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雨の匂い。

思い返してみると、ボクが一番最初に自身の嗅覚の鈍感さを覚えたのは「雨の匂い」だった。

不思議と今まで付き合ってきた女性は、すべて「雨の匂い」のことを好きだと言っていたことを思い出した。

ボクは論理的に考えてしまう癖があるので、雨の匂いは、風上で雨が降っていて、その雨によって樹木であったり土であったりの香りが揮発して風に乗って漂ってくる香りのことなのだと解釈をしている。
その香りを感じられない人は、雨が降り出したアスファルトの埃っぽさなどをそれだと思うのだろうがそうではない。
その香りは、良い香りだと述べているからだ。

風に乗ってかなりの距離を浮遊してくる香りなので、香りの分子は小さいのだろうと推測ができる。
そして、その香りのことを感じ取れる本人に聞いてみると、森に入った時に感じるような「清々しい」という感覚があり、そして「土の香り」のようだと言われる。
その「雨の香り」を感じられる人は少ない。

そして、特に男性には少なく、女性に多い。
統計上、女性の方が嗅覚が敏感な人が多いからだ。

たぶんであるのだが、その「雨の香り」を感じられる人たちは、コーヒーをペーパードリップで抽出をすると、「紙のニオイ」を感じ取ってしまうので、ペーパーフィルターを嫌がる傾向にある。
当店に初めてコーヒー豆を購入する人たちの99%以上の人たちは、普通にペーパーフィルターを使えている人たちなので、99%以上の人たちは「雨の匂い」が感じ取れない人たちなのだろうと分析をしている。

食べ物に好き嫌いがあるのは、一概には言えないのだが、「感覚の敏感さ」が関係しているとボクは思っている。
敏感な人ほど、繊細な香りの情報までキャッチしてしまうため、漂う香りを辿り、その香りの原因を突き止めてしまうのために、心の底から美味しいと言えるものが少なく、そしていつもドキドキしながら注文をしたりしている。
そのドキドキは不安からきているドキドキなのである。
それくらい、劣る香りのする食材が多く、そして管理が行き届いていないことで登場する嫌な香りも実に多いことを感じ取ってしまっているからだ。

しかし、ボクのように嗅覚が凡人の感覚の人たちはその他多数なので、ほとんどのものを美味しく食べることができるのだが、嗅覚が鈍感ということは、非凡なものと普通のものとを区別することもなかなか理解できないものであることも経験から理解をしている。
嗅覚が敏感な人の方が、非凡さを理解できるものだからだ。

そこを気づいたからこそ、ボクは嗅覚を育てていきたいと考えたのだ。
ボクは焙煎士であるため、嗅覚が成長しない限り、良いものを仕入れることも出来ないし、良いローストから登場する、良質な味づくりも出来ないことを意味しているからだ。
しかし、嗅覚が育てば、非凡さを感覚で感じ取れるようになるため、良い仕入れも出来るようになるだろうし、良いローストも出来るようになるに違いないと考え、20年以上前から嗅覚を育てるトレーニングを独学ではあるが、取り組み始めたのです。

そして、JCRC 2018(ジャパン・コーヒー・ロースティング・チャンピオンシップ)にて決勝に進み、日本3位になるくらいまで感覚が成長することができたのです。
 
今では、雨の匂いもわかるようになったし、良質さも感覚で感じ取れるようになったので、昔のように上質なものを素通りすることは無くなりました。
そして、感覚が成長したことで、いろんな美しさを感じられるようになってきた。
美しさとは、身の回りにも沢山存在しているのですが、そこに気づけるのも感覚の感度なのだと気づいています。

だからこそ、ボクが歩んできたテイスティングを学ぶことで、美しさを今以上に感じられるようになってくる。
諦めなければ。


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