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この社会の「複雑さ」を体感するための7つの視点|『まとまらない言葉を生きる』刊行記念選書フェア@今野書店

5月10日に、文学者・荒井裕樹さんの新著『まとまらない言葉を生きる』(柏書房)が配本となりました。

この社会で今、何が壊されつつあるのか。人間としての尊厳をどのように守っていけるのか。障害者運動や反差別闘争の歴史の中で培われてきた「一言にまとまらない魅力をもった言葉たち」と、「発言者たちの人生」をひとつひとつ紹介していくことを通して、私たちをとりまく様々な問題について考えた一冊です。

このたび、西荻窪の今野書店さんが本書の刊行を記念した選書フェアを開催してくださることとなりました。題して『文学者・荒井裕樹さん選書フェア ~この社会の「複雑さ」を体感するための7つの視点~』。期間は2021年5月16日〜6月いっぱいを予定しています。今野書店のご担当者様お手製のフリーペーパーもあるようなので、ぜひぜひ足を運んでいただけたら幸いです!

今野書店様用パネル2(pdf)

ただ、どうしても足を運ぶのが難しいという方もいらっしゃると思いますので、本稿では、荒井さんが作成したブックリストと紹介コメントを一挙公開します。今回の選書フェアは下記の「7つの視点」から構成されていますので、みなさんの興味関心にあわせてご活用ください(今回の新刊とあわせて手に取っていただけとしたら、それ以上に嬉しいことはありません……)。それでは、店頭で素敵な本との出会いがありますように。

【視点①】「社会」を考える~「マイノリティ」という視点から「社会の在り方」を考える~

1.西原和久・杉本学 編『マイノリティ問題から考える社会学・入門――差別をこえるために』(有斐閣)
この社会には、どんな人たちがいる? どんな差別がある? マイノリティって誰のこと? 複雑でややこしい問題を考えるためには、まずは見取り図が必要だ。とにかく「知る」ことからはじめたい人にお勧めの一冊。
2.木村草太 編『子どもの人権をまもるために』(晶文社)
「子どもの人権を守る」というと、「チヤホヤすると調子に乗る」「甘やかすのは良くない」「時にはガツンとやらないと」なんて反論が飛んでくる。こんな社会で子どもたちは本当にまもられているのか? 家庭・学校・法制度の視点から「子どもの人権」を徹底的に考える一冊。

【視点②】「わたし」を語る~人の身体からこぼれる言葉は、社会の歪みを見つめる窓になる~

3.緒方正人『チッソは私であった』(河出文庫)
巨大公害企業と闘った先に、その人は、自身の中の「加害者」に気付いた。公害の責任は誰にあるのか。人類・文明・国家・企業・地域・個人――それぞれが抱える責任の「層」を考える一冊。待望の復刊・文庫化。
4.齋藤陽道『声めぐり』(晶文社)
「ろう」を生きる写真家の自伝的随筆。音の聞こえない彼にとって、「言葉」はついに「ことば」にはならなかった。「つながれない」という孤独の淵で、「つながれる声」と出会うまでの、たましいの道のり。

【視点③】「耳」を澄ます~いま私たちに必要なのは「真摯に聞く」ことかもかもしれない~

5.永野三智『みな、やっとの思いで坂をのぼる――水俣病患者相談のいま』(ころから)
人生に対して誠実な本は、「語る」よりも多く「聴いて」いる。まだまだ終わらない水俣病。その患者たちの声に耳を傾け続けた、海のように誠実な一冊。
6.上間陽子『海をあげる』(筑摩書房)
「耳を澄ます」ことでしか語れないものがある。誰かの痛み、自分の苦しみ、空の軋み、海の嘆き――見えない傷口に触れようとする柔らかな語り口の底には、底知れない「怒り」が潜んでいる。ぜひ最後まで読んで、タイトルの重みを受け止めて欲しい。


【視点④】「思い」を馳せる~「知る」ことは、時に「傲慢さ」と紙一重になる~

7.佐藤由美子『戦争の歌がきこえる』(柏書房)
戦争は「国家」を主語に語られる。でも、その傷を負い続けるのは、ひとりひとりの小さな人たちだ。人生の幕が閉じようとするとき、人は自らの戦争体験とどう向き合うのか。「日本人」の音楽療法士が「アメリカ」のホスピスで耳を傾け続けた、第二次世界大戦の記録。
8.石井正則『13 ハンセン病療養所からの言葉』(トランスビュー)
長きに及んだ隔離の歴史。閉じ込められた人たちの暮らしの痕跡。複雑な歴史は「すべて」を知ることはできない。だからこそ、その断片に思いを馳せる必要がある。全国13箇所の国立ハンセン病療養所、その来し方を写真と言葉で伝える一冊。

【視点⑤】「つながり」を求める~しんどい時に必要なのは、「ただ、つながる」という営みだ~

9.はらだ有彩『日本のヤバイ女の子 静かなる抵抗』(柏書房)
神話でも説話でも民話でも、いつも「女の子」たちは虐げられる。なのに物語は「めでたしめでたし」。いやいや、やられたままでは終われないし、終らせられない。そんな「女の子」たちと時空を超えて連帯する本。
10.温又柔・木村友祐『私とあなたのあいだ――いま、この国で生きるということ』(明石書店)
「おかしい」と歯ぎしりするところから文学は生れる。吹き荒れるヘイト、歯止めのかからない貧困、タガが外れたような差別、それらを止められない政治の劣化――。「まっとうでありたい」と願うことさえ難しいこの時代に、二人の小説家が交わす往復書簡集。
11.星野智幸『だまされ屋さん』(中央公論新社)
人は人を支配する。怒りで、力で、弱さで、優しさで、どうしようもなさで、支配する。そんな宿命をくぐり抜けて、「あなた」とのつながりを取り戻せるか――。人間の光と闇の翻訳家・星野智幸の圧巻長編小説。

【視点⑥】「目」を凝らす~この社会には「見えなくさせられている人たち」がいる~

12.望月優大『ふたつの日本――「移民国家」の建前と現実』(講談社現代新書)
「外国人技能実習生」は必要だけど、そのまま移住はされたくない――「外国人の労働力」は欲しいけど、「外国人労働者」は欲しくない――「移民」はいないはずなのに、すでに「移民国家」になっている――日本の歪んだホンネとタテマエ、その谷間に落とし込まれた人たちがいることを知って欲しい。
13.雨宮処凜『コロナ禍、貧困の記録――2020年、この国の底が抜けた』(かもがわ出版)
疫病は誰にも等しく襲いかかるけど、疫病に見舞われた社会は不平等に犠牲者を選ぶ。コロナ禍の2020年、すでに底が抜けた貧困化社会で、更に底へと突き落とされた人たちに何が起きていたのか。支援の現場を伝える一冊。

【視点⑦】「問い」を発する

14.千葉紀和・上東麻子『ルポ「命の選別」――誰が弱者を切り捨てるのか?』(文藝春秋)
ビジネス化する出生前診断、グループホーム建設反対運動、デザイナーベビー、相模原障害者施設殺傷事件――これらは全部、地下茎で繋がっているのかもしれない。急激に「優生社会化」していくこの国で、なし崩し的に行われていく「命の選別」の現場を問う出色のルポルタージュ。
15.横田弘『障害者殺しの思想』(現代書館)
かつてこの国では、「障害者を殺すこと」が常識で、「障害者が生きること」さえ戦いだった。その最前線に立ち続けた伝説の障害者運動家・横田弘が綴る名著の復刻。少しだけ勇気を出して、自分の中に潜む「無意識の障害者差別」をえぐり出されてみて欲しい

店舗情報

今野書店
〒167-0042 東京都杉並区西荻北3-1-8
最寄り:西荻窪駅 北口(JR中央線/地下鉄東西線)
※フェアは予告なく終了する可能性がありますのでご了承ください。


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