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添削屋「ミサキさん」の考察|45|『文章の書き方』を読んでみた⑮

|44|からつづく

具体的な事実を積み重ねる文章の例文はいくつか紹介されているのですが、ここではもうひとつ、物理学者・朝永振一郎の文章を引用しておきます。
絵巻物「鳥獣戯画」についての文章です。

 絵巻は猿や兎が競泳をしている谷川の情景から始まる。そこには豊かな谷水がそうそうと流れていて、動物たちが飛び込んでは泳ぐしぶきの音が実さい耳に聞こえてくるようだ。そして一着になった兎が優勝者の特権でもあろうか、仔鹿にまたがって今しも上陸しようとしている。そのうしろからは二着の猿が水から上がりながら、一着の兎に向って手で水を跳ねかけようとしている。途中で一ぴきの猿が溺れたようで、川の中の大きな岩に助け上げられ、仲間の猿がそれを介抱しているが、岩の上には兎も一ぴき立っていて、ちょっと心配そうな顔つきだ。どうやらこの兎は猿の溺れるのを見、あわてて陸からかけつけたらしく、手に柄杓などを持っている。水に溺れ、たっぷり水を飲んだ猿にまた水を飲まそうとでも思ったのか、とにかく気が転倒し、見当ちがいの柄杓などを咄嗟に持ち出したのであろう。人間でもこういうときやりそうなことである。
 続いて絵巻をひろげて行くと、山や野が時には近く時には遠く移りかわって、やがて秋草の花咲く野があらわれ……

読んでいて思ったのですが、ある絵画をとことん描写するというのは文章を書くとてもよい訓練になりそうですよね。ゆっくり味わい、想像を巡らせながら。そこから物語ができるかもしれない。
やってみたい気がします。
はじめは印象派あたりがやりやすいでしょうか。

絵の描写といえば、野間宏の『暗い絵』がありますね。
青空文庫で探しましたが、残念ながらなかったです。でも、冒頭のブリューゲルの絵の描写はそれだけでも一読する価値があると思います。

|46|につづく

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