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読書記録「わたしを離さないで」

川口市出身の自称読書家 川口竜也です!

今回読んだのは、カズオ・イシグロさんの「わたしを離さないで」早川書房 (2008)です!

カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」早川書房

・あらすじ
1990年代 英国 キャシーは”介護人”としてかれこれ12年ほど務めている。介護人の仕事は、”提供者”の施術後の回復のために身の回りの世話をすることだ。

キャシーは幼い頃からヘールシャムという学校で過ごしてきた。学校の"外"へは一度も出たことがないこと以外、同級生とともに過ごす青春は、他の学生のように等しく謳歌していた。

キャシーにはルースという気の合う女友達と、時折相談事に乗るトミーという男友達がいる。ある日トミーから学校の"保護官"からこんな話を聞いたと持ちかけられる。
「おれたちはちゃんと教わっているそうで、教わっていないんだ」と。

他の学校がどうだかわからないが、ヘールシャムには気になることがある。例えば、生徒に油絵や水彩画、焼き物やエッセイを創らせて、いい作品を"展示会"に持っていくこと。他の人よりも身体の”内側”を綺麗に保ちなさいということ。そしていつの日か訪れるという"提供"の話…。

生徒たちは将来を夢見ることが許されない。いや、絶対に叶わない夢を持つことほど辛いことはないと。自分が何者で、この先に何になっていくのかと。

物語はキャシーの視点でヘールシャムでの日々、卒業後の生活、そして介護人としての生活を描く。

残酷な運命に抗うのではなく、ただただ自分の使命を受け入れていく人たち。SFでありながらも、現実感の強い作品でした。

あらすじで察しがつくと思いますが、彼らはドナー(臓器提供)のために生まれ育った生徒たちである。ヘールシャムという巨大な試験管の中で培養された、一種の細胞に過ぎないと。

物語の途中で保護官から逃れられない運命を告げられたとしても、遥昔からそんなことは知っていたと、心のどこかで思う生徒たち。
それを遺伝子の頃からわかっていたのか、自然と実感するようになったのかは定かではない。

表題の「わたしを離さないで」は、作中に登場するカセットテープ ジュディ・ブリッジウォーターの『夜に聞く歌』に収録されている"Never Let Me GO"より。

「ネバーレットミーゴー……オー、ベイビー、ベイビー……わたしを離さないで……」

同著 110頁より抜粋

物語に登場する生徒たちは、いずれ”提供者”としての使命を果たさねばならない。当然、子を授かることはおろか、結婚も夢のまた夢であろう。

私たちは少なくともある程度自由な世界で生きている。努力さえすれば仕事や働く場所、付き合う人も選ぶことができる。

人間としての尊厳だけは、自ら離しちゃだめだ。彼らがどんな状況も受け入れたように、悲しくなることはあっても、生きることを自ら手放してはだめだ。

自分がどこからきて、どこへ向かうのか。ちょっと考えるきっかけになる本でした。色々思い浮かぶけれども、月並みの表現しかできないのが悔しい。それではまた次回!

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