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夢から目覚めて

夢をみていた。
起きたら13時を過ぎていて、お腹が空いていた。
一度7時ごろに起きたのだが、朝食を食べた後にまた寝てしまったことを思い出した。
外を見ると曇り空が広がっていた。最近やたらと雨が降る。
そういう日は気分も落ち込むものだが、今日はさっきまで見ていた夢の余韻が残っていて、安らかな気持ちでいることができた。

いい夢だった。
夢に出てきたのは、私が昔ずっと好きだったひとだった。
彼女は高校の同級生だ。
他にも、なぜかその子と特に仲良かったわけではないが同じ高校の同級生の女の子、そして私の元いた職場の同僚の男が一緒にいた。
相変わらず夢の脈略ってのはよくわからない。
夢ではその4人で遊んでいた。
私と同僚は終始ふざけていた。女性2人が美人なので張り切っていたのかもしれない。
その2人も楽しそうだった。私が好きだった彼女は実際に見たことがないほどリラックスして、心から笑っていた。
とてもいい夢だった。


しばらくベットに横になったまま、夢の余韻に浸っていた。
そして夢の中の彼女のことを考えていた。
まるで枷が外れたような、とことんリラックスして少しの無理もない笑顔。
そこには、ありのままな自然さだけが出すことできる妖艶さが漂っていた。

それから昔の彼女の笑顔を思い出した。
高校生の頃の彼女はいわゆる優等生タイプで、ほんの少しだけ無理をしている感じがしたものだった。
とはいえそれは、ガッチガチな感じではなかった。部活動や学校行事も楽しんでいたし、友達もたくさんいた。
少なくとも高校時代においてそれは、他人から見てどうというよりは彼女自身の中での「つっかえ」のようなものだったと思う。
例えるなら、自由奔放さへの憧れのようなものだった。
その「つっかえ」は彼女の親友への眼差しに特に現れていた。
彼女の親友ははつらつとしたタイプで、思ったことははっきりといい、男女ともに活発に付き合うタイプだった。
それに対し彼女は、普通に色々な人と仲良くはできるが、どこか距離を置きがちというか、とても薄いが破るのが難しい殻をまとっているようだった。
ある日の放課後の教室を思い出す。
その時、彼女の親友が屈託なく皆と話す様子を彼女は遠巻きに眺めながら、ボソッと「いいな〜」とつぶやいていたのを偶然きいたのだった。

大学生になって再会したとき、私は彼女が高校の頃よりももがいているように感じた。
そして自身を覆う殻から抜け出そうするが、なかなかできないそんな自分を好きになれずにいるようだった。

彼女との再開は本当に偶然で、高校卒業後、もう会うこともないかもしれないと思っていた私は本当に嬉しかった。そして私たちの距離は高校の頃よりグッと縮まった。
彼女は地元の実家から大学に通っていたのに対し、私は上京してしていたためしょっちゅう会えるわけではなかったが、地元に帰るたびに彼女に会い、彼女も東京に遊びに来ると会ってくれた。
電話も頻繁にした。お互い、翌日の午前中から授業やバイトがあるときも夜中の3時や4時まで話し込んだりした。
本や映画で心に残っているものや、最近のおすすめの感想や意見。
大学であったこと、バイト場のこと、友達のこと、家族のこと。
過去のこと、現在どんな状況か、将来どんなふうになりたいか。
すごく個人的なことを真剣に話し合ったり、くだらないことで笑い合ったりもした。
そんな中で時折、彼女は精神的にまいっている時があった。原因は主に彼女のお母さんとの喧嘩だった。
彼女の母親は、娘を自分の理想に近づくように育てたい側面がある人のようで、自分を変えたいと願っていた彼女とたびたび衝突していたのだ。
そんな時は、私も同じような経験があったため話を聞きながら時折アドバイスをしたりもした。
もちろん私自身のこともたくさん話した。自分の本当に深い部分まで誰かに話したのはそれが初めてだったが、彼女は真剣に聞いてくれた。
そんなふうに、寝不足になりながらも幸せな時間は過ぎていった。

しかし、私にはわかっていた。彼女は私のことが好きなわけではないのだと。
なぜそう思ったのか聞かれると少し困るとこがある。
具体的な出来事があったわけではないからだ。でもそれは私の中でははっきりしていた。
同時に彼女が私に求めているものが何なのかもわかっていた。
それは恋愛の相手というよりは、彼女がまとっている殻を、「今の自分」を壊してくれる何かだった。

だが当時の私はとても弱かった。
その頃、経済的に余裕のなかった私にとって東京での一人暮らしは厳しく(いいことも沢山あったが)、将来に対する不安もあり自分のことで精一杯で弱気になっていた。
だから自分より恵まれた環境(だと当時私が感じた)で悩んんでいる彼女に対し、心から心配しつつも、相談を聞くことに疲れを感じる時があった。それで一度、彼女を突っぱねてしまったことがあった。

また、臆病でもあった。
現在の絶妙に微妙な関係性が壊れることを恐れていた。本当の意味で恋愛対象として求められていないと分かっているからこそ、このままずっと今の関係が続くことなどないと理解していても、そこから一歩踏み出せずにいた。

そしてさらに、無駄なプライドも邪魔をした。
彼女は私にとって本当に特別な存在だった。
でも彼女にとってはそこまでではなかった。
親しい友達で、もしかしたら異性としても意識していてくれたかもしれない。
でも当時の私には、彼女が自分自身を克服するために私を必要としているという側面がやたら大きく見えた。
私はそれをチャンスと考えることも、ただ無心に彼女の支えになろうともできず、彼女にとっての私が、私自身が望むような存在でないことが許せなかった。
そして彼女の期待に沿うことで、それを実感することが怖かった。

私はあまりにも小さな人間だった。


昼下がりのベットに横になったまま考えた。
もし私がもっと強く、大きな人間だったら、私たちの結末は今とは違っていたのだろうか。
もしあの時、臆病な自分を捨てられていたら、彼女が本当に私のことを好きになってくれるなんてことがあっただろうか。

いや、重要なのはそこではない。結果なんて関係ないのだ。
彼女にとっての自分がどうかなんて考える前に、私は彼女のために自分の全存在をぶつけるべきだった。
そして、私が彼女を笑わせるべきだったのだ。
今日の夢の彼女のように。


あれから何年が経っただろう。
彼女とは時々ラインでメッセージのやり取りをするものの、長いこと直接会ってはいない。
最近連絡があり、結婚したことを報告してくれた。
本当に幸せだそうだ。
だから、私の失敗は結果オーライではある。
彼女が幸せでいてくれることが何よりなのだから。

しかし、小ささと弱さゆえに、彼女に全身全霊で向かい合えなかった自分自身を忘れるつもりはない。
もしあの時に戻れるのなら、、、そのように考えることに意味はないとわかっている。
だからもしこれから先、大切にしたいと思える人に出会えたなら、次は間違わないようにする。
自分の弱いところも、情けないところも全部さらけ出して、相手のそういうところも受け入れる。
そんな自分になりたいと思う。

最後に。
今回の内容からわかる通り、彼女にはあの時はごめんと言いたい気持ちはある。
でもそれ以上に彼女との思い出は、やはり美しいものばかりだ。
今でも当時のあらゆる情景や彼女の表情、仕草、話したことを鮮やかに思い出すことができる。
むしろ、後悔していることも含めて私の宝物だと言える。
彼女にとってもそうだと思いたいが、まあ流石に世の中そんなに甘くはない。
だからもし彼女にまた会う機会があれば、ただ、ありがとうと伝えたい。

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