしは落ち着いた頃を見計らって コンコンとノックする ーーー そろ

よくないもの

「ねぇ これはどう?」 「ううん わたしのじゃない」 少女は小さく首をふる 少女は表情を変えない 「分かった また来るね」 「うん」 「ねぇ これは?」 「違うよ わたしのじゃない」 「じゃあ こっちはどう?」 「ううん わたしのじゃない」 「ん〜 それなら これはどうかな?」 「    」 少女は無言で首をふる 「おねぇさん もういいよ 探さなくて わたしのものはないから どれも わたしのものじゃないから だって どこを探してもなかったから だからも

綿

綿を詰める ふんわりする 糸で縫い合わせる 繋がる繋ぎ目 綿が無くなる 糸が解ける

17の誓い

いつだってそう 自分だけ 周りを見るな 甘えるな 無いのだから 居ないのだから 仕方がない そうでしょう? 全部 全部 全部 自分でやるしかない 自分でやるんだ 文句や弱音を吐いたって何も変わらない そんな時間があるのなら 頭を使え 行動しろ そう 自分でやるの 自分しかいない

祈り

ねぇ 君は今 何を想うの 何を願うの 何を見て 何を感じるの どうか一つだけでいいから わたしに教えてほしい それはきっと とても素敵なことだと思うから 君が明日  笑えますように 今日も君がいてくれることに感謝を どうか ゆっくりとおやすみなさい また明日

ペンギンともんじゃ

初めて会ったのは病室だった 2つか、3つくらい下の女の子 初めての入院生活 会話をする度に共通点が見つかり その子とは、すぐに打ち解けた 病室では、長話をしてはいけないから 談話スペースに移動して 何でもないお話をする日々 ひと月経って、その子と一緒に 同じ病室のおばあさんを見送った 散歩が好きな人で、よく散歩をしていた 田舎に帰って、子供と一緒に暮らすらしい 「お世話になりました。お元気で」 翌月、隣の病室の人が退院した 旦那さんが迎えにきて 二人で笑顔で帰って行

朝焼け

早朝に起きて空港に向かう道のり 朝焼けが目に焼きついている 夜が明けていく 濃い紫色が薄まり ピンク色が混ざり合う 薄い青 やがて光が差しこみ 山の深緑に反射してきらめく 朝を告げる明かり 一生忘れない やっと向こう岸へ行ける 海を越えて 知らない場所へ その先の世界 わたしを知っている人は誰もいない わたしがおわる わたしがはじまる

俺の家に無いもの

「ねぇ これ解いてみて」 ある日、家に知らないおじさんが尋ねてきた。 聞けば、同級生に聞いて、わたしの家に辿り着いたらしい。 その人は成績が優秀な学生を探していて、⬜︎⬜︎さんに紹介されて、わたしの所に来たらしい。 「君が頭が良いと思う子を教えて」 おじさんに訊ねられて、わたしは学年で一番頭が良い子の名前を言った。 わたしは、おじさんに渡された問題を適当に解いて、机にしまった。 数週間後、おじさんが問題用紙と解答用紙を回収しにきた。それ以来、おじさんが訪ねて来るこ

風にたなびく心

風に呼ばれた気がした わたしに向かって さぁーっと風が吹き抜ける 心の中で祈ると 風が吹き抜ける 今日も風に語りかける わたしのひとり遊び ひみつの遊び 風はいつも寄り添ってくれる 風に吹かれて わたしの心がたなびく