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関西弁警察

 まず、私は関西人ではない。
 茨城県に生まれ、千葉を経て、3歳の頃に神奈川県の湘南エリアに越してきた。両親はおろか、親族にも関西圏出身・在住の人間はいないようである。湘南にもいちおう方言はあるが、その影響もほとんど受けておらず、基本的には標準語に近い言葉を話している。

 そんな生粋の関東っ子な私だが、子供の頃、突如としてテレビで、自分とは明らかに違う日本語を話す人たちが出てきた。
 その言葉とはもちろん、関西弁である。
 正確にいつ頃かは記憶していないが1990年代初頭、テレビの特集番組でも吉本興業の東京進出が取り上げられていた時期だったと思う。

 私も「ごっつ」や吉本新喜劇などをテレビで観ていて、おそらく同級生達も少なからず観ていたと思うが、人と少し違ったのはその関西弁を話すようになってしまった点である。端的に言えば、関西弁を「面白い」と思ってしまったのだと思う。子供時代のこととは言え、今思い返すと我ながら恥ずかしい…。
 もちろん地元の言葉を話すのが世の普通であり、変な喋りかたを"突如として"するようになった私はちょこちょこそのことを指摘されるようになってしまった。いわゆる「黒歴史」なのでそのことをつぶさに思い出そうとは思わないが、そんなマイブームはその後、数ヶ月は続いていたんじゃないかと思う。

 それから数年が経ち、非関西圏出身の人間が話す関西弁は「ニセ関西弁」、ニセ関西弁を話す人間は「ニセ関西人」と、批判的に称される風潮が生まれた。これもテレビ発信だが、不正確なイントネーションに基づくモノマネを不快に思うのは、ごく当たり前の反応だと思う。
 その風潮が起きたころ、私は中学生ぐらいになっていて概ね標準語には戻っていた。それでも部分的、反射的に「どないしはります?」などと口走ってしまったり、生粋の関東人としては奇妙な言葉遣いやイントネーションを指摘されたりもしていた。それから20年後が経ち、千鳥が全国区に出てきたときも「〜なんよ」みたいな岡山弁が混じっていたし、私という人間はどうも影響されやすい人種のようである。
 完全に標準語になったというか、「そう言えば"訛り"が出なくなったな」と思ったのは、実はここ数年のことである。これに関しては標準語、しかも書き言葉で文章を書くようになったこと、また40歳になって「年甲斐」を考えるようになったのも一つの原因かもしれない。

 こうして私の中からニセ関西弁がフェードアウトしていく一方、いつからかネットで「○○やん」というような語尾を頻繁に見るようになった。関西人はともかく、関東の人間でもさらりと使っている人を見かける。しかし以前と違ったのは、それを使う人が今までの比ではないこと、そして、使ったところで「ニセ関西人」と揶揄される風潮が(少なくとも自分の目に見える範囲では)なくなったことである。むしろ「ニセ関西弁」「ニセ関西人」という言葉が死語になりつつあることも面白い。

 どういうことかと思いちょっと調べてみると、「方言コスプレ」というものがあるらしい。とりあえずそれに関する本があるらしいので、一度読んでみようかと思う。

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