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【映画感想文】「パーフェクト・デイズ」を観たら、生きる活力が湧いた

みなさん、こんにちは!アメリカの栞・かんなです。

先日、ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演で話題の映画「Perfect Days」を鑑賞してきました。

結論から言うと、自分でも想像していなかったほど、感動して未だに余韻に浸っています。この余韻が冷め終わらないうちに、映画感想文を残そうと思います。(以下ネタバレを含みます)

キャッチコピーは「こんなふうに生きていけたなら」

一言あらすじ

「東京都渋谷区の公共トイレの清掃員として働く平山のごく平凡な日常にある木漏れ日のような些細な感情の起伏と幸せを描いた作品。」

正直、この映画には、プロットというプロットはありません。何か特別なことが起きるわけでもなく、何なら起承転結さえもない。ただ純粋に、役所広司演じる主人公・平山の繰り返される日常を、ドキュメンタリーのように写した映画です。

それだけを聞くと、何だか味気ない映画に思えるかもしれません。ですが、どのシーンを切り取っても、映像、音楽、演技、全ての表現に趣があって、その魅力は語りつくせません。

余談ですが、主人公の平山は私の父親を彷彿させました。住んでるアパートの雰囲気、質素な生活を好むところ、作業が丁寧なところ、銭湯に通うところ、口数が少ないところなど、なんか似てるかもと感じました。まぁ、こんなにイケおじではないですけどね…😅

朝のルーティンと、自販機で買うカフェオレ

夜が明ける前に近所の老女が掃除する竹ぼうきの音が響く。
それが聞こえると男はすっと目をあける。

少しのあいだ天井をみつめる。おもむろに起きあがると薄い布団を畳み、
歯を磨き、髭を整え、清掃のユニフォームに身をつつむ。

車のキーと小銭とガラケーをいつものようにポケットにしまい部屋をでる

ドアをあけて空をみる。
スカイツリーをみているのか。光を見ているのかはわからない。

缶コーヒーを買うと手作りの掃除道具をぎっしり積んだ
青い軽にのって仕事へむかう。

いつもの角でカセットテープを押し込む。
カーステレオから流れてくるのは
The Animals のThe House of Rising Sun。

公式サイ

この平山の朝のルーティンを描くシーンで私が好きなのが、自販機で缶コーヒーのカフェオレを買うところです。見えない人との繋がりと、朝のささやかな贅沢を感じるからです。

その自販機は、壊れかけていて、平山以外に使っている人、もしくは補充や管理をする人がいるのか疑わしくなるほど古びているのですが、カフェオレは売り切れることはなく、毎朝しっかり補充されています。

トイレの清掃という私たちの生活で見えにくい仕事であると同様に、自販機の補充や管理も私たちの生活で見えにくい部分だと思います。それでも缶コーヒーが補充されているということは、誰かが補充していれているから。その見えない誰かの生活や行動を間接的に感じて印象的でした。

あと、この缶コーヒー、スーパーで買えば、もっと安くまとめ買いできるじゃないですか?朝イチの自販機で買うコーヒーは、結構割高だし、だからこそ日本人なら理解できるささやかな贅沢の一つな気がします。

憶測ですが、私はそのカフェオレはミルキーで甘いやつなんだろうなと想像しました。何でそう思ったかというと、私の父が缶コーヒーを買うときに甘くてミルキーなカフェオレを選ぶからです。笑。

あと、コーヒーのチョイスって実はその人の趣味嗜好もよく表してると思います。ブラックコーヒーを飲む人は、こだわりが強かったり、ストイックな印象で、スタバのフラペチーノを飲む人は、流行に敏感な人だったり。

カフェオレを選ぶ人は、ホッとする気持ちを大事にする人、なんじゃないかなぁなんて勝手に想像してます。

時間が一瞬止まる木漏れ日

平山はお昼ご飯の時間になると、決まった神社のベンチに腰をかけて、コンビニで買ってきたパックの成分無調整の牛乳とサンドイッチを食べます。

そんな平山の癒しは、木。太陽に照らされた木を見つめながら、お昼ご飯を食べ、食べ終わるとまた上を見上げて、木漏れ日をフィルムカメラで撮影します。

木漏れ日を見上げ、幸せを感じる平山

忙しい毎日の中、ふっと思って空を見上げると、空があって、木があって、太陽の光に透けた葉っぱとその揺れる影がたまらなく綺麗で、世界が一瞬止まるような瞬間。その一瞬、なんかちょっと生きててよかった、と幸せに感じる時があります。

私は趣味で写真を撮ることが好きだから、余計にそう思うのかもしれませんが、毎日ふっとした瞬間に見えた景色が、時にたまりなく綺麗で、それをフレームに収めたい、脳に焼き付けたいって思う瞬間がたまにあります。

ちなみに、平山が使っているフィルムはモノクロ。モノクロの写真は、単色で、光と影の濃淡(グラデーション)で成り立ってると思うのですが、まさにそれって木漏れ日特有の光の濃淡をキャプチャするには一番最適ですよね。

Adobe Photo

突然訪ねてくる姪のニコ

そして、ある時、ニコという平山の姪が訪ねてきて、平山の仕事についてきます。その日のお昼ご飯は、やっぱり牛乳とサンドイッチなんですが、ニコは、円柱形の容器に入ったいちごミルクを飲んでるんですよね。その対比が、とってもリアルで良いなぁと印象に残りました。

パックの成分無調整の牛乳を飲む平山と、今どきのいちごミルクを飲むニコ

この映画を見ていると、平山の世界と日常にどっぷり入ってしまうので、常に平山の目線になりがちなのですが、こうしてニコという若い小学生ぐらいの女の子がいちごミルクをチョイスして飲んでいることで、平山のいる世界線に、実は平山だけではなくて、多種多様な人間が存在し、生活していることを感じたワンシーンです。

同じ毎日のルーティンと、少しの変化を楽しむこと

平山の生活は、「同じ」ルーティンが続きます。

同じ缶コーヒーを飲んで、
同じ服を着て、
同じお昼ご飯を食べて、
同じ銭湯に通い、
同じ居酒屋で夕食を食べる。

正直、わたしはこんな人生を生きたいかと聞かれたら、ちょっと違うと思う。

だけど、私も、平山のように同じ毎日でも小さな変化や小さな幸せを大事にする人生を生きたいなと思います。

同じ毎日でも、自分だけの楽しみを見つけて、それを精一杯大事に出来たら、すごく幸せなんじゃないかなと思います。

最後に

パーフェクトデイズは、だいぶ美化されたおじさんの生活を描いた映画でもあります。

実際、トイレの清掃員として働く中年の男性に目を向けようとする人はいない方が多数で、毎日コンビニでお昼ご飯を買って、夜は居酒屋で夕食するほどリッチな清掃員はいないと私は正直思います。

だけど、それでも、この映画を見終わった後、疲れた心にじんわりエネルギーが満ちてくるのを感じました。ちょっと心が疲弊してたのもあるかもですが、また明日生きる活力が湧いてきたんです。

最後のシーン。
流れるのは、Nina SimoneのFeeling Good。その歌詞で締めたいと思います。

It's a new dawn, it's a new day
夜が明けて、新しい1日が始まるわ
It's a new life for me, yeah
私の新しい人生が始まるの
It's a new dawn, it's a new day
夜が明けて、新しい1日が始まるわ
It's a new life for me, ooh
私の新しい人生が始まるの
And I'm feeling good
今、最高の気分よ

作詞作曲:Anthony Newley and Leslie Bricusse 1965年「Feeling Good」 
和訳:アメリカの栞かんな

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