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イロモノに終わらせない場面描写の丁寧さが光った「おっさんずラブ」と、アクの強い世界観で俳優の魅力を引きずり出した「コンフィデンスマンJP」

2018年4月〜6月クールのドラマ、最終回が出揃いました。今クールはフジテレビ月9を除き21時〜22時始まりのゴールデンドラマ枠には今ひとつ魅力が感じられず、23時〜25時始まりの深夜ドラマ系を見るイレギュラーなクールとなりました。時間帯のこともあってか、かなり個性派揃いという印象です。

▼土曜11:00『おっさんずラブ』(テレビ朝日系) 主演:田中圭

言わずもがな、本サービス「note」運営者様もどハマりしたという作品。関連ツイート数はかの「逃げ恥」を超え、今期最も視聴熱の高かったドラマと言って良いでしょう。全話通して私も楽しく視聴しましたが、正直に言うと個人的にはその熱量までは達すことはありませんでした。理由はあとで述べるとして、まずは良かったところから。

世の中的にトレンドになった牧(林遣都)と春田(田中圭)の恋愛を強烈に応援する空気感や、二人への愛を延々と語る流れには特に共感できなかった。やはり一定数の「BLファン」やその潜在層が強い反応を示しており、単純に自分の潜在意識にBL的なものへの関心が低かっただけかも知れない。逆にあまり触れられない中で素晴らしいと感じていたのはディテールの詰め。いわゆる異色作として強烈な個性を押し出すだけでも成立しそうなところを、シーン一つ一つをきちんと丁寧に描ききっているところに惹かれた。職場シーンではいかにも「熱きお仕事ドラマ風」な音楽が流れ、台詞のトーンも合わせてある。そのパロディレベルの高さと正確さに舌を巻いた。夜景のぼかしをハートマークにしてみたり、各家庭のセットにも細かな描写が効いている。イロモノ的な安っぽさがこのドラマで感じられないのは、もちろんキャラクター達の心情の描かれ方が細やかだったことも大きいが、背景描写が非常に丁寧だったことも大いに寄与していると思われる。背景描写がハリボテ的であれば見る側としても「BLイロモノ」として一歩引いて眺めるような作りになるだろう。徹底的な作り込みがあったからこそ、多くの視聴者が心からストーリーに入り込めたのだと思う。

回を重ねるにつれSNSでの盛り上がりが加速した理由として、視聴者の見方の変化が挙げられる。序盤ではコメディ要素が濃く、見る側もコメディ的な視点を軸にしていたのが、次第に牧をはじめとした登場人物の切ない恋心にフォーカスが当たり、視聴者としても「純粋な恋愛モノ」として捉えるようになっていった。間違いなく制作陣としても期待以上の反応が返ってきたと感じているはずである。そこで一部では「視聴者の反応を受けて、より恋心にフォーカスしたつくりになっているようだ」という推測が出回っているが、仮に内容がある程度視聴者の反応を受けているとすれば、一点どうしても言及せずにはいられない点がある。

本作品プロデューサーの貴島氏は、部長(吉田鋼太郎)の春田へのアプローチについて、Web上で「あれはセクハラでは」という意見が出る中、下記のように語っている。

部長からのラブアプローチはこの時代、一歩間違えるとセクハラ・パワハラと言われがち。でも本当全然そうじゃなくて。部長は今まで男性に恋をしたことがないので、春田への想いはある意味“初恋”のようなもの。つい女子高生みたいにハイテンションになったり、周りが見えず先走ってしまったり、それは端から見たら滑稽かもしれないけれど、片想いをした経験のある人なら誰しも共感できること。あくまでも、誰より心根はピュアなでまっすぐな部長をつくっていくことを心掛けました。
ソース:https://woman-type.jp/wt/feature/9973

これがどうにも引っかかる。念のため先に書いておくが、個人的には牧春よりも部長ストーリーの方が好き。部長の春田への思いは、本来禁忌的なものであるはずなのに、妙に割り切って自信満々な感じが面白い。最終的に牧の元へ送り出すという、引いた愛のかたちも深みがある。加えて蝶子という存在の絶対的な切なさも含めて部長周りのストーリーはもっと深く噛み締められて良いものでは、と思っている。それなのに、細かな描写が邪魔をする。

部長を演じる吉田鋼太郎は強面俳優ながらこの作品の中では最高に愛らしく、もうとにかく愛らしいとしか言いようがない可愛らしさがある。「ぶちょー!」と頭をなでなでしてやりたくなるようなやるせなさと不器用さと自分勝手さが俳優によって素晴らしく表現されているのだが、でもやっぱりそれはあかんやろ、という描写があまりにも多い。ここからは私の意見だが、セクハラ描写問題は「おっさんが恋しちゃうコメディドラマ」として捉えられていた序盤ではさほど気にする必要がなかったように思う。あくまでも笑いの一要素として少々行き過ぎた愛情として盗撮やら夜の呼び出しやらがある状態は、作り手と受け手の間で「あくまでもコメディ」というしきりがきちんと成立している。しかし前述した通り、視聴者の熱は回を重なるごとに高まり、受け手にとって「コメディ的性質」よりも「人間ドラマ的性質」に重きが置かれるようになる。その中で引き続きセクハラを思い起こさせる、通常の職場で発生していたら一発NGな行動を延々と繰り返すのはナシだったと思う。作り手にとっては「可愛いでしょ、笑ってね」要素でも、受け手は既に「真剣な人間ドラマ」として受け取るようになっている段階で、よりリアルな関係性の描写に切り替えるべきだったと思う。視聴者の熱と視点を正しく感じとっていたならば、表現の微調整をするべきであったし、私としてもセクハラ的描写さえ気にならなければもっと作品にのめり込めたと思う。楽しんで見ている視聴者が、作品を褒める際に社会的エクスキューズを並べながら語らなくてはならないのは不幸なことだ。本当に最後の詰めが甘かったと思う、勿体なかった。

とはいえ冒頭で示したように場面描写への手を抜かず、「単なるBLモノ」を逸した大人気作品であることは間違いない。今期ドラマ話題性は第一位。テレ朝ドラマって好きじゃなかったけど、こんな制作陣もいるんだなと見直しました。今後の深夜枠も楽しみ!

▼月曜9:00『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ系) 主演:長澤まさみ

全話レビュー作品です。下記より是非ご覧ください!

『コンフィデンスマンJP』レビュー集

一話完結、全てがコンゲームというどう考えても難易度激高の脚本。誰だって中盤もたつくだろう、と思うところをきちんと抑えて10話まで持っていった印象。もちろん全くのもたつきやネタ被りが無かったとは言えないが、作品批判に繋がるほどのものではなかったこと自体を凄いと言っていいはず。

ストーリーだけでなく、俳優の使い方が全体的に上手かった印象。主人公ダー子のアクの強さは、舞台等々で培ったと思われる長澤まさみの演技によって華々しくアピールされていたし、何よりボクちゃんは東出昌大の魅力をぐぐっと引き出したキャラクターだった。「あなそれ」の怪演も良かったが、今回のお人好し坊やっぷりもハマっていた。日常を映し出すような作品の中だと演技力が正直イマイチだなと思ってしまうのだが、振り切った色の濃いキャラクターで愛されていくタイプなのかもしれない。そして五十嵐の躍進は素晴らしかった。愛され脇役って本当に美味しい。ターゲットとされる俳優もいちいち良くて、中でも後半の小池徹平はこれまでの童顔可愛い系イメージを覆す名演技だった。尖ったキャラクターが生まれやすいストーリーだからこそ、それぞれの俳優の新しい一面が次々に引き出されていく感覚があって、玉手箱のような面白さがあったように思う。

個人的には第7話「家族編」が一番。軽快なテンポ、人を小馬鹿にしたような演出を重ねながらも深みを持たせる描き方が素晴らしかった。映画化決定の告知があり、脚本家も「本当でしょうか」とはぐらかしているが制作が進んでいるのだろう。流石にこんな嘘は面白くないしいらないですから。期待しています。

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