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コロナ禍の孤独から不登校に。「学校に行きたいのに行けない」と葛藤してきた女の子が一歩踏み出せたワケ

家庭でも学校でもない、第3の居心地が良い場所「サードプレイス」。
そこは、子どもたちが親や教員、友だちとも違う人たちと出会い、さまざまな価値観や可能性にふれられる場所。やりたいことが見つかったり、自分の良さに気づくことができたりなど、子どもたちの世界が広がる場所でもあります。

カタリバではこれまで20年間、子どもたちのためのサードプレイスと、親や教員(タテ)や同級生の友だち(ヨコ)とは異なる 「一歩先を行く先輩とのナナメの関係」を届けてきました。
子どもたちがどのようなきっかけで「サードプレイス」に来て、どんな経験をし、何を見つけたのか。これまで出会ったたくさんの子どもたちの中から、特に印象的だったエピソードをご紹介します。

コロナ禍による分散登校の中で感じた強い孤独。それがきっかけで不登校に

ナナさんが学校に行きづらさを感じたのは、小学校1年生になってすぐのこと。担任の先生に相談しても、「とりあえず学校に来れば何とかなるから」と言われてしまいました。
自分の気持ちをしっかりと聞いてもらえない状況が続き、ナナさんは学校を休みがちに。

学校を休む日が増えると、授業にも周りの話にもついていけなくなり、さらに学校へ行くのが億劫に。その生活は小学校6年生まで続きました。
そしてもうすぐ卒業という2月、新型コロナウイルス感染症が拡大。その後進学した中学校は分散登校となり、学校に行っても仲の良い友だちがいないことにナナさんは強い孤独を感じ、不登校になりました。

中学2年生になっても学校へ行けない状況に、ナナさんのお母さんは悩みました。そんなとき、インターネットでたまたま目にしたのが、「room-K」というオンラインの不登校支援プログラムでした。

心理士や元教員等の経験をもつコーディネーターが、保護者からのヒアリングや子どもとの面談を通して支援計画を作成し、その計画をもとに伴走スタッフが子どもにオンラインで寄り添いながらサポートをするという内容。1人で対応することに行き詰まりを感じていたお母さんは、「誰かに相談したい」と思いroom-Kに申し込みました。

「学校に行けていない自分」を責めて自信を失い、意見を言うこともためらうように

「初めて面談したときのナナさんは、口数が少なく、とても緊張している様子でした。でも、私が話したことや聞いたことには笑顔で答えて、精一杯対応してくれているのが伝わりました」
そう話すのは、ナナさんに伴走したスタッフのトモミさん。一つひとつの質問にじっくり考えて答えるナナさんの様子に、真面目で繊細な印象を受けたと言います。

room-Kでは、週1回の面談で「目標」を決めます。それぞれの目標に合わせて、自主的な学びの場や教科ワークショップ、ソーシャルスキルトレーニングなどさまざまなプログラムにオンラインで参加。ナナさんも、トモミさん以外のスタッフや他の生徒と話す機会が増えていきました。

知らない人と話すのが苦手で、最初はroom-Kから退室するとぐったり疲れて動けなくなっていたナナさん。それでもroom-Kに欠かさず参加した理由を、「学校に行ってなくてもいろんな話ができるのがうれしかったから」と教えてくれました。
「最初はすごく緊張したけど、慣れて仲良くなってからは話すのがすごく楽しかったです」(ナナさん)

そんな中、トモミさんはあることに気づきました。それは、ナナさんが自分から何かを主張することがほとんどないことでした。

「何かやりたいことがあっても、自分からは言い出さなくて。同時に、他の人から提案されると、気がすすまなくても受け入れてしまっている様子。単に断れない、消極的というだけではないように感じました」(トモミさん)

普段の生活でも、出かけることにひどく消極的なナナさん。その理由を聞くと、「学校に行ってないのに外出して、同じ学校の子に会ったら何て言えばいいかわからないし……」と言い、小学生のときのある体験を話してくれました。

それは小学5年生のある週末。ナナさんが友だちに誘われて地域のイベントを見に行ったときに、イベント会場でバッタリ会ったクラスメートの女の子に「イベントには来れるんだ」と言われたとのこと。
ナナさんは、「学校には来れないのに、遊びは来れるんだ」と責められているように感じ、大きなショックを受けました。
近所の人や親類からも「何で学校行かないの?」「学校は毎日行かなきゃダメよ」などと言われることは少なくありませんでした。

「そんな中で『学校に行けていない自分』を責め、自信を失っているように感じました。でも、自分から一歩が踏み出せないとなると、これからの人生でも生きづらくなると思うんです。そこを変えていくことが大切だと思いました」(トモミさん)

そこでナナさんと相談し、「自分の考えを言えるようになること」を目標の1つに設定。「やりたくないことは断れるようになること」も意識していこうと話しました。

私は私を諦めたくない。もう後悔したくないという想いから、1時間だけでも学校へ行くように

中学2年の3学期、学校で高校受験の話が出始めました。ナナさんは徐々に保健室に通い始めていましたが、まだ教室には行けず、1時間〜2時間ほどで家へ帰ってくる生活。
そんなナナさんに、担任の先生は通信制高校への進学をすすめました。

「高校に行きたくなかったから、最初は通信制高校でいいかなと思いました。でも、お母さんやトモミさんといろいろ話していたら、全日制高校で友だちを作ったり、制服でデートしたりしてみたいと思うようになりました」(ナナさん)

「全日制高校に行きたい」という希望を抱き始めたナナさん。そのために「このままではいけない」という焦りが強くなっていきました。
そこで「SDGsを学ぶ校外学習」に勇気を出して参加。すると、同じ班になった女の子と仲良くなり、その子が保健室に会いに来て「教室に行こう」と誘ってくれるようになったのです。

「誘ってくれるのがすごくうれしかった」と話すナナさん。保健室から教室へ行くことに挑戦し始めました。
とはいえ、先生や友だちが保健室に迎えに来てくれないと、行きたい気持ちはあっても行けませんでした。また、保健室に戻りたいときも自分からは言い出せず、無理して教室に居続けて疲れてしまうことも。

それでも「休みたくない」と頑張るナナさん。その原動力になったのは、「仲良くなった友だちに会いたい」という想いと、「全日制高校に行く」という目標でした。

「それまでは、嫌だと思ったらすぐ学校を休んでいたのですが、目標をもってからは『高校に行くには30日以上休めないから、行けるときは1時間でも行く』と言って頑張っていました。
面談の際にナナさんが言っていたのが、『学校に行かないことにずっと罪悪感があったから、今行かなかったら絶対後悔する。もう後悔したくない』という言葉でした。この『後悔したくない』がナナさんの本音で、ナナさんはナナさんのことを『諦めたくない』のだと感じました」(トモミさん)

学校に行けてない自分でも意見を言える。そんな居場所が心地よかった

中学3年生になると、ナナさんは教室に行く回数や時間を増やすことに挑戦し始めました。さらに、これまでは自分の意見を言えずに周りに合わせて行動していたのが、自分の意思で動くようにもなっていきました。

「教室に行く回数も、『前に1週間続けて教室に行って疲れたから、少しずつ慣らしていくために今週は3回』など自分で決めていました。自分でリズムを調整し、それを先生にも伝えられるように。自分の気持ちに正直になりながら、自分で自分の面倒をみるようになったのはすごい!と思いました」(トモミさん)

教室に行くことが多くなると、人間関係で悩み、疲れてしまうことも増えました。しかしそんなときも「今までは勝手に気にしすぎて疲れてしまっていたから、気にしないことに決めた」と客観的に自分を振り返れるように。「意識しないようにしたら、気にならなかった」と笑顔を見せました。

中学3年の2学期には、京都・奈良2泊3日の修学旅行にも参加したナナさん。
「最初は行かないつもりだったんです。でも、小学6年生のときの修学旅行に行けなかったから、今回は緊張するけど行きたいと思いました」(ナナさん)

帰ってきたナナさんはお母さんとトモミさんに「すっごく楽しかった!バスや新幹線で近くに座った子たちと仲良くなって、友だちがたくさん増えた!」と笑顔で報告。修学旅行は「中学生活で一番楽しい思い出」となったそうです。

修学旅行に参加してから6時間目まで教室にいられる日が増えていき、本格的に受験勉強をスタート。以前はわからないことがあっても自分から聞けなかったのですが、それもできるようになるなど、どんどん自分を表現できるようになっていきました。

ある日、トモミさんが「それはすごく素敵なことだと思う」と言うと、「room-Kでいろんな人と話して自分の意見を言えるようになったら、room-K以外の場所でも自分から積極的に行動できるようになった」と答えたナナさん。
ナナさんにとってroom-Kは、「学校に行けてない自分でも、自分の意見を言える場所だった。それがすごくうれしかった」と教えてくれました。

「ナナさんは高校進学という目標があって教室へ行き始めましたが、私たちは学校に戻ることだけが正解ではないと考えています。大切なのは、ナナさんがroom-Kを『心地よい居場所』と感じてくれたこと。そして、そこで自信を少しでも取り戻してくれたこと。それが何よりうれしいです」(トモミさん)


翌年2月、ナナさんは見事、志望校に合格しました。高校に進学したら生徒会での活動にチャレンジするのが目標だそうです。

「中学校のときは学校に行けていないことで自信をなくして、チャレンジしたくてもできないことがありました。けど、新しい環境で、不登校だった私を知らない人が多い中だったらチャレンジできると思うんです。
私が学校に行けないときにいろんな人が居場所を作ってくれたように、私も高校では誰かの役に立ちたいと思っています。例えば生徒会に入って、学校に通ってる生徒一人ひとりが楽しい学校生活を送れるようにしたいです。」(ナナさん)

※個人の特定を避けるため、一部フィクションが含まれています

-文:かきの木のりみ

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