数円の成長
普段使っているものではない銀行口座が一つある。
親が、私の子ども時代に作ったものだ。
そこには私の貰ったお年玉などが入れられてあった。
よく「子供には大きすぎる金額だから、私が管理しといてあげる」と言って、親がそのまま失敬してしまうというネタがある。
うちはそのパターンには当てはまらず、きちんと管理しておいてくれたわけだ。
大きい金額とは言っても、所詮は子供が貰うものだから何百万といった単位ではない。
最高で二十万に行ったかどうかくらいだ。
そして時々使った今では、中途半端に数万円が入っているだけになっている。
親が、こちらの未来のために作ってくれた口座なのでちょっとした遠慮があり、全部使い切る気になれず、半ば放置してあったのだ。
実は半分存在を忘れてもいた。
けれど、この度家の掃除をしている時に通帳を見付け、せめて記帳だけでもしておくかと銀行へ行ってみた。
数円単位の金利が付いているのが何とはなしにおかしかった。
健気に感じた。
少しずつでも成長していたんだな、と。
翻って我が身を見るに、この数字に表れるようなはっきりとした成長があったかというと、心許ない。
数円の成長すらできていないような気がして、風の冷たさが胸を冷やした。
銀杏の葉が澄んだ光に煌めく初冬の町が、より一層自分に寒さを感じさせたのだろうか。
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