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【ゆるり胡同暮らし】第4回 春節(その二)

花火や爆竹以外の春節前夜の楽しみといえば、水餃子をお腹いっぱい食べること。
中国の北方で年越しに餃子を食べる習慣があるのは、餃子の「餃」の字と「交」の字の中国語の発音が同じで、「交」にはゆく年とくる年が交わる時という意味があるから、と言われている。
でも私は、それだけではなくて、春節のために集った家族が皆で一緒にワイワイ楽しみながらつくるのに、水餃子がピッタリだからではないかと思う。皮から手づくりすれば、それだけでも皮をこねる人、のばす人、包む人と皆で分担しやすいし、特に包む作業は、皆で一緒におしゃべりしながら進めるのにピッタリだ。さらに中身も、皆で相談しながら味つけをして、交代でよく混ぜる過程も楽しい。
水餃子を皆でつくるだけで、団らんの場がいっそう和むのだ。一緒にテレビを見ているだけの年越しよりも、家族のきずながもっと深まるのではないかと思う。

北京市内には、水餃子を食べたりテイクアウトしたりできるお店が幾つもあり、たいてい店内で手づくりされているので、かなり美味しい。
でもお店というのは、経営を考えるとどうしてもそうなるのか、皮が薄めで、中身の味つけが濃いめのところが多い。
それももちろん美味しいのだけれど、私はやはり、皮が厚めで、小麦粉そのものの味がしっかり感じられるような水餃子が好きだ。それはまさに、家庭の味でもある。

今回の北京の春節は、前回のコラムで書いたように花火も爆竹も楽しめなかったけれど、幸い、ご近所づきあいが濃い胡同暮らしのおかげで、お隣りのおばあさんの手づくり水餃子をいただくことができた。羊肉の水餃子だ。日本では羊肉の餃子なんてめったにお目にかかれないが、北京ではごくふつう。私も大好きだ。
一口いただいて、「これこれ!やっぱりこうじゃなくっちゃ!」と思わずつぶやいてしまった。皮にちゃんと粉の味がして、中身の味つけはほんのり薄めで、口あたりの優しい水餃子。中国の黒酢をつければいくらでも食べれてしまう。
ごちそうさま!ありがとう!
私も今までにつくり方を教えてもらったこともあるし自分でつくったこともあるけれど、やっぱり今度おばあさんにもきちんと教えてほしい。そう伝えたら、いつでも教えてあげるよ、と言ってもらえた。楽しみだ。

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お隣りのおばあさんからいただいた手づくり水餃子

中国では、春節から1週間が公的な休暇となる。その間の楽しみは廟会だ。
廟会は、日本のお祭りの縁日のようなもの。北京市内でも、あちこちの公園や寺院などで開かれる。
私にとって廟会は、北京の昔ながらの伝統的なおもちゃや置物と出会える場である。もちろん、市内にも主に観光客向けに中国っぽいお土産を売る店はたくさんあるが、きちんと訓練を受けた職人さんが伝統を受け継いでつくる工芸品をきちんと売ってくれる店はなぜかとても少ない。
だから廟会でそんな品を手に入れて胡同の自宅に飾るのも楽しみだった。
でもそれも今年は、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、一切開かれなかった。私も寂しいが、そんな職人さんたちにとっても、年に一度の発表と販売の場がうばわれてしまうので、きっと困るに違いない。来年は復活してくれることを祈るばかりである。

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北京市内最大の廟会である地壇公園の廟会(2017年1月撮影)
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こんなカラフルでノスタルジックな風車も廟会の定番(2017年1月撮影)
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東岳廟の廟会では人形劇も上演されていて子供に人気(2008年2月撮影)
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瑠璃厰の辺りで開催される厰甸 チャンディエン廟会ではこんな可愛らしいお魚も人気(2008年2月撮影)

著者プロフィール
弥生

2005年から北京に住み始め、2007年から2018年まで11年間、胡同で暮らす。2020年のはじめに帰国してしばらく日本に住んでいたが、2021年11月に北京に帰ってきて、再び胡同暮らしを始める。
インスタグラム@march_nzで胡同の写真などを投稿中。

*胡同(中国語読みで「フートン」)とは、故宮を囲む北京中心部の旧城内に、ほぼ碁盤目状に巡らされた路地のことである。

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