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ある夏の一日

knbラジオ「しげちゃんのお話ラジオ」の募集に出して採用された作品。


ある夏の一日

 夏。蝉が鳴き、日差しが強い。焦げそうだ。
「あつい。涼しくない!」
 トカゲは夏バテ中。姿は小さい二本足の恐竜はぼやいている。
 そんな時、空に何かを見つけた。
「アー! 魚が空に浮いている!」
 幻か? 空に空の生き物が飛んでいる。
「わぁー! のってみたいな」
 トカゲは丘の上に走ってゆく。さっきまでの夏バテが嘘のようだ。
「何してんの?」
 着くと、イルカが話しかけてきた。
「のせて! 空に行きたいんだ!」
「のせないよ! 走って飛びなよ!」
 イルカはのせてくれない。
「じゃあ、力づくだー!」
 トカゲは飛び乗ろうとするが、イルカは素早くよける。
「バイバイ!」
 イルカはどこかに行ってしまった。
「他いないかな?」
 途方に暮れる。汗だくだ。
 この後、クジラや魚に頼むが、全て断られてしまう。
「のりたいか?」
 あきらめかけた時、首長竜が来た。
「いいの?」
「夕方までならな」
「やったー! ありがとう」
 トカゲは首長竜にのって空を飛ぶ。
「気に入ったか?」
「うん。なぜ飛べるの?」
「太陽があるからだ」
「どういうこと?」
「太陽が昇る時、海の水を空にまく。そこに道ができて、俺達は羽ばたける」
「お日さまって、すごいんだね!」
 話がはずむ。そうする内に、辺りは夕日に包まれてゆく。
「もう帰る時間だ」
 海の生き物は、帰って行く。
「あっという間だね」
 トカゲと首長竜は丘に戻る。
「お別れだね。楽しかったよ」
「来るか? 海は涼しいぞ!」
 首長竜はトカゲをさそう。
「泳げないから、いいよ」
「そうか。じゃあな」
 首長竜は海へと戻ってゆく。その後姿は夕日に染め上げられて、まるで太陽であるかのようだ。
「ありがとー!」
 トカゲは思わず、大声で叫んだ。
「ありがとー!」
 夕日から首長竜の声がこだまする。
「またねー!」
 トカゲは手を振り、丘を下ってゆく。
 暑い夏の日の終わり。トカゲにとって、忘れられない思い出になるだろう。

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