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『転校生』

                               
◎人物表

荒山颯太(17歳) 高校生

原祐樹(16歳) 高校生


水島沙希(17歳) 高校生

夏川陽菜(17歳) 高校生

柏原里奈(16歳) 高校生

今宮裕太郎(42歳) 教師

大八木弘之(57歳) 教師


陸上部員たち

カメラマン

記者

通行人


〇電車・車内(朝)

   二人掛けの席に座り、腿の上にカバン、その上に原稿用紙を載せ、読  
   書感想文を書いている荒山颯太(17歳)。電車が止まりドアが開く。  
   車内アナウンス「♪日出塩~ 日出塩~」。颯太の高校の同級生、原
   祐樹(16歳)が乗って来て、颯太の隣に座る。颯太、原を睨み、

颯太「前も空いてんじゃん」

   前の席を顎で指す。

「いいじゃん、いいじゃん」

   電車、動き出す。颯太の原稿用紙を覗く。原を睨み、原稿用紙を隠す
   颯太。

「夏休みの宿題、始業式の朝にやってるって、小学生かよ(笑)」

   黙々と原稿用紙に書いている颯太。

「オレなんか読書感想文、昨日30分で終わったよ」

颯太「30分? 何読んだんだよ?」

「読んでねえよ。『人間失格』って検索したら適当な感想のブログが出てきたから、それ丸写し」

颯太「お前、そういうのバレるぞ」

「大丈夫だよ」

   颯太の原稿用紙の下から、本を取りだす原。

「風が強く吹いている… 三浦しおん…?」

   スマホを取り出し、検索し始める原。

「箱根駅伝の小説化か…。なるほど。お前、陸上部だから適当に書きゃいいじゃん」

   電車が止まり扉が開く。車内アナウンス「♪洗馬~ 洗馬~」。ロン
   グヘアーの美少女が乗り込んでくる。少女は颯太と原の前の席に座
   る。原、原稿用紙に向き合っている颯太を肘でつつく。

颯太「ん?」

   顔を上げない颯太を、さらに強く肘でつつく原。

颯太「何だよ」

   ようやく顔を上げる颯太。原、前の席を見ろと目配せする。前を見る
   颯太。座っている美少女を発見、目を大きく見張る。颯太、原、目を
   見合わせる。原、スマホを取り出し、颯太にLINEを送信する。

≪LINE文面≫

「誰??」

颯太「さあ」

「制服、うちの学校だよな」

颯太「ああ」

「あんなかわいい子いた?」

颯太「いない」

   スマホから目を離し、もう一度、前の美少女を見て、目を見合わせる
   颯太と原。


〇道

   通学路を歩く美少女。その後ろを付けるように歩く颯太と原。通りす
   ぎる通行人がチラチラ少女を見て振り返る。

「2年で一番かわいいのは藤原優菜で次が武井美沙で庄司かおりだろ」

颯太「芦田果歩も」

「まあ、そんなとこだよな。じゃあ、3年か1年にいたのか… いや、あんだけ可愛きゃ学校中の噂になるよ。アイドル並みだろ、あれ。ハンパねえよ」

颯太「転校生かな」

「ああ… かもな」


〇学校・校門

   校門をくぐり校内へ入る美少女。その少女を見て振り返る生徒たち。
   後ろから少女を追う颯太と原。


〇校内・廊下

   廊下を歩く美少女。すれ違って振り向く生徒たち。少女、職員室へ入
   る。それを見届ける颯太と原。

「やっぱ転校生だな」

颯太「ああ」

「あの雰囲気は、一年てことはないよな」

颯太「ああ」

「じゃ、2年か3年か。3年の9月に転校するかな?」

颯太「じゃあ、2年?」

「オレたちのクラスだったりして」

颯太「さあ」


〇教室

   2年A組の教室に入る颯太と原。原は最前列右、颯太は最後列真ん中
   のそれぞれの席に向かう。自分の席の横に、新しい席があるのに気が
   付く颯太。

颯太「あれ、ここ誰だっけ?」

   前の席の柏原里奈(16歳)が振り向き

里奈「そこ、転校生が来るって」

颯太「え!! 転校生!?」

里奈「すごい子らしいよ」

颯太「あ! 今日みかけた… 確かに… 凄い…」

   颯太が顔を上げると、右前方の席の原が驚きの表情でこちらを見てい
   る。スマホが振動する。机の下でそっとスマホのLINEを開く颯
   太。原からのLINE。

≪LINE文面≫

「マジかよ!!!!!!!」

颯太「ホント」

「いいよな、お前!!!」

   颯太、顔を上げると、原が睨んでいる。

颯太「別によくないって」

「クソ!!!!!」

颯太「落ち着けよ」

「そういや年始のクジ、当たってたってこと?」


≪回想≫

〇お宮(正月)

   初詣のお宮でおみくじを引く颯太と原。颯太は大吉、原は吉。颯太の
   おみくじを手に取る原。

「劇的な出会いあり。おお! お前、今年いいんじゃねえ」

颯太「出会いとかいらねえよ。自己記録更新したい」


〇同・教室

   廊下がガヤガヤし始める。ドアの窓からチラチラのぞくカメラマンや
   記者の姿。原からのLINE。

≪LINE文面≫

「すげえ!! 取材陣!!」

颯太「なんで?」

「あの子、有名なアイドルか!!!??」

颯太「ああ」

   廊下がさらに騒がしくなる。カメラのシャッター音。記者の「今のお
   気持ちは…」の声。教室内は騒然。ガラガラとドアが開く。一瞬、教
   室内に緊張が走り、シーンとなる。担任の今宮裕太郎(42歳)が教室
   に入って来る。

今宮「今日からこのクラスに新しい仲間が入る事になった。彼女は有名なので、ちょっと取材で騒がしくなって悪いな。じゃあ紹介する。さあ、中へどうぞ」。

××××

   黒板に自分の名前を書く転校生、黒板には夏川陽菜の文字。夏川の姿
   を見て驚愕する一同。ショートカットで体重110キロの巨漢。

夏川「夏川陽菜です。砲丸投げをやってます。よろしくお願いします」

今宮「夏川は今年の全日本選手権で、高校2年生ながら砲丸投げの日本記録を出した陸上界のホープだ。来年のパリオリンピックにも出場濃厚とのことで、今日は取材の皆さんも多くてな」

夏川「すみません」

今宮「ご両親の仕事の都合でこの学校に転校することになった。席は一番後ろの、荒山、お前の隣でよろしくな。(夏川に)あ、荒山も陸上部だ。いいな、荒山」

颯太「…あ、はい」

   颯太、目を丸くした顔の原と目が合う。原からのLINEには「あの
   子じゃないじゃん!!!」「劇的な出会い!!(爆)(爆)」。狭い通路を
   やっとのことで通り、後ろの席まで辿りつく夏川。颯太に向かって

夏川「よろしくお願いしま~す」

颯太「あ、よろしく…」

   引きつりながら答える颯太。

××××

今宮「じゃあ、読書感想文を後ろから回収して」

   颯太、慌てて読書感想文を出して

颯太「やべッ! 最後までいってない… どうしよう…」

   横の夏川と目が合う。目を逸らすとニヤニヤした原と目が合う。二人
   の表情とおみくじの「劇的な出会い」の文字が頭をチラチラよぎる。
   それを振り払うかのように、急いで最後の一文を書き足す。「向かい
   風にも負けないよう、力強く走りたい」。


〇電車・車内・翌日(朝) 
  
   二人掛けの席に座っている颯太。電車が止まる。車内アナウンス「日 
   出塩~ 日出塩~」。ドアが開き、原が入ってきて颯太の隣に座る。

「なんだよな~、彼女H組だってな。てっきりあの子がうちのクラスに来ると思ったら…美女と野獣、なんでうちのクラス、野獣なんだよ」

颯太「野獣って言うなよ」

「あの時のお前のひきつった表情、一生忘れねえ(笑)」

颯太「いや、別にオレは…」

××××

   電車が止まり、ドアが開く。車内アナウンス「洗馬~ 洗馬~」。美
   少女が入ってきて、颯太と原の席の前に座る。ビシッと座り直す颯太
   と原。

≪LINE文面≫

「今日も完璧だな」

颯太「ああ」

「水島沙希だって」

颯太「らしいな」

「何か部活入るのかな?」

颯太「さあ」

「映研に来てくんないかな」

颯太「むさい男しかいねえだろ」

「女優としてスカウトしようかな」

颯太「やってみれば」


〇放課後・校庭

   陸上部の練習をしている颯太。そこへ監督の大八木弘之(57歳)の後
   ろについてくる水島沙希(17歳)。陸上部員、集まる。沙希を見てソ
   ワソワしている部員たち。

大八木「二学期から転校して、今日から陸上部に入ることになった2年の水島だ」

水島「水島沙希です。前の学校では長距離をやってました。3000メートルの自己記録は9分12秒です」

   部員たちから「速え~」の歓声。

大八木「長距離リーダーは荒山だから、よろしくな。(颯太に)いいな、荒山」

颯太「あ、はい」

   沙希、颯太を見て頭を下げ、ニッコリ微笑む。「劇的な出会い」のお
   みくじの文字が颯太の頭の中に激しく点滅する。突然走りだす颯太。

颯太「アップいくぞ~」

   颯太の後を追う、長距離班の部員たちと沙希。読書感想文の最後の一
   文を思い出す颯太。「向かい風にも負けないよう、力強く走りた
   い」。

颯太「追い風かも」

   ニヤリと微笑み、スピードをあげる颯太。風が砂煙を立てる。              

【完】

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