見出し画像

朝日や毎日の集団接種システム欠陥指摘のための偽予約行為は「極めて悪質な行為」なのか

新型コロナウイルスワクチン接種の自衛隊大規模接種センター予約のシステムに、適当な数字や生年月日を入力しても予約できてしまうという欠陥。これを検証して指摘したのが、毎日新聞と朝日新聞出版AERAdot.である。当該に記事は、以下のものである。

・AERAdot.の記事:【独自】「誰でも何度でも予約可能」ワクチン大規模接種東京センターの予約システムに重大欠陥
・毎日新聞の記事:大規模接種ウェブ予約 架空の数字で登録可 券番号も、年齢も

これによって、

AERAdot.編集部で東京の予約サイトで試してみると、6桁の市区町村コードには「654321」、10桁の接種券番号には「9876543210」と適当に番号を入力。生年月日も「1956年1月1日」と適当に入力したところ、そのまま進めて、5月29日8時から予約が取れてしまった。(中略)6桁、10桁未満だとエラーが出たが、それを満たせば予約が取れるというセキュリティ上の“欠陥”があるのだ。(編集部で取った予約は現時点でキャンセルしている)(中略)「極論すると、悪意を持った人物が、乱数的に任意の番号を次々と入力し、全ての枠を占拠することすら出来てしまう、危機管理も何もあったものじゃない。杜撰な仕組みです。予約枠だけ占拠して、当日誰も行かなければ、大量のワクチンがムダになりかねない、まさにワクチンテロが出来てしまいます。
実際の接種券に記載されていない架空の数字を入力しても予約ができることを、毎日新聞記者が複数の数字で確認した。予約の対象は65歳以上だが、65歳未満となる生年月日を入力しても予約できることも確認。架空の数字を使って予約枠を「占拠」することもできる…

と、接種券番号や生年月日が適当でも予約でき、予約枠を「占拠」できてしまうというシステムの欠陥が明らかになった。

システムの欠陥の改修は容易ではないようで、今のところ、予約者の良心にたよるというお粗末な状態となっている。

AERA.dotと毎日新聞の記事の公益性の高さ

ただ、この指摘がなければ、システムの欠陥が明らかにならず、システムの改修はよりおくれていただろうし、「占拠」行為など対する警戒心が弱く、監視も行き届かなくなっていた可能性は高い。

これらの記事は、国民のワクチン接種機会が奪われかねず、国民の重要な権利に対する問題を指摘したものである。ワクチン接種予約システムの改善を求め、国民の権利を守るという意味においても、国民の知る権利という意味においても、極めて公益性の高いものであるといえる。

追記:防衛省は、システムの欠陥を認知していたようだが、それを「隠し」「放置」していた、ということのようだ。しかも、AERA dot.(朝日新聞出版)によれば、報道前に防衛省の見解につき、回答を求めていたとのこと。

AERAdot.と毎日新聞の問題は

なお、今回の件でメディア側に問題があるとするならば、それは、不正な予約方法を明記したことである。そこまでする必要があったからわからない。が、両記事をみる限りにおいて、不正な予約に記事をみなければわからないほどの特別な手段は必要ない。むしろ、この記事によって、番号の誤入力など、「うっかりミス」によっても予約がとれてしまう(そして、接種はできない)というシステムの欠陥が明らかになったともいえる。

しかし、仮にこの不正な予約ができる方法を明記したことを問題だとしても、少なくとも「予約行為」そのものは、後に書くように予約後キャンセルしていることからも不利益はなく、また、公益にかなうものであり、問題ない行為であると考えられる(そもそも威力業務妨害等の構成要件該当性が怪しいが、仮に構成要件に該当したとして違法性は阻却されると考えられる)。

追記: 少なくともAERA dot. (朝日新聞出版)は、脆弱なシステムとの情報を得た後、予約前に防衛省とシステム委託先の会社に見解を求め、回答がなく、その上で予約、記事化しているとのことである。(AERA dot. 記事への防衛省の申し入れに対する見解)
これはある意味想像以上に、模範的な対応であり、落ち度はないだろう。

岸信夫防衛大臣の頓珍漢なメディア攻撃

ところが、こともあろうか、岸信夫防衛相は、これら二社の予約行為について「本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為」といい、「両社には防衛省から厳重に抗議」するとのべている。その一連のツイートは以下の通りだ。

自衛隊大規模接種センター予約の報道について。
今回、朝日新聞出版AERAドット及び毎日新聞の記者が不正な手段により予約を実施した行為は、本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為です。(岸信夫Twitter2021/05/18/08:49)
両社には防衛省から厳重に抗議いたします。
不正な手段でのワクチン接種の予約は、本当に希望する方の機会を喪失し、ワクチンが無駄になりかねないと同時に、この国難ともいうべき状況で懸命に対応にあたる部隊の士気を下げ、現場の混乱を招くことにも繋がります。(岸信夫Twitter2021/05/18/08:56)

繰り返すが、岸信夫防衛相は、AERAdot.や毎日新聞が「本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない」と述べている。

いやまて、と言いたい。

まず、この二社には、「本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない」状態を確認した上で指摘し、是正すべきという目的のために予約を行っている。そして、両社ともに、確認後、予約はキャンセルしている。
二社の予約で、仮にキャンセルするまでの一時、予約をできない人がでたとしても、キャンセルすることでその機会は回復されるし、ワクチンが無駄になることはない。(無駄になるのであれば、キャンセル機能に欠陥がある。)

「本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない」のは、明らかにシステムそのものであり、また、「国難ともいうべき状況で懸命に対応にあたる部隊の士気を下げ、現場の混乱を招くことにも繋が」るとするなら、それはこれら二社の行為ゆえではなく、システムの欠陥ゆえである。第一、システムの欠陥を指摘されて「士気」が下がっているようでは、どうしようもない。むしろ、トップである防衛相の無責任な発言の方が、部隊の「士気」を下げよう。

予約による確認行為の公益性>予約による不利益は明らか

岸信夫防衛相の発言は、キャンセルされたことで予約枠が回復しても、その「ごく一瞬の接種機会」が、「政府の瑕疵による接種機会を奪ったり混乱させたりするシステムの欠陥を指摘し、改善を求めること」よりも大切だと言わんばかりである。
指摘されないまま、放置させた方がよかったというのであろうか。それこそ、何にも対策しなくては、国内のみならず、外国からの「攻撃」による「占拠」もありうるだろう。
自らに不利なことがあれば、問題の矛先をなんとしてでも変えたい、という頓珍漢なメディア攻撃にほかならない。

そしてこの発言・ツイートは、憲法上の権利である「報道の自由」や「国民の知る権利」を大いに侵害するものであり、防衛相がそのようなことをするのは、戦前回帰といわれてもやむを得ないほどひどいものである。

安倍前首相の実弟、岸家の跡継ぎでありながら、今回の防衛相が初入閣という事実からしても、少なくとも大臣には不適格な人物であり、そしてこれが日本を守る防衛相のトップだということは、もはや絶望である。


追記:この岸防衛相の逆ギレツイートには、安倍晋三前首相(岸防衛相の実兄)、松川るい議員、杉田水脈議員、長島昭久議員がツイートで、加藤勝信官房長官、そして行政改革・ワクチン接種担当大臣である河野太郎大臣(以上自民党)が同調するコメントを出している。残念ながら、野党も大塚耕平議員(国民民主)が同調ツイートをしている。
追々記:音喜多駿議員(維新)は、AERA dot.の防衛省の「抗議」に対する、理論的かつほぼ落ち度のみられない見解が発表されてからも、なお、報道側を攻撃している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?