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【エッセイ】ポパイ「車とシティボーイ。」

(写真:ポパイ公式サイト『「車とシティボーイ」発売中!』(2023.06.28, 2023.0701閲覧)から引用、下記リンク先)

 僕はほぼ毎日コンビニを利用するんだけど、必ず雑誌の棚を確認する。例えば『ポパイ』や『ブルータス』は定期購読しているわけではないけど、好きな題材が取り上げられていれば手に取る。
 どちらもマガジンハウスからの出版で、僕のお気に入りだ。雑誌づくりに強いこだわりを感じるし、何より一目見た瞬間に「紙の雑誌・ムックが欲しい!」と思わせるブック・デザインが良い(あの素晴らしき村上春樹『村上T』2020の出版元でもある)。
 そんなマガジンハウスから最近出版されたムックを、皆さんは御覧になっただろうか?『車とシティボーイ。』というタイトルの特別編集版だ(2023年6月28日出版)。

 これは『ポパイ』842号(2017)と902号(2022)に掲載された内容を再編集したものだ。まず目に入るのは何よりカバー・イラストだ。どことなく川瀬巴水・吉田博・土屋光逸など大正の新版画のような印象を感じる。色塗りのむらがなく、陰影がはっきりしていて、線がシャープではっきりしている。
 イラストは、クシシュトフ・ノヴァクというポーランドのイラストレーターが描いている(同名のサッカー選手がいるらしい)。ちなみにノヴァク氏は以下のサイトで著作を公開している。僕は、マリーゴールドのオレンジみたいな色のオペル・カリブラ・ツーリングのイラストが好きだ。

 タイトルにあるようにもちろん「車」がテーマなのだけど、メインは「クラシックカー・中古車」だ。様々な界隈で働く人々の愛車を紹介しているのだけど、ほとんどがクラシックカーだ。
 「ポパイの名車図鑑」から始まる一連の章ではまずVW・ヴァナゴン’84から始まるし、マイカー探しという項目でも中古車販売店が紹介されているし、色が変わった特集ページもBe-1やパオ、フィガロのパイク・カー紹介だし、「映画の中の車。」で紹介されるのも当然クラシックカーだ。とにかく隅から隅までクラシックカーでぎちぎちに詰め込んだムックなのだ。
 僕は「車好き」と豪語できるほど詳しいわけではないけど(アマゾン・プライムでBBC「トップギア」を好んで観る程度だ)、デザインで言うとクラシックカー好きなので、読んでいるだけで動悸が激しくなってきてしまう。
 例えばムックで紹介されている車で好きなのは、VW・タイプⅠ(ビートル)、ホンダ・シヴィック ’76、VW・ゴルフ2 ’88、ボルボ・244 ’83、日産・Be-1 '87、日産・パオ '89、日産・フィガロ '91、ローバー・ミニ、サーブ・900 '79などなど。
 僕は車の好みが極端で、ボディが四角か、角が丸っぽいかどちらかである。ヘッドライトも真四角か丸型が好きだ。ただしボンネット、フロントミラー、ボディ…としっかり分かれているのが前提である(僕がプリウスをどうしても好きになれない理由だ)。

 雑誌にあるように、クラシックカー好きだから僕も趣味が良い古い車に乗っているかというとそうではない。僕が乗っているのは、黒のトヨタ・タンクだ。とくに珍しくもないトール・ワゴンで、類似車があまりに多すぎる。トヨタ・ルーミー、スバル・ジャスティス、ダイハツ・トール、スズキ・ソリオ……。
 運転していても、もちろん面白くない。エンジンは996ccしかないし、僕の乗っているのはグレードが低いのでもちろんターボなんかない。トラクターに大差で負けるような馬力しかでないし、運転席がマッサージ椅子みたいに細かく振動し続けて、絶えず下腹部と腰部にダメージを与え続ける(僕は今年の初めコイツと仕事のダブルパンチで実際に腰を痛めた)。田舎の悪路のせいか車のせいか起伏にはめっぽう弱いし、たぶんサスも全体的に悪い。燃費もそんなに良くない。
 中でもアイドリング・ストップは殊更ひどくて、ブレーキを踏んで停止するたびに秒数のカウントダウンが始まって、「ジジジッ」とエンジンがまた起き、またカウントダウンが始まる。「ジジジッ」…00:01,00:02,00:03…「ジジジッ」…00:01,00:02,00:03…「ジジジッ」…。ただブレーキを踏んで信号待ちをしているだけで何故こんな仕打ちを受けなければならない?「真夏のセミ現象」と勝手に呼んでるこのアイドリングを聞きたくなければ、乗るたびにスイッチ・オフにしなくてはならないのだ。
 このタンクは、レンタカー落ちの中古車で100万きっかしだったし、すでに5万km走っているしで、仕方ないのかもしれないけど、日々感じる不満はとうの昔に越えてしまって今は悲しくなってくる。教習車として乗っていた真っ赤なマツダ・アクセラが懐かしく思えてくる。僕は日々中古車のサイト(カーセンサーなど)を見て「いいなぁ…」と半分脳を溶かしながら指をくわえている。
 でも、実際的な話をすると、クラシックカーに乗るのは難しそうだ。買うのは良いけど、その後のメンテナンスはどうするのか、純正の交換部品はそもそもあるのか、維持費用はどれくらいかかるのか、修理期間は……現実的に考えれば考えるほど「難しい」と思わざるを得ない。
 結局、次に買うとしたら古くても10年前くらいのモデルで、100~120万くらいのかなという現実的な考えをしている。次こそは少しはまともなエンジンを持った車、欲を言えばセダンに乗りたい。スバル・インプレッサ、カローラ・アクシオとか、もうマツダ・アクセラでも良いよ赤色でなければ、となりつつある。悲しいかな。

 でも何だかんだ文句・不満を言いつつ、しばらくは今のタンクに乗るだろうなと僕は思う。「タンク」の名の通り、容量は多いし、成人男性4人乗っても空間にまだ余裕があるし、息が詰まることもない。僕はガタイが良いほうなので運転席回りに余裕があるのも良い(タンクを買うときアクアに試乗したけど窮屈で死ぬかと思った)。ターボなしでもアクセルを踏んでスムーズに加速するのは少なくとも悪くはない(ただしブレーキを踏んで停止した後、ドライブに入っているのに時々勝手にニュートラルになって踏んでも一向に反応しない時があり、右折する時に困る。後続車がいると本当に困る。クラクションも鳴らされるし、冷たい視線を一身に浴びることになる。本当に困る)。
 まったく、どうやら僕は一生「シティボーイ」とやらにはなれなさそうだ。

 それはさておき、『ポパイ特別編集 車とシティボーイ。』は本当に面白く興味深いムック本だ。雑誌って次の新刊が出るまで1、2回読んだら終わりという印象だけど、このムックは何回でも読みたくなるし、ディスプレイの1つとして飾るためにもう1冊購入しようかと思ったくらいだ。マガジンハウスにはこういう本・雑誌づくりを続けていって欲しいし、僕も消費者としてそれに答えたいと思う。「紙」媒体の本・雑誌文化の火が消えないことを祈る。


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