ドッキリ小成功!!
最近の夫はとても忙しい。
週の半分はテレワークになって通勤の負担は減ったけれど、出張が増えた。
今週末も来週末も出張。
しかも徹夜作業なのだ。休みが1日もない。
夫の仕事はシステムエンジニアみたいなものだ。
1つの案件がバカでかい。
コツコツコツコツ営業をかけて、受注したシステム構築は失敗ができない。
金融関係は特に神経が磨り減るらしい。
システム移行でミスったらニュース速報、金融庁から大目玉。
だから夫はずっと神経を張り巡らせている。
夫は基本的に温度が一定で、機嫌の良し悪しをあまり出さない。
特に「悪し」を出すことを「悪し」と思っているようだ。
そんな夫がどうにもこうにもピリリとする時がある。
頭が痛い・・・
夫が頭痛持ちになったのには、ある残念な理由がある。
息子が2度目の闘病時に、夫にも大きな病気が見つかった。
その頃の私は夜が怖かったことしか覚えていない。
息子の治療が全て終わった半年後、手術をすることにした。
開頭手術。
頭の中のあるものを摘出した。
結果、夫には、頭痛と耳鳴りと片耳の失聴が残った。
私は夫の「たられば」を聞いたことがない。
いや、聞いたことがなかった。
けれど、手術を終えて2ケ月くらいした頃、夫は遠くを見ながらぼそっと言った。
「俺さ、あんまり『たられば』が好きじゃないんだけどさ、手術受けなかったらこんな辛くないのかなって思っちゃうよね~」
その手術は、かすかに残っていた聴力を残すために決断したものだった。
それに、もしかしたら断続的に襲う耳鳴りが解消されるかもしれなかった。
しかし、残せると思いますよと言われていた聴力はなくなった。
断続的だった耳鳴りは24時間365日鳴るようになった。
そして、頭を抱えこんでうずくまるほどの頭痛持ちになった。
仕事に行くためノロノロと起き上がる夫に、転職を勧めたこともあった。
けれど夫は首を振った。
「収入は減らしたくない。」
そう言うから少しばかりの在宅ワークを辞め、私も外で働くと言った。
「かすみは外で働くのが向いていると思う。そうしたいのもわかっていた。でも、いろいろ考えるとかすみが家にいた方がいいと思うし、そうしてもらえるとありがたい。」
夫は飄々としているが出世欲が強いんだと思う。
仕事は嫌だと言いながらも、サラリーマン人生をかけて踏ん張っているんだと思う。
これからの時代にそぐわない気もするが、今を生きる夫は一生懸命だ。
私は子どもたちにいつも言うことがある。
「パパはね、生きてるだけでえらいんだ。なのに、お仕事までしてるから超えらいんだよ」
それをみんなで「確かに!」と言って笑う。
夫はいつも自分を奮い立たせる時は大病をした息子を想う。
「あいつを想うと弱音なんて吐けないよ」
重度アレルギーの娘はなぜか張り合う。
「私、ぐるぐるチックンしたよね。あ、入院しそうになったのは乳だっけ?卵だっけ?」
そしてしょっちゅうみんなで私をネタにする。
「ママの頑丈さはおかしい」
「インフルエンザを半日で治したなんて人間じゃない」
「ママの言うことは参考にならないから聞いちゃダメ」
「おなか壊してた時もコワイコワイって笑ってアイス食べてた」
そう、私はものすごく頑丈で、治癒力が尋常ではない。
結石ができるくらいだ。
梅雨は頭痛持ちには辛い季節だ。
台風が発生すると天気予報よりも正確に反応する。
手術直後の頃よりはマシになったけれど、この時期はいつもうんざりしている。
そんな今・・・夫の仕事が忙しい。
昨日、夫が自宅近くのコーヒー屋さんで仕事をしていた。
夫の部下も一緒だったが、部下というより戦友のような人だ。
私も何年か前に会ったことがある。
よし、サプライズだ。
コーヒー屋さんにこっそり覗きに行った。
ガラス越しにボックス席にいる夫を発見。
焦点は定まった。
店内をすり抜け、無言で夫の隣に座る。
突然隣に座ってきた変な人に夫は驚く。
でも飄々としているから「ビックリした!」とだけ言った。
わあああ!!!!なんて大きな声は出さない。
ドッキリ小成功だ。
笑いながら私は去った。
帰ってきた夫に「ねえ、驚いた?」と聞いて、夫は「驚いたよ」と答えた。
ひとしきりその話で盛り上がって、いつものようにいっしょにテレビを見る。
だいたい私はうたた寝をしている。
私には頭痛を治すこともできない。
耳鳴りを止めることもできない。
仕事を変わることもできない。
でも、私の声は大きくてよく通る。
昔からどこにいても見つかってしまうくらい声が通る。
片方しか聞こえない耳でも私の声は聞き取りやすいらしい。
そしてドッキリも少しだけできる。
望むのなら踊ることもできるが、全然望まれていない。
またいつかドッキリを仕掛けよう。
次はもうちょっと手の込んだヤツにしよう。
目指せ、中成功!
読んでくださってありがとうございました。
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