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コートと美術鑑賞

 美術館の展示室内というのは作品保護の観点から、概ね20-22℃ぐらいに設定されている。これは夏としては寒く、冬としては少し暑い。美術館側もそういう鑑賞環境については当然認識しており、特に夏は必要に応じ、ブランケットやストールを貸してくれる美術館もある。

 私は元々暑がりなうえ、冬でも背中や顔にじんわりと汗をかくことがある。展示室にメモ帳・筆記用具を持ち込むこともあり、それ以上に余計な荷物を持ち込みたくもない。
 そういうわけで、上着類は鞄と一緒に、美術館備え付けのロッカーにしまうことにしている。これが割と普通だと思っていたが、展示室を見回すとコート持参で展示室に入られる方も決して珍しくは無い。

 もちろん寒がりでコートを着用していたが、途中で暑くなった、あるいは単にロッカーにしまうという発想が無かっただけ、なんていうことも考えられる。特に美術鑑賞の経験の少ないお客さんだと、美術館のロッカーが無料だということをひょっとしたら知らないということもあるかもしれない。仮にそういう周知ができていないとしたら、問題は知らない利用者ではなく、むしろ知らせない美術館側にある。

 それともう一つ、

「コートに皺が汚れがつく(かもしれない)」
「ロッカーに入らない」

 ことを理由に展示室に持ち込んでいることも考えられなくはない。
 大きなロッカーがあればまだ良いけど、標準サイズのロッカーの場合、鞄とコートを入れようとすると、上手く行かずくしゃくしゃになってしまうことは時々ある。これは私個人の想像でしかないけど、もしそういう理由でお客さんが不便を感じているなら、美術館目線でなにか対策は無いものかと考えていたりした(いちおう学芸員資格取得見込の身として)。大きな駅や空港にある、(コートを折りたたまないで入るサイズの)より長いロッカーを導入するのが手っ取り早いけど、それを何個置くかというのも悩ましい。また、コインロッカーではなく人がいるクローク(手荷物預かり所)を用意するという形であれば多少融通は利くけど、人や場所を取るという課題もある…

 実際はそういう意見(苦情?)が出たらその時の対処を考えれば良いものと思われるが、美術館・博物館に限らず、運営とはそういう些細に見えることでも、試行錯誤の積み重ねの上に成り立っていくものであることを切に感じる。展示室内の椅子・ソファも復活してきたし、それこそブランケット・ストールの提供もその一端だと思う。

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