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参院選で注目された「組織」 (京都民報9月4日掲載)

選挙を担った「組織」

 参議院選挙は、「自民、組織票減らす」(毎日、7月14日)、「弱る組織力」(朝日、7月22日)など、選挙を担う「組織」にスポットを当てた報道が盛んだった。自民党をはじめ、立憲民主党、公明党、共産党、国民民主党などが軒並み比例代表で議席を後退させたり伸び悩んだりしたためだ。

 自民であれば日本遺族会や全国郵便局長会の政治団体、立憲民主や国民民主であれば連合系労組など、よくも悪くも戦後日本の選挙を担ってきた「組織」が影響力を低下させ、与党対野党共闘の構図も弱まる中、新興政党がその間隙を突いて進出してきている。これに対して市民運動家や選挙ボランティアが「組織」の穴を埋めようとしているが、まだ十分ではない。

保育所での「応援している政党」の有無

 参院選の期間中、大阪府内のある保育所(在園100世帯)の保護者に、「応援している政党はあるか」という質問を対面で行い、52人から回答を得た調査によると、何らかの支持政党があると答えた人は5人で、共産3人、国民民主2人という結果だったという。

 共産支持の3人は親戚が民主団体の会員であったり、共産関係者とつきあいのある職場を経験したりしていた。国民民主支持の2人は、家族が連合系労組の組合員で、組織内候補を応援していた。5人とも何らかの労組や団体などとつながりがあることが特徴である。あくまで一つの保育所での調べであるが、団体や労組が主権者と政党や政治をつなぐ役割を担っている一端がわかる。

 逆に団体や社会運動と関わりがなければ選挙における選択の基準を持ちづらく、メディアの影響を受けたり、がんばっているように見える政党や候補に投票したりする可能性が高くなると考えられる。

ある公務労組の例

 選挙における「組織」の課題は、構成員の減少だけではない。政治や選挙について日常生活の中で話し合う場面が希有になっており、政党や候補への支持を呼びかける活動に躊躇する構成員が少なくなくなっている。

 一方で工夫をしながら組織内外に政治参加を広げた、ある全労連に加盟する公務労組のとりくみを紹介したい。同組合は政党支持の自由を守りながら、職員に積極的な投票行動を呼びかけてきた。しかし、運動を担ったベテラン組合員が退職するとともに、仕事が忙しく職場で日常的な会話さえ十分できない中で、政治や選挙の話をすることが困難になってきている実態があった。

 また昨年の衆院選で、「働き方をよくしてくれると思って維新に入れた」という若い職員の声がいくつか報告され、働き方や生活の課題と政治選択が結びついていないことを感じたという。

主権者と政治を結ぶ回路として

 同組合は、職場内で組合員に足を踏み出してもらおうと、初めて国政選挙用のA6サイズパンフレットを作成し、表紙に「職員同士であれば、誰でも自由に配布できます」と明記して安心して配布できるように配慮した。また、政治によって職場がどう影響を受けてきたのかを示すとともに、組合の請願に対して各党がどんな態度をとってきたのかを一覧にし、職員の要求と選択を結びつけることを意識したという。

 「『選挙に行ってね』と言って渡すと、じっくり読んでいる人がいた」「連合の組合員から『わかりやすい』と言われた」「『公務員は投票に行ってはいけない』と思いこんでいた職員にも声をかけることができた」などの報告が相次ぎ、衆院選や前回参院選と比べて職員対話数を大きく前進させることができたそうだ。組合には、「次は全職員に配布できる部数を用意してほしい」という積極的な意見が寄せられている。

 政党や議員だけで、多数の主権者に政治の情報を届きることはできない。同じ立場の主権者多数に持続的に働きかけられるという点で、「組織」は市民運動にない影響力を持っている。また「組織」が呼びかける運動を通じて、メディアによる争点設定ではなく、人々の要求から争点を提示し、選択を呼びかけていくことができる。主権者と政治を結ぶ回路として、「組織」の役割に期待したい。

(京都民報 2022年9月4日号掲載)