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「椎茸嫌い」が覚醒する干し椎茸の出汁 -炊き込みご飯のレシピ-

「ごちそう」に認定された炊き込みご飯

子どもにとって「お弁当に何を入れるか」は「遠足のおやつに何を買うか」と同じく重要な問題だ。お弁当が日常化する高校生はいざ知らず、保育園児や小学生にとって「お弁当」はきらきら輝いている。普段は給食でみんなと同じものを食べるが、お弁当の日は遠足とか運動会とか。「特別な日に食べるボクだけ、ワタシだけのごはん」なのだ。

作るこっちも自然と気合いが入る。このときばかりは栄養バランスなんか気にしちゃいられない。とにかく息子の好きなものだけで弁当箱を埋め尽くしたい。だから、息子のお弁当は「サプライズ」ではなく「事前リクエスト方式」にしていた。

今度のお弁当、何がいい?と尋ねる。息子の答えはそんなに変わらない。年に数回あるかないかのお弁当だから「冒険はしたくない。確実においしいものを食べたい」と考える子だ。

食が細かった頃のリクエストは「わかめごはんのおにぎり、だし巻き卵(息子は"ママ卵"と呼んでいた。天使か)、ハンバーグ、きゅうり(小さなキューブに切ってピックでとめてマヨネーズをかけたもの)。甘いプチトマトは別添え」が定番だった。

そこにやがて加わる選択肢が「パニーニ」。いきなりイタリアかい? でも、息子にとって「パニーニ」には思い入れがある。外食先でまだあまり食べられるものがなかった頃、セガフレードで食べたハム&チーズのパニーニがいたく気に入り、最初は「ちょっとらけ」とおそるおそる口にしたのに、結局完食。なんなら「もうひとちゅ食べたい」くらいの勢いだった。家でもたっぷりハムとチーズをマフィンに挟んでこんがり焼き、「パニーニだよ」と出したら、それが彼にとってのスペシャルになったのだ。

小学2年生の運動会でリクエストされたのは「ムサカ」と「キッシュ」。今度はギリシャとフランスかよ。これも息子にとってはスペシャルな料理なんだけど、話せば長くなるからやめておこう。また別の日には「うなぎ」(弁当箱いっぱいに白米を敷き、その上にうなぎの蒲焼きをのっけて鰻重にしたった。めちゃ楽だった)、「チャーハンと餃子と回鍋肉」という「気の利いた中華料理店か!」というリクエストもあった。

いやしかし、早く炊き込みご飯の話をしよう。要は、パニーニやムサカや中華料理店に並ぶ「ごちそう」にランクインしたのが、炊き込みご飯だったのだ。

小学3年生の頃だったろうか。数日後にお弁当を持参する行事があり、いつものようにリクエストを尋ねたところ、「おにぎりいっぱい」と殊勝なことを言う。オッケーオッケーと安心していた私が、前夜、息子が寝る前に「明日はお弁当だね、楽しみだね」と余裕で声をかけると「うん!炊き込みご飯のおにぎり!お弁当箱ぜ〜んぶ炊き込みご飯にしてね」と言われたのだ。

・・・へ? ちょっと待て。白いごはんじゃなくて炊き込みご飯だったの!?!?

言葉足らずの息子を責めても仕方ない。なにしろ彼の脳内は今、「明日のお弁当」すなわち炊き込みご飯で満たされている。炊き込みご飯が、パニーニにもムサカにも中華料理店にも負けないごちそうとして君臨しているのだ。かわいいわが子のいたいけな期待を裏切るわけにはいかない。

しょうがと塩をもみ込んだ鶏もも肉、油揚げ、
大きめみじん切りの人参、それよりさらに小さい椎茸。
わが家の炊き込みご飯の具はこれが定番。たまに蓮根も。

急いで冷蔵庫を開ける。大丈夫、鶏肉も人参も油揚げもある。よかった。
でも一番大切なあいつは? 
あいつがないとうちの炊き込みご飯は始まらない。 

小さく刻まれた椎茸が裏で果たしている重大な役割

以前、椎茸まみれの押し寿司を考案したときにも書いたが、私は椎茸が食べられなかった。

でも、唯一好きだったのが「干し椎茸で出汁を取った、母の炊き込みご飯」だ。そう、炊き込みご飯に欠かせない「あいつ」とは、干し椎茸なのである。

母は当時、具材としての椎茸は小さく小さく、わからないくらいに切り刻んでくれたけれど、これはむしろおまけ。干し椎茸が主役級に活躍するのは「出汁として」だ。だからこそ、代用がきかない。

両親は椎茸を裏山で育てていた。とても大きくて立派な椎茸だった。

私以外はみんな椎茸好きだったから、家族は生の椎茸を焼いてお醤油をかけて食べていたが、私はどうしてもダメだった(今は食べられるよ)。うちの椎茸は雨が降った翌日などはホントにおもしろいほどニョキニョキ増えているので、生で食べきれないやつは天日にあてて、干し椎茸にしたものだ。

椎茸好きの母から教わった炊き込みご飯のコツはたったひとつ。

干し椎茸はお湯で戻さんこと。
お水につけて一晩置いとけば、それだけでおいしくなっとるよ。

私はもちろんそれを守っている。一晩置くだけだからじつは本当に簡単で、実際とてもおいしいことを知っているから。

でも母は、裏技も教えてくれた。

どうしても「今すぐ椎茸出汁が使いたい」というときもあるよね。そういうときはしょうがないからぬるま湯。でも出汁がちょっと弱いはずじゃから、液体出汁をちょっとだけ足しんさい。

明日の朝早く、息子に持たせる炊き込みご飯。
一番いいのは、夜のうちに椎茸出汁の準備をしておいて、明日の早朝に炊くことだろう。や、でも、ごめん。そんな早起きは母さん無理! 

今日のうちに炊いておこう。

ということで、このときは裏技を採用して、夜のうちに炊いておいた。ぬるま湯で出汁を取り、液体の白だしも加える。味付けは醤油と日本酒をほんの少し。鶏肉にすりこんだ生姜もほどよく効いている。

残念ながら今のところ息子も椎茸が苦手なので、もちろん小さく小さく切り刻んだ。

こうして、真夜中にできあがった炊き込みご飯。あまりにもいい匂いがして、ひとくち味見のつもりがお茶碗に軽く一杯は食べてしまった。
よかった、おいしくて。

べったら漬けと一緒に食べるとやたらおいしい。

息子のお弁当には、焼きおにぎりにして詰めた。

帰宅した息子から「炊き込みご飯、おいしかった!」と手渡されたお弁当箱は空っぽ。米粒ひとつ残さず、きれいに平らげられていた。

炊きたてもおいしいけど冷めてもおいしい。それが炊き込みご飯のいいところ。「お弁当のごちそう」にももってこいだ。

今夜のわが家は、炊きたて熱々の炊き込みご飯をいただきます。
たくあんとべったら漬け、それにみそ汁があればそれだけでごちそう。

もちろん干し椎茸は昨日の夜から冷蔵庫で旨み放出中。

*干し椎茸出汁の炊き込みご飯レシピ*

材料
・米3合 
・鶏もも肉 1〜2枚(お好みで。私は2枚入れます)
・人参 1/2本
・油揚げ 1枚
・干し椎茸 2〜3個(小さいものなら多めに)
・おろししょうが 大さじ1(もも肉1枚につき)
・醤油、日本酒、塩 適量

作り方
前日:
干し椎茸は水120〜150cc程度と一緒にボウルやバットに入れ、冷蔵庫に入れて一晩置いておく

当日の下準備:
・鶏もも肉は筋を取り、食べやすい大きさに切って、おろししょうがと塩少々をもみ込んでおく
・椎茸は水気を切り(この出汁が重要なので捨てないで!)、細かくみじんぎりにする
・人参は皮を剥いてみじん切りか短冊切りにする
・油揚げは細切りにする
・お米を研いで水を切っておく

1)米、椎茸、人参、油揚げを炊飯器に入れる。椎茸の戻し汁を計量カップに入れ、そこに水を足して「カップ1」にしてから炊飯器に加える。残りの水は規定通りに足す。
※液体だしを加える場合は、それも水の分量として考慮しましょう。
2)醤油と日本酒少々を加えたら、具・米ごと木べらでひと混ぜする
※私はここでいったん液体のみを箸の先につけて味見します(なので、鶏肉はこの後に入れるようにしています)。味が薄いようなら、醤油や塩で味を調整しましょう。わが家はちょっと濃い目の炊き込みご飯が好きなので、醤油はけっこう効かせます。
3)もも肉も加えてもうひと混ぜしたら、普通に炊飯する。

醤油が入っているからお焦げもできやすい♡
ちなみにわが家は圧力鍋で炊いています。


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