ダメになる会話「生まれ変わるなら」

男A「難しい顔をしてどうした?悩み事か?」
男B「なあ、もし生まれ変わったらって考えた事あるか?」
男A「なんだよ、また唐突だな。」
男B「いや、ちょっと思うところがあってな。」
男A「子供の頃は友達とそんな話をしてしたような気もするな。」
男B「大人になった今なら、何に生まれ変わりたい?」
男A「そうだなぁ、とりあえず『金持ち』かな。ありきたりだけど。」
男B「この愚か者めがっ!」
男A「びっくりした!大きな声にびっくりした!なんだよ、愚か者って。生まれ変わったらお金持ちになりたいって、そんな変な答えでもないだろ?」
男B「貴様はその程度の想像力しかないからモテないのだ。稼げないのだ。人望を得られないのだ。この俗物!」
男A「いやいやいや『生まれ変わるなら』なんて他愛ない雑談じゃないか。俗物呼ばわりするほどのことか?」
男B「この箱を見ろ。」
男A「箱?なんだその、一個だけボタンがついた箱は?」
男B「これはな『生まれ変わりたいもの』を強く念じてボタンを押すと、今の自分の記憶と存在が消滅する代わりに念じたものに生まれ変われる装置だ。」
男A「……え?お前、何言ってんの?」
男B「その名も『ポチッと転生くん』だ。」
男A「……わ、笑うところなのか?」
男B「押してみろ。」
男A「まあ、押せと言うなら押すけどさ……」
男B「違う!真剣に!本気でだっ!」
男A「……え?オモチャ……だよな?」
男B「押してみればわかる。」
男A「……」
男B「……」
男A「……ま、まさか……」
男B「もちろんただのオモチャだ。」
男A「オモチャかよっ!そんな真顔でスゴむからもしかしてとか思ったわ!」
男B「名前も俺がつけた。」
男A「どうでもいいわ!いったい何がしたいんだお前は!」
男B「まあ聞け。このボタンを、本当に本物だと考えてみろ。そしてボタンを押す自分の姿を真剣に想像してみるんだ。」
男A「そんな事してなんになるって言うんだ?」
男B「やってみればわかる。どこまでも真剣に、本気で、髪の毛一本ほどの疑いもなく信じて、考えて抜いてから押してみろ。さあ。」
男A「なんなんだ……。えーと、これは本物。これは本物。生まれ変わる……俺が生まれ変わりたいもの……俺は……消えて……」
男B「……」
男A「……なるほど……これは……」
男B「……」
男A「……つまり……だから……」
男B「さあ!答えがでたなら、ボタンを押すんだっ!」
男A「……むんっ……押したぜ……」
男B「どうだ、本気で信じる事は出来たか?」
男A「ああ、心底これを本物だと思い込んで、俺は本当は何に生まれ変わりたいのかを考えたぜ。」
男B「金持ちになりたかったか?」
男A「いや、金持ちになれば欲しい物は買えるだろう。しかし、それは俺にとって本当に欲しい物だろうか?」
男B「というと?」
男A「『金持ちの俺』にとって欲しい物は、金で買えるものだろうか?いや、きっと違う。だって『金持ちの俺』にとってそれはただの『買えば済むもの』だからだ。」
男B「ふむ。なるほど。」
男A「そして金を持っていると言うことは、金を失う事もあると言う事だ。強盗、窃盗、身代金目的の誘拐。あらゆる犯罪のターゲットになる事を恐れ、金を失いそうな様々な事に震えながら生きていくことになる。」
男B「金持ちも楽じゃなさそうだな。」
男A「どんな事でもおなじだ。大切なもの。愛する人。かけがえのない何か。その何かを持つ者には、それを失う事への恐れがあり、悩みがあり、苦しみがあるんだ。」
男B「ほほう、では『何も持たない者』になりたいか?」
男A「それも考えた。あらゆるものに無欲な存在。何も失わず、何も欲しない存在。」
男B「それは悟りを開いた者、つまり『仏陀』になりたいという事か。」
男A「いや、悟りとは愛や家族、富や友人、そういったものの価値を知りながら、なおかつそれらへの執着を捨てる事で到達する境地。今の記憶も持たず生まれ変わり、無我無欲の存在になれば、それは道端の石ころと変わらん。」
男B「ほう、ではもういっそ人間以外のものになるか?」
男A「同じ事だ。どんな生き物になろうと、虫だろうと、それが植物だろうと、命ある存在として生まれ変わる以上、必ず何かを求め、やがて死ぬ。『生き物』とは『死ぬ物』であり『生きる』とは『何かを求める事』にほかならない!今の自分よりもよい何かに生まれ変わりたいと願っても、生き物の本質が変わらない以上、そこに大差などありはしない!」
男B「そこまでたどり着いたか!では改めて問おう!そこまで考え抜いたお前がボタンを押した瞬間に思い浮かべた、生まれ変わりたいものとはなんだ!」
男A「不老不死でナイスバディの22歳の美女。」
男B「うわ~俗物ぅ~。」
−END-

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