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アメリカ人が大好きなオフサイトミーティング

僕はアメリカの製薬会社で働く日本人研究者です。アメリカで働いてきて、つくづく思うことのひとつに、アメリカ人はオフサイトミーティングが大好きだということがあります。会社のオフィスではなく、わざわざホテルの大きな会議場などを借り切って開催し、贅沢に大掛かりに行われます。今週、僕も新たな大型プロジェクトのキックオフとしてオフサイトミーティングに参加しました。

贅沢にセレモニー感覚で行われるオフサイトミーティング

僕の会社は、ボストンの隣、ケンブリッジにありますが、ボストンとケンブリッジを分けるチャールズリバーを渡った対岸のボストン側にあるホテルのフロアを借り切ってオフサイトミーティングが行われました。会社のオフィスから徒歩15分足らずで行けてしまう場所です。社員200人程度の小さな会社ですが、その中の50人以上が参加する大きなプロジェクトです。2日間に渡ってオフサイトミーティングが行われ、朝食、昼食、休憩中のコーヒーやスナックが提供されることはもちろん。ミーティング後は、ゲームセンターとバーを組み合わせたようなお店を借り切って懇親会も行われました。各地に散らばるリモートワーカーもこの時ばかりは旅費を使って、ボストンに集結しました。このオフサイトミーティングのために相当なお金を使っていることでしょう。

ミーティングでは、大きなゴールに向かってプロジェクトを進めていくため、各部署の代表が、現状、課題点、今後のプラン・対策、タイムラインなどを発表しました。2日間で時間も限られているので、各プレゼンターは、持ち時間30分程度で、とても大雑把な内容しか発表できません。なので、実際のミーティングで、大きなデシジョンが新たに下されたり、激しいディスカッションが起こることはありません。セレモニー的な意味の強いミーティングです。日本人で貧乏性の僕は、「こんなことに大金使っちゃって大丈夫なの? わざわざホテルを使わなくても、たくさんの旅費をかけてリモートワーカー呼ばなくても、オフィスとオンラインで十分できることじゃないの?」と思いがちです。

本当にこれだけのお金と労力を注ぎ込んでオフサイトミーティングをやる価値はあるのか?

ミーティングの内容だけに着目すると、採算が取れないもったいない会議をやっているようにも捉えられがちですが、本当のところは実益は大いにあるのです。

情報をまとめる絶好の機会となる

通常のミーティングでよく感じることですが、アメリカ人は会話だけで議論をどんどん進めることに長けていると感じます。会話だけの議論はスピードが早いですし、視覚による制限やバイアスなしに展開できます。会話によるディスカッションをどんどん進める中で、個々人では考え出せない素晴らしいアイディアにたどり着けることもあります。それはそれでとても素晴らしいことですが、反面、会話だけで進むため、情報が氾濫して、まとめることができないこともあります。あるいは、議論が一方向だけに進んで、大事なことを考慮し忘れてしまうことも起こります。

アメリカ人は、人前でプレゼンすることに慣れているせいか、公式の場でプレゼン・スピーチすることが大好きです。プレゼンターの中には、ドレスを着たり、ジャケットにネクタイで、超気合を入れてプレゼンに臨む人もいるくらいです。オフサイトでミーティングを行うことで大げさに公式感を出すことにより、各部署のプレゼンにもこの公式感がポジティブに作用します。当然、プレゼンにも気合が入ります。この時ばかりは、情報を氾濫させたままに放置せず、しっかりまとめる作業を行わざるを得ません。各プレゼンター、各部署が、事前準備の段階で、これまで氾濫していた情報を、しっかりまとめる絶好の機会になるのです。

大局的にプロジェクトを理解できる

これは当然のことですが、会社全体、プロジェクト全体で大きなミーティングを行えば、自分が普段関わる部署以外の状況・課題が何かを理解し、それが自分の仕事・部署にどのように影響を与えるかを考える絶好の機会になります。上記のように各部署が、いつもより氾濫した情報を整理してエッセンスをプレゼンしてくれます。これにより、自分の部署のアクションアイテムが、会社全体の、プロジェクト全体のどの部分の歯車になっているか? その歯車はどのように機能しているか? その歯車が壊れると、どこにどのような支障が起こるか? などが、よく見えてくるようになります。とくにアメリカの仕事文化では、自分の専門分野に集中して仕事し、周りがどうなろうとお構いなしとなりがちなので、プロジェクトを大局的に把握できるこのようなミーティングは貴重なものとなります。

人に直に会える

普段、話す機会のない他部署の人、オンラインでしか話したことのなかった人と直に会って、話す機会ができるのは、とても有益なことです。ブレイク中のちょっとした会話の中で、共通の知り合いいることが分かったり、日本に何度も出張したことがあると知ったり、親近感が一気に増すことができます。直に話せば、フレンドリーな人、物静かな人、オープンな人、内向的な人など、それぞれのパーソナリティがよく把握できるようになるので、これからのコミュニケーションの仕方の参考になります。

また、自分のコンプレックスを克服するためにも役に立ちます。僕は話し下手なので日常英会話には自信がありません。ユーモアのセンスにも自信がありません。懇親会などでも1対1の会話は楽しめますが、グループの輪に入り、ユーモアで場を盛り上げることはめっちゃ苦手です。スピーチの初めに粋なジョークを入れるようなこともできません。オープンなアメリカ人がミーティングの始まりなどで、粋なジョークを言って場をなごませるのを見て、羨ましいなと感じます。会話で盛り上がっているグループの輪に何の抵抗もなくジョークを混じえながら入っていけるアメリカ人を羨ましいなと感じます。さまざまなコンプレックスを持ってます。ところが、このような大きなミーティングに参加して、さまざまな人を直に見ると、あまりにも多種多様な人がいて、コンプレックスに考えていたことが馬鹿らしくなります。ユーモアのセンスを気にするどころか、人と会うのが苦手で懇親会にも出ない人、プレゼンに慣れてるはずなのにめっちゃ緊張しているアメリカ人、最初のタイトルスライドだけで5分以上話し続ける人、などなど。自分のコンプレックは、多種多様な人達の中では、全くの誤差範囲なのです。

ポジティブエネルギーを注入してチームを奮い立たせる

このオフサイトミーティング中に、別の参加者に、「このミーティングどう?」を聞くと、ほとんどすべての人がポジティブな回答をします。「とても良いミーティングだ!」「プレゼンが素晴らしい!」「今後のプロジェクトの成功が本当に楽しみだ!」などなど。  日本人は真面目で謙虚なので、改善点を挙げたりしがちですが、アメリカ人はこういったミーティングではあえて批判や反省は避け、ポジティブな部分のみに注目します。この意識的なポジティブ志向が、こういったセレモニー的なミーティングでは重要なのです。参加した個々人の、あるいはチームの成功体験として超ポジティブに捉え、言葉の魔力で潜在意識に刷り込みます。僕も自分の部署の代表としてプレゼンを行いましたが、プレゼン後、何人もの人に称賛を受け、ニヤけている自分がいました。知らず知らずのうちに承認欲求が満たされ、調子に載っている自分になっているのです。まさに潜在意識に成功体験として刻まれた証拠なのでしょう。

なので、実際の会議でディスカッションから得られるものは大したものではなくても、上記に挙げた利点だけで元が取れるミーティングになっているのです。

アメリカ人はここが上手い

アメリカで仕事をしていると、アメリカ人は下記のような点が本当に上手なだと思います。

  • 思い切ってお金を使い、ポジティブエネルギーを注入して活性化を図る

  • 自尊心・自己肯定感を上げる

  • 困難な課題をゲーム感覚で捉え、大げさなストーリー仕立てにして、楽しみに変える

  • 失敗を笑い飛ばして、奮起のネタにする

  • しがらみをいっさい払拭して、目的第一主義を貫く

多種多様な人間がバラバラの価値観・意見を持っていながらも、こういったプロフェッショナル精神をもって参加するから、オフサイトミーティングがとても価値あるものになるのでしょう。

逆に言うと、こういったプロフェッショナル精神を持たない会社文化のままで、このようなオフサイトミーティングを真似しても、価値あるものにはならないでしょう。参加者がみな、もったいないと思いながら、ポジティブを貫けず、ミーティングの内容も大胆に断捨離できないようままでは、中途半端なものになってしまいます。過去に誰がああ言った。こう言ったの議論や、過去の反省や責任追及に議論の時間を使うようなことは、このようなポジティブエネルギーを注入して活性化を図るオフサイトミーティングでは、意味がないどころか、価値を台無しにしてしまいます。






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