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紙の本には、時と愛着が刻まれる

モノとしての本は、
その本が過ごした時を見せてくれる気がする。
黄ばみや匂い。
よく開いたページは、クセで他のページよりも開きやすくなっている。

子供の本の、
破かれたページ、
ボロボロのページは、
その本が愛された証と言ってもいいかもしれない。


紙の本と電子書籍のどちらがいいか。

これは、すでに多くの人に語られている事柄ではあるので、目新しい議題でもなんでもないのだけれども、改めて感じたことがあったので、言葉にしておきたい。

ちなみに私は、紙 VS 電子の「どちらもいい派」である。

紙には紙の、電子には電子の良さがあると思っている。
幼い頃から、紙の本、モノとしての本が好きだった割には、あっさりと電子書籍の便利さも受け入れてしまった方かもしれない。

電子書籍の良さは、なんといってもかさばらないということだと思う。

昔は、外に出るときは、バックに必ず1冊は本をいれて持ち歩いていた。
持ち運びの便を考えて、たいていは文庫本だった。
さらに「これが気分じゃないときのためのもう1冊」を持っているときもあったし、「どうしても気分なので」分厚い単行本をいれていることもあった。

そうやって、必ず持ち歩いてはいるものの、1ページも読まずに、ただ、バッグが余分に重かっただけ、で終わる日もあった。

今は、ほとんどの場合、バッグに本をいれていることはない。
当時、バッグの中から本を取り出して読んでいたであろう時間は、スマホに向き合う時間となった。
スマホのkindleアプリで読書をしているときもあれば、まあ、SNSのアプリを立ち上げている時間も多いかな。

いずれにせよ、読むかもしれないし、読まないかもしれない本の重さからは解放された。

それに、バンコクで暮らす今、ポチっとしただけで、即座に日本の書籍が手に入るのはありがたい。
タイのバンコクといえば、世界でも指折りの日本人が住みやすい街。日本の製品もかなり充実していて、ほぼ、日本での生活を再現できている。

KINOKUNIYAにいけば、日本の本が豊富にそろっていて、とくに新刊やベストセラーはたやすく手に入る。日本の書籍に特化した古本屋さんも充実している。

そんな環境だから、引っ越してきた当初よりも、だいぶ紙の本の数が増えた。
だけれども、期間限定の生活の中で、荷物をあまり増やしたくないという気持ちもあって、kindleで手に入るものはkindleで手に入れることも多い。
ビジネスや自己啓発本は、kindleで、小説や雑誌は紙で買う傾向にあるかなあ。

電子書籍がなければ、さらに我が家の荷物は増えていたことだろう、と思う。

紙の本が好きな人は写真や絵、こだわった装丁などの、本のモノとしての美しさ、も愛しているのだと思う。私もそのうちのひとり。

そして、本の劣化にもまた、不思議とひかれるものがある。

私は、図書館や古本屋で見かける黄ばんだ本が好きだ。そういう本についているしみ、においが好きだ。
実家の母の本棚にあった彼女の子供時代の愛読書は、黄ばんでいるのに、パラフィン紙や箱は破れていなかった。丁寧に扱われた証。
私は、子供の頃、ガラス戸にしまわれたその本たちを、そーっと手にとってみるの好きだった。


今年の夏に日本に帰ったとき、姉の家にあった絵本『おしくらまんじゅう』。
姉が娘に読み聞かせをしているのをのぞいてみると、ビリビリに破けたページをセロハンテープで貼ってあるのが見えた。
これは、姪っ子の大のお気に入りの本なのだそう。

1歳くらいの子って、あんな小さいわりには、結構、怪力だ。
大事にしているぬいぐるみも、ペシペシ!とたたいているし、おもちゃの太鼓をたたく力強さにも驚かされる。
「かんぱーい!」なんて姪の前にコップをさし出そうものなら、プラスチックの容器をかなりの勢いでぶつけてくるので、こちらのコップが割れやしないかとヒヤヒヤしてしまう。
そんな小さな怪獣は、お気に入りのページをめくる力加減もわからず、ベリベリと豪快にやってしまったのだろう。

子供の頃、我が家にあったイソップ童話集の絵本は、『ライオンとねずみ』の箇所だけがボロボロで、背表紙から外れて崩壊しかかっていたのを思い出す。
弟がやけに『ライオンとねずみ』ばかりを読み聞かせにリクセストしていたからだ。

私たちがもう少し成長した頃、弟の『ライオンとねずみ』への偏愛を、愉快そうに語る母の顔。

『おしくらまんじゅう』も、そういう時間のために、ビリビリに破けた跡を残しながら、大事に保管されるだろうな。


私が愛用している料理本は、料理中の湿気でよれて、醤油やらソースやらのしみまでついている。
もちろん、近頃は、スマホでレシピを検索しながら料理をすることも多いのだけれども。
このよれた、しみがついた本を見ながら料理をするとき、私はとても安心している。何度もつくってきたレシピだから、失敗しないよ、大丈夫、と。

使い始めてから、3度の引っ越しを経ても、処分されずに生き残ってきた、よれよれの料理本。
そのうち、日本に本帰国するときにも、きっと持ってかえるだろう。

過ごした時の経過と愛着を五感で感じられる。これもまた、紙の本のよさなんじゃないかなあ。

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