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聞き語りのリアリティ 『浅草博徒一代―アウトローが見た日本の闇』

いつかやりたいことのひとつに、「聞き語りを書く」というのがあって。

それを思い出させてくれたのが、この本。

お医者さんが書く聞き語りの対象人物は、なんと、やくざの親分!
死を間近に控えた親分が語る、生涯の出来事の数々。

宇都宮の豪商に生まれつつ、家の敷地に出入りしていた女に惚れて、追って上京するところから、人生の歯車が狂い出して。

いや、でも全てを読むと、狂っていたというよりそうならざるを得ないような。

……まず、上京した女を追って、見つかるアテも薄いのに飛び出しちゃうところに若さのパワーを感じて、突っ込みながら読んでた。

随所に出てくる昔の東京も、今は面影がほとんど感じられない場所だったりするから、「あの場所がそんなところだったとは…!」とか、過去を想像しながら読めるのも楽しい。

浅草に博打小屋があったというのも、あってもおかしくはないな、と思いつつ、そんな場所が今では何事もなかったかのように観光客が歩いているのもね。

明かりのない深夜に、役人の目を盗んで川に停留する船を渡り歩いて要人を送るとか、時代劇じゃなくてリアルにあったことなんだなーと思ったり。


この本はすべて、本人が語った話を聞き語りとして書いているのだけれど、その語り手自身が文章を書いたかのようなリアリティを感じられるのがすごいなって。

書き手の「この人の生き様を残したい」という意思が伝わってくるようで。聞き語りとは思えない没入感。

語り手の一本筋が通った人生。

たとえいくつかの間違いがあろうとも、もちろん許されざることばかりでもあるけれど、人情味に溢れていて、だからこそ本になり読み継がれているんだろうなと。

ボブ・ディランがこの作品をモチーフに曲を作ったらしくて、一時騒動になったそうなんだけど、「あのボブ・ディランと同じ作品を読んでいる……!」というミーハー心も、ちょっとだけくすぐられたことはここに残しておきます。

参考:『浅草博徒一代 アウトローが見た日本の闇 』この一冊がボブ・ディランの魂を揺さぶった(のかもしれない) / HONZ


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