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小説 【 あるハワイの芸術家 】 -7-

働き始めたのは2ヶ月後だった。再びウェイトレス。しかし前の店ではなく別の店だった。以前の店はケイトとトーマスが出会った場所で、思い出すのがつらいと言った。

勤務はシフト制でモーニングを担当する早番、ランチを担当する中番、ディナーを担当する遅番がある。それに合わせてクリスはジェシーの学校への送迎などを協力した。ケイトの帰りが遅い時はジェシーの夕飯を作り、ケイトもクリスがいる時は明るかった。暗い顔ばかりしていられないと気を励ましてかもしれないし、クリスへの気遣いもあったはずだが本当に楽しそうにジェシーは見えた。

今も憶えているのはある夜の食後。工作の授業で日本の折り紙を習い、作った猫を見せるとケイトは褒めてくれた。うまくできなかった折り鶴を見せると大笑いし、ジェシーを挟んで隣りに座るクリスと共に手を叩いて笑った。そんなケイトは久しぶりだった。

しかしそれから涙ぐみ、「どうした?」とジェシーが驚くと、ケイトは目元を押さえ「パパに見せたかったなって」

そのあとまたひとしきり泣いた。

「あぁ――」と言うだけでジェシーは何も返せず、

「見てるよ。きっと見てる」とクリスが言うとケイトはうなずき涙を拭いた。

母子家庭でもクリスがいたのでジェシーは寂しくなかった。それでいつしか思うようになった。このまま叔父さんがパパになってくれたらいいのに。

しかしそれは軽く言ってはいけないこと――子供心にもわかっていた。


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