メロンソーダと涙

映画を観に行った時、悲しいことがあった。
ウーロン茶を頼んだはずが、メロンソーダと間違えられてしまった。
夏休みの映画館の賑わいの中、私の声は届かなかったみたいだ。
炭酸が苦手な私は、シアターへの列に並ばずしばらく立ち尽くしていた。
フタには無数の泡が付いていてコップを揺らすとフワッと消える。
レシートも貰えなかったので変えてもらうことも出来ず、私は吹っ切れてコップにストローを刺した。

夏らしくていいじゃん。色もかわいいし。
チャレンジだよ。

なんて、自分に言い聞かせて、なんとなく作り笑いをしながらストローを加えチューっと勢いよくソーダを吸ってみた。

……意外といける。大丈夫。

また暗示をかけて数口飲んだ。胃弱な私はみぞおちに微弱な違和を感じながらも、初めて飲むメロンソーダの味と、苦手な炭酸の感触を少しだけ楽しんでいた。

でも、具合悪くなるの嫌だから映画観ている間に飲むのはよしておこう……

と、勿体無い、自分がツいていなかったんだと思いつつ、シアターへの列に並んだ。
飲み物のことは忘れて、映画に集中しようと思っていた。思っていたのに。

映画もクライマックスに差し掛かると、目頭の熱くなるようなシーンが畳み掛けるように私の心を揺さぶってくる。

普段悲しくても涙が出なくて泣けない私は映画でもギリギリのところで涙が流れない。
胸は締め付けられるように苦しくても喉の奥でつっかえて出てこない。

私はいつものように眉間にしわを寄せ、唇を強く結んで泣きそうで泣けずにスクリーンを見ていた。

……喉が渇いた

涙を出さずとも喉は渇く。もしかしたら喉ではないところが渇いたと思ったのかもしれない。
そこで私はイスの手すりにあるホルダーに入ったメロンソーダを手に取った。

本当は飲むつもりなんてなかったのに……目を閉じストローに口を付けチューっと勢いよく吸った。

シュワシュワとまぶたの裏が泡立つ。
涙が泡立って消えていく。
その時私は、涙を飲み込んだような気がした。
何故だかわからないが、なんだかもっと欲しくなって、更に吸い込む。ソーダは喉のつっかえを破り、私の胸をすっかり満たした。

炭酸、嫌いじゃないかもしれない……

刺激は苦手。
でも、つらい時、例えば泣けない時。
そんな心をスカッと晴らしてくれる甘いお薬があったらどんなにいいか。

メロンソーダ。
プチ不幸転じて、幸か。

流せない涙を飲み込むのにシュワシュワはちょうどいい。
喉に溜まった息苦しさを押し込むのにソーダ
はきっとよく効くのだろう。

爽やかな痛みを帯びて、胸を満たす、甘い薬。

ラムネにサイダー、今日のメロンソーダ。

もし、流せない涙が溜まったら君たちを頼ろうと思う。シュワシュワと私の心を軽くして。

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