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「おもしろい!」の作り方4 『表の役割で裏の伏線を隠す』

 こんにちは、神岡です。
「おもしろい!」の作り方 第四回目です。
今回のテーマは物語の構造の美しさを表す要素=伏線です。

今回は例として、「ズートピア」「トイ・ストーリー3」を取り上げます。どちらも脚本の美しさは最高級ですので、是非見てください!

概要

この記事では以下のことについて書きます。

・表の役割を与えることで、伏線を伏線と悟られず、受け手の記憶に残すことができる。

伏線とは何か?

そもそも、伏線とは何でしょうか?
ウィキペディアを見てみましょう。

伏線は、物語や作劇上の技術のひとつで、物語上において未来に起こる重要な出来事を、些細なかたちで前もって暗示しておく手法である
(ウィキペディア)

定義の説明だとイマイチピンときませんので、例を挙げてみます。
伏線の最たる例はミステリの推理パートです。

犯人は大抵、往生際が悪く、最後の最後まで探偵の推理に抗います。
そしてとうとう追い詰められた時に「じゃあ証拠はあるんですか!」と詰め寄るわけですが、探偵が推理ショーを披露するときには決まって証拠も揃っているわけで、犯人は敗れ去れります。
「どこで自分が犯人だと分かったんだ?」と問われ、探偵はとても些細な犯人の言動なり、挙動なりを指摘します。
すると犯人は驚愕し、うなだれるのです。「まさか、そんなことで」と。

以上の例を、ウィキペディアの説明に当てはめてみると……
ちょっとした犯人の言動、挙動(前もって示された些細なこと)が、犯人を追い詰める証拠(後の重要なこと)に繋がるという関係になっており、確かに伏線になっています。
以上が伏線の定義と例示です。
それでは、伏線があると何が良いのでしょうか?

伏線のメリット

伏線があると、物語がその展開に至った経緯を、受け手に違和感なく理解してもらうことができます。

例えばファンタジーものの作品において、力量差が圧倒的な敵に主人公が勝てたとします。この時、敵に勝てた理由が『急に新たな能力に目覚めた』『よく分かんないけど、叫んだら力が湧いた』といったものだったら、受け手は納得しづらいでしょう。
物語の展開から後出しジャンケンのようなズルさを感じてしまうのです。

しかし、それまでの物語で、敵の弱点や主人公の強み、どうすれば逆転できそうかといったヒントを散りばめておけば、どんな強敵に勝利しても読者に引っかかりを与えることなく、納得してもらうことができます。

また、もう1つ伏線を物語に入れるメリットとして、作品の客観的な評価基準になる、というものがあります。
これは書き手目線から見た伏線のメリットです。

どのような物語であっても、受け取るのが人である以上、その評価はその人の感性に左右されます。つまりは、あやふやです。
しかし、伏線は構造的なものなので、テーマやストーリー、キャラの好みなどに左右されず、評価してもらえる要素と思われます。

伏線のデメリット

ここまで伏線のメリットを述べてきましたが、効果的に張れていない伏線は却ってデメリットになります。
例えば、伏線は未来の重要な出来事を暗示するものなので、うまく隠せていないと、受け手は今後の展開を予想できてしまいます。もし、物語のどんでん返しが自分の予想通りだったら、嬉しい反面、どこか物足りませんよね。

また、伏線をばれないようにと気をつけすぎた結果、受け手が全く気付けないようなものになってしまう場合もあります。この場合、受け手は伏線がそもそもあったことすら覚えていないので、伏線の効果はありません。

しかし、これは二律背反のように思われます。
なぜなら伏線を隠さなければ、受け手に展開を予想されてしまうのに、伏線を見つけてもらわなければ、伏線の効果を発揮できないからです。

では、一体どうすればこの問題を解決できるのでしょうか?

表の役割で伏線を伏線だと悟らせない

そんなお話をしたところで、「トイ・ストーリー3」「ズートピア」見終わりましたでしょうか?
どちらの脚本も、とんでもなくクオリティ高かったですよね。

これらの作品は、上で指摘した伏線の抱える問題を解決しています。
すなわち、表の役割を持たせることで、裏の伏線を隠しているのです。

トイ・ストーリー3から見ていきましょう。
冒頭のシーン。
袋に入れられたおもちゃたちが、ママにゴミだと勘違いされてゴミ捨て場に置かれてしまいます。すぐそこに、特徴的なステップを踏むゴミ収集業者が近づいてきます。
ここで、特徴的なステップを踏むゴミ収集業者は、おもちゃたちの脅威として描かれており、視聴者のイメージに残ります。

そして、ラストのシーン。
数々の冒険を経てゴミ処理場に来てしまったおもちゃたちは、すぐにでも持ち主の元に帰らなくてはなりません。しかし、ここがどこなのか、どうすれば帰れるのかも分からず、打つ手なしです。そこに、あの特徴的なステップを踏むゴミ収集業者が現れたではありませんか。
ここで、特徴的なステップを踏むゴミ収集業者は、おもちゃたちを家まで連れて行ってくれる存在として描かれており、冒頭の伏線は見事に回収されました。

続いてズートピアです。
ズートピアは、肉食動物と草食動物が進化し、あらゆる種類の動物たちが平和に暮らすようになったという独特の世界観を持っています。冒頭は、その世界観を説明するための演劇で始まります。物語を理解する上で分かりやすく、重要な要素なので、視聴者のイメージに残ります。
ここでの演技は、世界観を説明するという役割を持っています。

そしてラストシーン。
敵の術中にはまり、主人公は絶体絶命となってしまいます。しかし実は、主人公は敵を欺くために演技をしていたということが判明します。冒頭の演劇がまさしく伏線だったのです。
ここでの演技は、状況を逆転する切り札として描かれています。

以上をまとめると、こんな感じになります。

トイ・ストーリー3の「ゴミ収集業者」
表の役割=おもちゃたちの脅威
伏線の役割=家まで連れて行ってくれる存在

ズートピアの「演技」
表の役割=世界観の説明
伏線の役割=状況を逆転する切り札

このように、表の役割を与えることで、受け手にそれを伏線として認知させることなく、ラストまで覚えてもらうことができるのです。

まとめ

今回のまとめです。

・伏線とは、後の重要な出来事を前もって些細な形で提示する手法である。
・物語がその展開に至った経緯を、受け手に違和感なく理解してもらうために伏線は効果的である。
・伏線には「展開が読まれてしまう」「覚えてもらってないと効果がない」というデメリットも存在する。

・表の役割を与えることで、伏線を伏線と悟られず、受け手の記憶に残すことができる。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。

ではでは、次回もお楽しみに。

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今回の記事が缶コーヒー程度には役立ったなと思われたら、是非読んでいただけると幸いです。



感謝です!