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習慣化の技術のすべて

つい最近、『1年間毎日』英単語を学習することに成功しました。

この連続学習記録は今なお続いており、現在は400日を超えています。

完全に『習慣化した』といっても良いでしょう。

これは飽きっぽい私にとっては、偉業といってもよい出来事でした。

なぜ私は、1日も休まずに継続することができたのでしょうか?

もちろん、私がこの学習サービス『DiQt』の開発者であることは、継続できた要因の一つとしてあると思います。

しかし、知っていただきたいのは、世の中には自分が開発したプロダクトであったとしても毎日利用しているという人はごくわずかであり、私自身も開発当初はまったく継続的に利用していなかったという事実です。

単なるひいきで、1年以上も休まず利用するということはありえません。

私は開発途中から、DiQtにある目標を設定しました。
それは、『まず自分が毎日使えるプロダクトにする』ことです。

世界でもっともプロダクトに思い入れのあるはずの開発者自身が毎日利用できないものが、赤の他人に毎日利用してもらうことなどできないと考えたからです。

そして「自分に毎日利用させる」という目標のもと、私はDiQtに多くの『継続させる仕組み』を実装しました。

結果として、私の目論見は当たったようです。

ご覧のとおり、私は1年以上も休まず継続することができて、そして赤の他人であるはずの多くのユーザーの方々にも、DiQtで毎日英単語を学習していただいています。
(画像:100人以上のユーザーが、100日以上もDiQtを継続しています。)

スクリーンショット 2020-12-20 12.32.35

では具体的に、どのような『継続させる仕組み』を取り入れたのか?
どうすれば、行動を習慣化できるのか?

これがこのnoteのテーマです。

このnoteでは、習慣化について、心理学をはじめとした行動科学の知見を交えながら、自分が知っていることをすべて紹介します。

『2021年こそは、何か新しい習慣を身につけたい!』という方にオススメです。


『自制心』より大事なこと

まずは最初に、習慣について、多くの人が抱いている「誤解」を解きたいと思います。

それは、「習慣は、『自制心』がなくては身につかない。」という誤解です。
いわゆる「根性論」です。

もちろん、習慣化に「自制心がまったく必要ない」といえば嘘になります。
しかし、もしも習慣化のために『かなりの自制心が必要とされる』なら、それはおそらく、習慣の身につけ方に問題があります。

習慣は、無意識な行動パターンです。
習慣は、あなたの自制心や性格よりむしろ、あなたの周りの環境や状況、これまでの行動に大きく影響されます。#3 iv,v

良い習慣についていえば、たとえあなたに「自制心」がなくとも、朝起きて、歯を磨き、会社や学校に通い、風呂に入るという勤勉な生活を毎日続けることができます。

依存症のような悪い習慣についていえば、たとえあなたの性格が「勤勉」であったとしても、SNSに多大な時間を使い、酒やタバコを過剰に頼り、ギャンブルに熱をあげるという生活を毎日続けることができます。

なぜなら、習慣や依存症の大きな原因は、「自制心」や「性格」ではないからです。
言い換えれば、誰でも良い習慣を身につけられますし、誰でも依存症になる危険があります。

良い習慣を形成するのも、依存症のような悪い習慣を断ち切るのにも、必要なのは根性論ではありません。

『知識と技術』です。

このnoteでは、今日からすぐに使える『習慣化の技術』を紹介します。

またその説明のために、意図的にこのnoteでは、『習慣』と『依存症』を同じものとして扱っています。

これにもきちんとした理由があります。

一つは、「良い習慣」と「悪い習慣(依存症)」は同じ原理で培われ、実際に脳は、その二つを区別できていないためです。#1 p.48,49,116,117 #2 p.94,95
習慣と依存症とを線引きするのは、とても難しいのです。#1 p.116,117
たとえば、「ランニングの習慣」と「ランニング依存症」は同じ原理で培われ、脳はその違いを区別できていません。

そしてもう一つの理由は、習慣化の技術は、しばしば人を依存症に陥らせていると批判されるSNSやゲームやギャンブル、企業のマーケティングに利用されているので、それらを具体例にすることで、習慣化の技術をわかりやすく説明できるようになるためです。

さて、ではさっそく本題に入りましょう。

ある行動を継続させ、習慣を形成するために重要な技術とは、一体どのようなものでしょうか?


習慣をつくる3つのステップ

まずは習慣について理解を深めるために、『習慣が形成されるプロセス』の全体像を掴んでいきましょう。

習慣は、次の3つのステップが繰り返されることによって生み出されます。

1, 「きっかけ」
2, 「ルーチン」
3, 「報酬」

ランニング習慣 (2) (1)

1つの目の『きっかけ』とは、習慣の引き金となる刺激のことです。
『キュー(合図・刺激)』と呼ばれることもあります。
私たち人間は、実際のところ、かなり機械的に生きています。
私たちは多くの場面で、深く考えて行動を決めるというより、刺激に反応して決まった行動パターンを使い分けています。
たとえば、朝起きて最初に何をするか?職場について最初に何をするか?ストレスを感じたときに何をするか?などの行動は、おおよそあなたの中で決まっているものではないでしょうか。
そのとき、あなたは深く考えて行動するというより、「なんとなく、いつもそうしているから、そうしたい」という理由で行動してはいないでしょうか。
その行動パターンこそ『習慣』です。
私たちの毎日の行動は、40%以上がこの習慣であるとされています。#1 p.9,10
習慣という行動を始めるためには、「刺激」すなわち『きっかけ』が必要とされています。
「きっかけ」には、たとえば、「朝起きてすぐ」のような「特定のタイミング」、食事を終えるなど「直前の行動」、退屈などの「感情」などがあげられます。
私たちは、こうした『きっかけ』をスイッチにして、無意識に決まった行動を起こすものなのです。
それが『習慣』と呼ばれるものです。#1 p.45,46,47,56,57

2つ目の『ルーチン』とは、『きっかけ』に反応して私たちが行う、『決まった行動や思考』のことです。
脳は「きっかけ」を受け取ると、その反応として、私たちが習慣と呼ぶ「決まった手順(ルーチン)」を行わせます。
ルーチンには、ごくシンプルなものから、車の運転のような複雑なものまで幅広くあります。
またこのルーチンには、行為だけなく、感情や思考も含まれています。
重要な点は、ルーチンは無意識に行われるので、ルーチンを行っている間に脳はほとんど活動していないという点です。
「きっかけ」を受け取ると、脳は自動的にルーチンを実行しようとするので、良い習慣ならそれをモチベーションや自制心を必要とせずに行えて、悪い習慣ならそれに抗うのがとても大変になります。#1 p.47,48

3つ目の『報酬』とは、ルーチンを行うことで得られるメリットのことです。
心理学では「強化」という言い方もします。
報酬の目的は、習慣となる行動を促進させることです。
報酬には、食べ物や薬物といったものから、身体的感覚、自尊心、賞賛や自己満足といった感情的なものまで幅広くあります。
報酬の多くは、ルーチンに対する肯定的なフィードバックであり、あなたの気分に良いものです。
そしてこの報酬によって、脳は「きっかけ」と「ルーチン」と「報酬」の3ステップを記憶しようとします。#1 p.47,56
それによって、習慣に対する『欲求』を生み出し、習慣を促進してくれるのです。

習慣は、「きっかけ」「ルーチン」「報酬」の3ステップを繰り返すことによって、脳の深い部分が3つをセットで記憶することで生まれます。

またこの習慣化の仕組みは、『依存症』と呼ばれるものにも共通しています。
たとえば、「過食症」のような、一見運動の習慣と同じくらい身につけるのが困難に思えるツラい習慣(依存症)も、次の3ステップを繰り返すことによって引き起こされます。

『きっかけ』:空腹・怒り・孤独感・疲労などのストレス。
『ルーチン』:過食。
『報酬』:糖質によるドーパミン(快楽)。食事によるエンドルフィン(快楽)。#2 p.31,32,103,146~149

過食嘔吐と習慣 (2) (1)

重要なのは、良い習慣にせよ、深刻な依存症にせよ、それらはすべて「きっかけ」「ルーチン」「報酬」の3ステップを繰り返すことによって脳が学習した結果であるということです。

繰り返しによって、脳が「きっかけ」「ルーチン」「報酬」の一連のステップをセットで覚え込むことで、習慣が生まれます。

習慣や依存症は、脳の『学習』なのです。

ただし、たんに「頭で覚える」だけでは、習慣は生まれません。
習慣は、3ステップを「身体で覚える」ことで生まれます。

「身体で覚える」とはどういうことでしょうか?
通常、私たちが何か新しい物事を覚えるとき、大脳新皮質などの「脳の外側」の部分で記憶します。
しかし、習慣は、「脳の内側の奥深く」にある『大脳基底核』と呼ばれる部分に記憶されます。
いわゆる「身体で覚える」とは、この基底核で記憶することです。#6 p.104,120,121

 基底核で覚えた行動パターンは、無意識に行うことができます。
たとえば、病によって新しく物事を記憶できなくなった患者でも、「きっかけ」「ルーチン」「報酬」のステップを繰り返させることによって基底核に習慣を記憶させると、無意識に新しい習慣に従いました。
自分が習慣に従った理由を、患者は「よくわからない(なんとなく)」と答えましたが、これはあなたが「朝起きてなぜ最初にそれをするのか?」と質問されたときと同じ答えではないでしょうか?  #1 p.50~55

では、基底核に習慣を覚えさせるには、何度「きっかけ」「ルーチン」「報酬」のステップを繰り返す必要があるのでしょうか?

これについては、正直なところ、「なんども」としか答えられません。
ある研究によると、習慣形成に必要な期間は平均で『66日』かかるとされています。#8 p.162,163

もちろん、このnoteでは、習慣形成までにかかる時間を短くするテクニックについても紹介します。
ただ前提として、基底核に習慣を覚えさせるにはそれなりに時間がかかるということは知っておきましょう。
つまり、習慣化には続けることが大事なのです。

さて、ここまでで、このnoteでもっとも重要な『習慣形成の全体像』をご紹介しました。

ここからは「きっかけ」「ルーチン」「報酬」について細かいテクニックを紹介していきますが、前提としてこの習慣の全体像を忘れないようにしましょう。

では、次からはまず、習慣化においてもっとも工夫が必要な『きっかけ』のテクニックをご紹介していきます。

習慣をつくる3つのステップ『まとめ』
・習慣は、「きっかけ」「ルーチン」「報酬」の3つのステップを何度も繰り返すことによって身に付く。
・「きっかけ」とは、習慣の引き金となる「刺激や合図」のこと。
・「ルーチン」とは、「きっかけ」によって無意識に引き起こされる「決まった行動・思考」のこと。
・「報酬」とは、ルーチンを行うことで得られるメリットのこと。
・習慣は、3つのステップがまとめて基底核に記憶されることで習得されるが、そのためにはそれなりの期間、この3ステップを繰り返さなくてはならない。つまり、習慣化には継続が大事。

ランニング習慣 (2) (1)


『きっかけ』を整えれば、習慣化は半分成功している。

習慣化に失敗したことを、人は『挫折』と呼びます。

そして挫折のよくあるパターンの一つが、習慣化したい行動に対して、始める『きっかけ』を決めずになんとなくで始めてしまうことです。

『毎日できるときにやろう』という曖昧な決意では、挫折する確率が高くなります。

なぜなら、『できるとき』など都合よく来ないからです。

あなたは、仕事や遊びで毎日『忙しい』のです。

『できるときにやろう』では、習慣化したい行動の優先順位はいつまで経っても上位に上がらず、『できるとき』が来たとしても、あなたはその時間に別のタスクを割り当てます。
さらにいえば、『できるとき』においても、たいていあなたは習慣化しなくてはならない行動自体を忘れてしまっています(処方箋を飲み忘れる人々のように)。
そして、『今日はできるときがなかった』『今日は忙しいからできなかった』という言い訳をなんども繰り返して、あなたは挫折していくのです。#4 p.206,207

習慣化したいなら、『習慣化したい行動を始める具体的なきっかけ』を決めましょう。

そして、その「きっかけ」を合図にして、習慣化したい行動を開始するのです。

具体的な『きっかけ』を決めることによって、上述の「優先順位の割り込み」や「行動のし忘れ」といった問題を解決することができます。

さらに、具体的な「きっかけ」は、あなたに『やる気』をもたらします。

あなたは、『パブロフの犬』をご存知でしょうか?

ロシアの科学者イワン・パブロフは、犬に餌を与える直前に毎回ベルを鳴らすことによって、たとえ餌がなくとも、ベルの音を聞くだけで犬がよだれを出すようになることを発見しました。

この実験は、心理学の『古典的条件づけ』を明らかにしたものとして有名ですが、それが有名なのは、この「条件づけ」が犬だけに限定されるものではなかったからです。

『パブロフの犬』と同じことは、私たち『人間』にも起こります。
私たち人間もまた、生活の多くの部分でパブロフの犬と同じように生きているのです。

デューク大学が2006年に発表した論文によると、毎日の人の行動の40%以上が、「その場の決定」ではなく「習慣」だといいます。#1  p.10

そして習慣とはいわば、『きっかけ』に反応して自動的に『ある行動』をしたくなる、生理的な反応です。

ベルを聞いた犬がよだれを垂らすように、私たちは生活の多くの場面で、何らかの刺激に反応して、何かを行う「やる気」を出します。

「やる気」とは、神経学的に表現すれば、『ドーパミン』と呼ばれる『欲求』を生み出す脳内の神経伝達物質です。

習慣においては、私たちの脳は、「報酬に結びついた特定の刺激(きっかけ)」を受け取るとドーパミンを放出して、特定の行動への『欲求』を発生させます。

たとえばあなたは、美味しそうなご馳走が映し出されたテレビCMや、街の飲食店から漂ってきた美味しそうな香りによって、お腹が空いた経験はないでしょうか?

私たちの脳では、「食物の匂い」やCMのような単なる「食物の見た目」だけであっても、それをきっかけに脳内のドーパミン産生量が増加します。
「空腹」を感じたり、「よだれ」がこみ上げてくるのも、このドーパミンの作用です。 #2 p.93

飯テロ (1) (1)

そして、思い出してください。

パブロフの犬は、目の前に食べ物を出されなくても、食べ物と全く無関係であるはずの「ベルの音」をきっかけに「よだれ」を出しました。
つまり、「条件づけ」によって、人為的に「やる気スイッチ(ドーパミン・スイッチ)」はつくり出すことができるのです。

これこそが習慣づくりにおいて、『きっかけ』を準備することが重要な理由です。

『きっかけ』は、あなたに習慣化したい行動への『やる気(ドーパミン)』をもたらしてくれるのです。

習慣化においてもっとも重要なのは、『ルーチン』や『報酬』を思い出させる『きっかけ』を準備して、自分自身を「条件づけ」することです。

「きっかけ」さえきちんと設定できれば、習慣化は半分成功したと言っても良いでしょう。
それほどまでに、習慣化で「きっかけ」を考えることは重要なのです。

では、「きっかけ」には具体的にどのようなものが利用できるのでしょうか?
幸い、研究によって、習慣を始めさせる「きっかけ」は次の5つのいずれかに当てはまることがわかっています。 #1 p.392

・場所        :どこで始めるか?
・時間(タイミング) :いつ始めるか?
・心理状態      :どんな気分なときに始めるか?
・自分以外の人物   :誰と始めるか?
・直前の行動     :何をしたあと始めるか?

「早起きしていつも決まった時間に勉強する」や「お気に入りのカフェなどいつも決まった場所で作業する」といった工夫は、習慣の「きっかけ」づくりという意味でも効果的だということですね。

とはいえ、これだけではうまく「きっかけ」を設定できないという人もいるかもしれません。

そんな方々のために、行動科学が提供する、信頼できるとても効果的な『きっかけ設定方法』をご紹介しましょう。


『もしそうしたら、そのときは計画』

一見たやすく見える行為であっても、習慣化するのはとても大変なことです。

たとえば、『医師から処方された薬を、毎日指定されたスケジュール通りに服用すること』などでさえ、簡単なようで、きちんと続けるのはとても難しいのです。
多くの人々が、処方された薬を服用し忘れてしまいます。

しかし、ある『きっかけ設定法』を用いることで、この問題は著しく改善できることがわかりました。

それは、『朝の8時になって歯を磨き終えたら、そのときに処方されている薬を飲む』といった具合に、『もしXしたら、そのときはYをする』という形で、習慣にしたい行動(ルーチン)を計画することです。

これは『もしそうしたら、そのときは計画(if-then plans)』と呼ばれ、習慣化において、とても大きな効果を発揮することがわかっています。

実際にある実験では、この計画を利用することによって、薬の服用スケジュールを守れる人の割合は、55%から75%まで上昇しました。#4 p.206~210, 392

新年に入ると、『今年こそは5kg痩せるぞ!!』といった決意表明や、『今年は甘い物を控える』のような行動計画を立てる人が毎年たくさん現れます。

しかし、こうした決意表明や行動計画よりも、『もしそうしたら、そのときは計画』の方が、はるかに目標を達成する成功確率が高いのです。

『もしそうしたら、そのときは計画』が極めて効果が高いのには、きちんとした理由があります。

「もしそうしたら、そのときは」という言い方をすることによって、自分が習慣にしたいことを実行に移せる時間や状況を強く意識することができます。
これによって、生活の中で都合の良い時間や環境といった『きっかけに気づける』ようになり、次に、そうしたきっかけから、『自動的に習慣にしたいことを思い出せる』ようになるのです。#4 p.208,209

『もしそうしたら、そのときは計画』は、自分自身、習慣づくりに極めて役立っていると実感しているので、自分はDiQtでの学習にも取り入れています。

あなたが計画を立てる際に参考になるかもしれないので、具体例として、自分が実生活で運用している『もしそうしたら、そのときは計画』もご紹介しましょう。

・もし午前11時を過ぎて、昼食を食べたいと感じたら、そのときにDiQtで問題を解く。
・もし食事に炭水化物があれば、そのときは野菜から先に食べる。
・もし日が暮れてから、風呂の湯はりのボタンを押したら、そのときにランニングに行く。


既存の習慣を『きっかけ』にする

『もしそうしたら、そのときは計画』は、それだけでも十分に効果を発揮するものですが、ちょっとした工夫を凝らすことで、より強力に習慣化を促すことができます。

それは、「もしそうしたら」の部分に、あなたがすでに身につけている習慣を割り当てることです。
つまり、あなたの既存の習慣を、新しく習慣化したい行動の『きっかけ』にするのです。

先ほど、新しい習慣を形成するには平均で66日かかると紹介しました。
なかなかに長い期間です。

しかし、既存の習慣を「きっかけ」にして新しく習慣化したい行動を反復し、すでにある習慣と新しい習慣を組み合わせることによって、習慣の形成期間を短くすることができるのだそうです。#5 p.63~67

これについては、自分の習慣にも思い当たる節があります。

たとえば、先ほど紹介したように、自分は「昼食」をきっかけにDiQtで問題を解くことを習慣化しましたが、これは「昼食」という既存の習慣に新しい習慣を加えたと言っても良いでしょう。

また、すでにある習慣を「きっかけ」にすることの効果は、DiQtのユーザーインタビューでも実感しました。
DiQtによる学習をとりわけ長く継続していたユーザーは、自分のすでにある習慣にDiQtの利用を組み合わせていたのです。

たとえば、DiQtでは、朝の6時にその日に復習すべき問題を通知するメールが送られてきます。

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6時のメールというのは他のサービスに比べても早いだろうと思いますが、そのおかげで、出社前のメールチェックの習慣や朝のルーティンを「きっかけ」にして、DiQtをご利用いただくことができたようです。

このように、『もしそうしたら、そのときは計画』と『既存の習慣をきっかけにする』手法を組み合わせることによって、私たちは短期間に習慣を身につけることができます。

あなたもぜひ活用してみてはいかがでしょうか。


『報酬への欲求』を思い起こさせる

「きっかけ」の設定方法について、最後に紹介するテクニックはこれです。

『きっかけで、『報酬への欲求』を思い起こさせること。』

実はこのテクニックは、このnoteでもっとも重要な習慣化テクニックです。

先ほどから、『習慣化の基本は「きっかけ」「ルーチン」「報酬」のサイクルを繰り返して、脳に一連のサイクルを学習させること』と説明してきました。

しかし、もしその習慣を『長続きさせたい』なら、もう一つ重要な要素が必要です。

それは、『報酬への欲求』を持たせることです。

無数の研究によって、「きっかけ」と「報酬」そのものには新しい習慣を長続きさせる力はないとわかりました。
あなたの脳が『報酬を期待するようになって』はじめて、習慣は長続きするようになるのです。#1 p.90,91,92,102,103

たとえば、私があなたのために、このnoteに書かれているテクニックを全て駆使した運動習慣のメニューを立てたとします。
そして、運動のもたらすエンドルフィン(快楽)や達成感の心地良さをあなたに伝えたとしましょう。

しかしそれだけでは、その運動習慣は長続きしないでしょう。
その運動習慣が、本当にあなたの習慣になるのは、あなた自身が『運動のもたらすエンドルフィンや達成感の心地良さ』を期待して、運動し始めるようになってからなのです。

依存症も同じです。
たとえば、私があなたを監禁して、毎日あなたにヘロインを打ちながら、ヘロインのもたらす快楽の素晴らしさを伝えたとします。
しかし、それだけではあなたは依存症にはなりません。
あなたが依存症になるのは、あなた自身が『ヘロインの快楽』を期待して、自らヘロインを入手して摂取するようになってからなのです。 #3 p.80,81

つまり、習慣化の鍵は、報酬それ自体ではなく、『報酬への欲求』『報酬への期待』にあるのです。
『欲しいと思いながら行動させる』
ことこそが、習慣化では大事なのです。

このことを踏まえると、『きっかけ』も工夫できることがわかります。

たとえば、「きっかけ」を受け取ったときに、『報酬を思い出す癖』をつけると良いでしょう。

たとえば、運動する前に、運動によって得られるエンドルフィンの爽快感や、ルーチンを達成することで得られる達成感、それによって満たされる自尊心や自己イメージ、また運動によって向上する仕事の生産性や、抑うつの予防などにも思いを馳せてもいいかもしれません。

実際、ダイエットの成功者の習慣を調べたある調査によると、成功者の78%が毎日朝食をとっており、さらにそのほとんどが、特定の報酬を思い描いていることがわかりました。
たとえば、着てみたいビキニや、毎日体重計に乗るときの誇らしい気持ちといった、心から望んでいるものを思い描いていたのです。#1 p.101

習慣を挫折させる誘惑を押しのけるのは、『報酬への期待』『報酬への欲求』なのです。
そのため、あなたが『その習慣で得たいこと』を明確にし、その『期待する報酬』を『きっかけ』を通じて思い出しやすくすると、挫折を防ぎやすくなるでしょう。

「その習慣であなたが得たいものは何か?」
そしてそれを、『きっかけ』を受け取ったときに思い出すようにするのです。

また、『きっかけ』自体が報酬を思い出させ、報酬への期待を抱かせやすい仕組みになっているなら、さらに強力です。

パブロフの犬を思い出してください。
パブロフの犬がよだれを出したのは、ベルの音という『きっかけ』によって、「餌」という『報酬を期待させられた』からでした。

こうした条件づけは、人間でも行うことができます。

たとえば私は、ジョギングの報酬に「ゆっくり湯船に浸かれる」という報酬を用意していて、「風呂の湯張りのスイッチ」という直前の行動を「きっかけ」にして、ジョギングを始めるようにしています。

「湯張りのスイッチ」を押すことで、「湯船に浸かる」というジョギングの報酬を思い出せるようになり、『報酬への期待』を高められるためです。

実は、この『きっかけで「報酬への欲求」を抱かせる』というテクニックは、こんなに短くまとめていいトピックではありません。

なぜなら、習慣や依存症は、この『報酬への欲求』『報酬への期待』すなわち『ドーパミン』が極めて重要な意味をもっているためです。

しかし、ここで長々とそれについて解説を加えると、混乱されてしまう方も多いと思うので、この『欲求(ドーパミン)』についての詳しい解説は、最後の報酬の章で行うことにしましょう。

『きっかけ』まとめ
・習慣づくりのためには、まず、習慣をはじめる『具体的なきっかけ』を決めることが大事。
・「きっかけ」をきちんと決めることで、習慣のし忘れを防げるだけでなく、習慣を行う『やる気』を自動的に引き出すことができる。
・習慣をはじめる「きっかけ」には、『場所』『時間』『心理状態』『自分以外の人物』『直前の行動』の5つを設定できる。
『もしそうしたら、そのときは』という表現で、習慣をはじめる「きっかけ」と「ルーチン」を計画しておくと、習慣化の成功確率が高くなる。
「きっかけ」として、自分がすでにもっている習慣を利用することによって、習慣化にかかる期間が短くなる。
『きっかけ』を受け取ったときに『報酬』を思い出すようにする。あるいは、『報酬を思い出させるきっかけ』を設定することは、長続きする習慣を身につけるために重要である。


継続できるルーチンを設定する

さてここからは、「きっかけ」「ルーチン」「報酬」の習慣化のステップのうち、『ルーチン』を決めるテクニックを紹介しましょう。

ルーチンを決める上でもっとも重要なのは、あなたが継続できるルーチンを設定することです。

ルーチンが継続できない場合 (1)

習慣は、「きっかけ」「ルーチン」「報酬」をセットで繰り返すことによって獲得できます。
なので、もしルーチンが継続できないのであれば、上の画像のように、習慣獲得のプロセスは途中で途絶えることが多くなり、結果として習慣の獲得に時間がかかってしまいます。
そのため、「継続できるルーチンか?」というのは、ルーチンを決める上で極めて重要な問いになってくるのです。

では、「継続できるルーチン」とは、一体どのようなものでしょうか?

それは一言でいえば、『あなたが実行しやすいルーチン』です。

これについては、参考になる研究があります。
スタンフォード大学バースウェイシブ・テクノロジ研究所所長で社会心理学者B・J・フォックス博士によると、
行動を起こす人間には、以下の3つの要素が不可欠であるといいます。#7 p.75,76

1, 十分なモチベーションをもっている。
2, 行動するための能力をもっている。
3, 行動を起こすトリガーが存在する。

この3つのうち、どれか1つが欠けていたり、十分でなかったりすると、人は行動できないといいます。

3,の「トリガー」とは、「きっかけ」のことです。
効果的な「きっかけ」を設定するテクニックについては、すでに前回の章で紹介しました。
また1,の「モチベーション」についてのテクニックは、最後の「報酬」の章でご紹介します。

「ルーチン」を設定する上で、もっとも考える必要があるのが、2,の「行動するための能力」の部分です。

ここからは、この「行動するための能力」という観点から、「継続しやすいルーチン」の設定方法をご紹介していきましょう。


シンプルで簡単なルーチンを、一つずつ習慣にする

習慣化に挫折してしまう人が陥りやすい落とし穴は、『はじめからはりきりすぎてしまう』ことです。

もちろん、「やる気」も大事ではあるのですが、一時的な気分によって『自分の能力を超えたルーチン』を設定しまうことが、多くの挫折の原因になっています。

たとえば、『運動の習慣をつけよう!!』と思い立ち、いきなり「明日からジョギングと腕立て伏せと腹筋を始めよう!!」と考えるのは、挫折しがちなパターンです。
数日は続くかもしれませんが、日が経ち「やる気」が薄れれば、継続できなくなるでしょう。
つまり、「習慣化には失敗してしまう」ということです。

なので、今まで運動の習慣がなかったなら、初めのうちはルーチンに「ジョギングのみ」、あるいは「ウォーキングのみ」と設定したほうが良いでしょう。
少なくとも、いきなり「ジョギングと各種筋トレの組み合わせ」のような複雑なルーチンを設定しないほうがいいです。

このように、ルーチンを『シンプル』『簡単』に設定しておくことには、きちんとメリットがあります。

メリットの1つは、「ルーチンを実行しやすく・継続しやすくなる」ことです。 #7 p.84,85
シンプルで簡単なルーチンであれば、「きっかけ」を受け取ってから葛藤なくすぐに実行することができます。

そしてもう一つのメリットは、『習慣化しやすい』『習慣化までの期間を短くできる』ということです。

先ほど、何かを習慣にするには平均66日かかるという話をしました。
これはフィリップ・ラリーという学者が行った実験をもとにしているのですが、実はこの話には続きがあります。
それは被験者や行為によって、習慣化にかかる期間は大きくバラつきがあったということです。
平均は66日でも、習慣化に18日しかかからないものもあれば、最長で254日もかかるものもありました。
また『複雑な行為ほど、習慣化には時間がかかる』ということも明らかになりました。
たとえば、運動を習慣化にしようとした被験者は、昼食にフルーツを食べる習慣をつけようとした被験者に比べ、習慣化に1.5倍の日数がかかりました。#8 p.162,163

この研究結果には、ルーチンを決める上で重要な知見が詰まっています。
それは、ルーチンを『シンプル』で『簡単』にしておくことによって、習慣化しやすくなるということです。

逆にいえば、あなたが見栄をはって『複雑で達成困難なルーチン』を設定したなら、それだけ習慣化には時間がかかり、挫折しやすくなります。

ベトナム戦争時、ベトナムに駐在する多くの米軍兵士はヘロイン依存症にかっていました。
米軍が駐留していた南ベトナムでは、ヘロインが簡単に手に入ったからです。
では、そんなヘロイン依存症の兵士たちがアメリカに帰還したあと、再びヘロインを摂取した兵士の割合はどれくらいだったでしょうか?
わずか5%でした。
単に、アメリカではヘロインが簡単に手に入らなかったからです。
薬物依存という断ち切るのが難しい習慣でさえ、『ヘロインの入手』というルーチンを『困難』にしただけで、ここまで挫折させたのです。
習慣化において、ルーチンを困難にすることのデメリットは計り知れないでしょう。#2 p.73~79 #3 p.46~52

【補足】
ちなみに彼らをヘロインの習慣から挫折させたもう一つの理由は、戦時中の南ベトナムにはあった、ルーチンや報酬と強く結びついた『きっかけ』が、平時のアメリカには存在しなかったことが挙げられます。
当時の南ベトナムとアメリカでは、戦時下の心理的ストレス、気候、周りの人間も、何かもが違いました。
ここからわかるのは、習慣において、ルーチンを始める『きっかけ』の整備は、極めて重要だということです。#3 p62

『実行しやすく、継続しやすくなること』『習慣化しやすくなること』というメリットを理由に、初めのうちは、ルーチンを「シンプル」に「簡単」に保っておくことを強くオススメします。

たとえば、運動の習慣をつけたいなら、見栄をはらずに、まずはジョギングやウォーキングのような『シンプルで簡単なルーチン』を一つだけ選びましょう。

そして、そのルーチンが習慣化したあとに、身につけた習慣を「きっかけ」にして、筋トレのような新たな運動を一つずつルーチンとして追加するのです。
既存の習慣を「きっかけ」にすることで、新しい習慣が身につけやすくなることは、前章で紹介しました。

ともあれ、何か新しいことを習慣化しようとするときは、まず「シンプル」で「簡単」なルーチンから始めるというのは、オススメできるテクニックです。


『失敗するほうが難しい目標』を用意する

習慣化に挫折してしまう人のよくあるパターンの一つは、はじめから高すぎる目標を立ててしまうことです。

これが「よくあるパターン」であるのには、もっともな理由があります。
私たちが「何かを習慣化しよう!!」と思い立ったとき、たいてい私たちはやる気にみなぎっています。
当然、習慣には高い目標を求めますし、低い目標を立てるのはむしろ困難に思えるでしょう。

しかし、高すぎる目標には、習慣化においては見過ごせないデメリットがあります。

それは高すぎる目標によって、あなたが『報酬』を得られる機会が減るということです。

目標が高すぎる場合 (1)

大事なことなので何度も繰り返しますが、習慣化に必要なのは、「きっかけ」「ルーチン」「報酬」のサイクルを繰り返すことによって、大脳基底核にこの3つをセットで覚え込ませることです。

そのためには、ルーチンは、『始めやすい』だけでなく、『達成しやすい』必要があります。

たとえば、あなたが「1日10Km走る」という意識の高い目標を立てたとしましょう。
しかし、あなたは体調不良で「5km」しか走れなかったとします。
客観的に見れば、5kmも走れたらそれは素晴らしい運動習慣です。
しかし、あなたの主観にとっては、それは目標未達であり、ルーチンから達成感や自尊心といった「報酬」を獲得できないのです。

人は、報酬を得られない行動からは距離をおきます。
目標未達によって自尊心が傷つけられ続けるなら、いっそう素早く離れていきます。
さらに悪いことに、「目標を下げる」という屈辱を味わって自尊心を傷つけるくらいなら、高い目標を維持したまま、「忙しくなったので、それをやめる」という自己正当化にすがるのが、人間という悲しい生き物なのです。#11 p.117~119
こうして多くの人々が習慣化を諦め、挫折していきます。

この悲劇を防ぐために、心理学はとても効果的な目標設定方法を見つけています。

それは、『目標に幅を持たせる』という方法です。
たとえば、「1日に10km走る!」のようなきっちりとした目標ではなく、「1日に1kmから10km走る!」のような幅のある目標を設定しましょう。#4 p.374

この幅のある目標設定によって、あなたは高い目標を下げることなく、目標達成による報酬を受け取りやすくなります。
結果として、習慣化しやすいルーチンになるのです。

こうした幅のある目標は、『二重目標』と呼ぶこともあります。

さて、この幅のある目標を設定するためには、あなたは自分の能力を考慮しながら、『2つの目標』を決めなくてはなりません。

一つは、『あなたが頑張れば達成できる目標(上限目標)』。
もう一つは、『あなたが失敗するほうが難しい目標(下限目標)』です。

この二つの目標を決めることで、『ルーチンをXからYの範囲で達成する』という幅のある目標を設定できます。

『あなたが失敗するほうが難しい目標』を決めるのは、少し難しいかもしれませんが、これを決めることには挫折を防ぐ大きなメリットがあります。

一つは、挫折をもたらし挫折を正当化する、『忙しくてできなかった。』という言い訳をあらかじめ潰すことができるというメリットです。

「忙しい」という言い訳は、もはや現代の「免罪符」です。
「何かをしないこと」を罪悪感なしに正当化できる上に、むしろ勤勉で正しいことをしているような気さえしてきます。
そしてこの言い訳のもっとも大きな問題は、あなたが挫折してしまった本当の原因を覆い隠してしまうことにあるのです。

『失敗するほうが難しい目標』とは、言い換えれば、『忙しくても実行できる目標』です。
もしもそれさえ実行できなかったのなら、挫折の本当の原因は、「忙しさ」ではなく、次の2つのうちどちらかに絞り込めます。

1, ルーチンの実行を忘れていた。
2, ルーチンのやる気が出なかった。

習慣においてあらかじめ「忙しい」という言い訳を潰すことの1番のメリットは、このように『挫折してしまう本当の原因を突き止め、習慣化のシステムを改善できる点』にあります。

ルーチンが実行できなかった本当の理由が「忙しさ」であったなら、解決は困難かもしれません。

しかし、ルーチンを実行できなかった理由が、『ルーチンの実行を忘れていた』ことだったしたら、ルーチンにより思い出しやすい『きっかけ』を設定することで解決できます。

また、ルーチンを実行できなかった理由が、『やる気が出なかった』ことだったとしたら、やる気がほとんど必要ないレベルまで下限目標を下げることで解決できます。

『失敗するほうが難しい目標』を謙虚に設定することによって、習慣化を阻む本当の障害に気づき、その障害を取り除くことができるのです。


また、『失敗するほうが難しい目標』を謙虚に設定することには、もう一つ大きなメリットがあります。

それは『ルーチンを始める「やる気」が起きやすくなる』ということです。
先ほど、人が行動を起こせるのは、「行動するための能力をもっている」場合であるという研究を紹介しました。
『失敗するほうが難しい目標』とは、いわば『十分に達成する能力をもっている目標』です。
自分にとって「簡単な」目標を用意しておくことによって、ルーチンの「やる気」が起きやすくなり、結果として『ルーチンを始めやすくなる』のです。

この『ルーチンを始めやすくなる』というメリットは、おそらく、あなたが思っている以上に、大きなメリットです。
なぜなら、『一度始まったルーチンは、やめる『きっかけ』さえ与えられなければ、大抵そのまま続いてしまうため』です。

たとえば、NetflixやYoutubeなどの動画配信サービスで、動画を1つだけ見ようと思っていたのに、気づいたら3つも4つも動画を見ていた、という経験はないでしょうか?
この現象には「ビンジ・ウォッチング」という名前までついているのですが、実はこの現象には、動画配信サービスのある機能が関係しています。
それは、『自動再生機能』です。

自動再生機能では、動画が終わったあと、数秒待つだけで自動で次の動画が再生されます。
つまり、あなたが「視聴をやめる」という意図的な選択をしない限り、「次々と動画を見続ける」ことになるのです。
研究によって、こうした自動で選択されるデフォルトの選択肢が存在しているとき、人はデフォルトに従い続けることがわかっています。#3 p.224~232,257~262 #10 p.254~256
ここでは、人間のこの性質を『心理的慣性の法則』と呼ぶことにしましょう。
(ちなみにこの心理的な慣性は、『作業興奮』としても知られています。)

作業興奮 (1)

多くのルーチンもまた、(ジョギング中の「走り続ける」のように)自動で選択されるデフォルトの選択肢をもっています。
そのため、『始めることさえできれば、心理的慣性の法則によって、ルーチンはほとんど達成したも同然』なのです。

たとえば、あなたは『二重目標』を薦められたとき、こんな心配を抱きませんでしたか?

『失敗するほうが難しい目標』を立てると、それを達成した時点で満足してしまい、『頑張れば達成できる目標』まで辿り着けないのではないだろうか?

『心理的慣性の法則』を考えれば、この心配は杞憂だということがわかります。
『失敗するほうが難しい目標』を達成すれば、心理的な慣性によって、たいてい『頑張れば達成できる目標』まで辿り着けます。

ちなみに、DiQtでは、この『二重目標』『心理的な慣性』を取り入れることによって、自分に1年以上も学習を継続させました。

たとえば、DiQtではたった「1問」解くだけでも、連続学習記録を継続でき、レベルアップのための経験値を獲得することができます。

画像10

この「1問」が、DiQtにおける『下限目標』です。
1問解くだけなら、アクセスから目標達成まで数十秒もかかりません。
自分はこの『簡単すぎる目標』によって、『忙しくて今日はできない』という言い訳を潰されてしまい、400日を超える連続解答記録を維持することになりました。

そしてDiQtでは、この下限目標とは別に、『1日の目標解答数』という上限目標をユーザーが自由に設定できます。
この上限目標は、初期設定では30問ですが、自分は100問に設定しています。
そして上の画像のカレンダーを見ていただくとわかるように、自分はずっとこの上限目標(1日100問)も達成し続けています。
これが実現できたのは、Netflixの自動再生と同じような『心理的慣性の法則』を利用した仕組みを用意したおかげでした。
その仕組みとは、『問題の自動読み込み』です。

画像11

DiQtでは、画面内の問題が少なくなると自動で次の問題を読み込むようにしています。
ユーザーが意図的に「やめる」という選択をしない限り、自動で次々と問題が読み込まれるため、テトリスのように延々と問題を解くことができます。
このため「1日1問」という下限目標を達成したあとも、慣性を失わずに、上限目標である「1日の目標(100問)」までスムーズに解くことができたのです。

心理的な慣性を失わせる『やめるきっかけ』を、学術的に『停止規則』といいます。#3 p.224,225
SNSのような依存性の高いサービスは、「自動再生」や「自動読み込み」といった機能で停止規則を取り除くことで、サービスでのユーザーの滞在時間を伸ばそうとしています。
DiQtが目指したのは、そうしたSNSのやり方を学習サービスにも取り入れることで、ユーザーがより学習しやすくすることでした。

従来の学習サービスだと、学習単位が数十問程度のセクションになっているため、セクションを終えたときが停止規則となっていました。
セクションを終えたときに「続けるのか?やめるのか?他のセクションを選ぶのか?どれを選ぶのか?」のような選択を迫られると、そこが停止規則となり、その時点で心理的な慣性を失いがちです。
自分自身、そうした心理的な慣性の喪失によって、学習サービスであまり多くを学習できなかった経験があります。
しかし、DiQtでは、SNSのような『フィード』や『自動読み込み』を採用することで停止規則を排除したため、より多くを学習できるようになりました。
SNSの依存性のいくらかを、学習にも取り入れることに成功したのです。


「小さな習慣」が、「大きな効果」を人生にもたらす。

ここまで、ルーチンの設定方法について

・ルーチンは「シンプル」「簡単」にすること。
・ルーチンの目標には幅をもたせ、目標の下限は『あなたが失敗するのが難しい目標』にすること。

というテクニックを紹介しました。
これらのテクニックは、一言でまとめれば、『達成しやすいルーチンを設定するテクニック』です。

しかし、自分は、これらのテクニックに抵抗感を覚える人は多いだろうと予測しています。

たとえば、もしかしたらあなたは、『そんな小さな習慣に意味があるのか?もっと困難なことを習慣化すべきなのではないか?』と心配に思っているかもしれません。

その心配は、直感的には理解できるものです。
たとえば、1日に1つ英単語を覚えるだけでは、英語が理解できるようになるまでに途方もない時間がかかるでしょうし、1日に1kmウォーキングするだけでは、痩せるのも難しいでしょう。
すぐに結果が欲しい人にとっては、先述したテクニックは物足りなく感じるかもしれません。
『そんな小さな習慣は、焼け石に水で、身につけてもまったく無意味なのではないか?』
そう考えるひともいるでしょう。

その心配への答えの1つは、先ほども少し答えました。
ここまでのふり返りも兼ねて、まとめておきましょう。

まず、ルーチンを「シンプル」で「簡単」にして、さらに意図的に低い目標を設定するのは、自分の脳を騙して『ルーチンに取り組みやすくする』ための戦略です。
やる気は、ルーチンの難易度に影響され、その難易度は低ければ低いほど取り組みやすくなります。
そして一度ルーチンに取り組むことさえできれば、心理的な慣性によってあなたは「やる気」を得られるので、低い目標から始めても、最終的には高い目標を成し遂げられます。
つまり、「小さな習慣は、最終的には小さいままではないので、心配無用」ということです。

ただここでは、上記の答えに加えて、その心配を根本的に否定する答えを提出したいと思います。

それは、『習慣は、たとえそれがどんなにささいに思えても、無意味であるどころか、むしろ梃子のように生活全般に大きな影響を与える』ということです。

習慣に関するある研究によると、定期的に運動を始めると、それがたとえ週に1回といった少ない回数であっても、運動とは関係ない他の部分まで、知らないうちに改善されることがわかりました。
たとえば代表的なのが、運動を始めると食生活が向上し、さらに職場での生産性も上がるという現象です。

このように、特定の習慣は、それがささいなものであっても、連鎖的に他の生活まで改善してしまうことがあります。
このような習慣を『キーストーン・ハビット』と呼び、これこそが『小さな習慣をないがしろにするべきではない』もっとも大きな理由です。#1 p.157,158,167,168

幅広く生活を改善する「キーストーン・ハビット」は、学術的に『小さな勝利(スモール・ウィン)』と呼ばれるプロセスによって引き起こされます。 #1 p.168,172
小さな勝利とは、習慣を達成することによって得られる「小さな成功」のことです。
この小さな成功を収めることで、別の小さな成功を得ようとする力が生まれます。
小さくても「目標を達成した」という実感に励まされ、次の良い習慣に挑戦しようという意欲が生まれるのです。#1 p.172~191, #3 p104

たとえば、ルーチンに「失敗するほうが難しい目標」を決めるべきなのは、この「小さい勝利」を獲得するためでもあります。
低すぎる目標は、高い目標を達成する障害になるのではないかと心配する人もいるかもしれませんが、
むしろ1つ目の簡単な目標を達成することで「やる気」に弾みがつき、2つ目の『難しい目標』にも挑戦しやすくなるのです。 #3 p.104,105

キーストーン・ハビットが示すのは、この「小さな勝利」が、ルーチン間の目標達成意欲だけでなく、ルーチンとは別の目標の達成意欲まで呼び起こすということでした。

自分の経験からも、このキーストーン・ハビットは実感しています。
DiQtで英単語を学ぶ習慣がついてからは、英語の技術ドキュメントに出会っても、いきなりGoogle翻訳を使うことはなくなりましたし、日常的に英語に触れる習慣もつきました(最近、HololiveENにハマってしまいました...)。

あまり知られていませんが、
私たちは、思考や感情によって行動するだけでなく、行動によって思考や感情を決めます。#9 p.198~201,220~222 #11 p.117~119
良い習慣は、それがささいなものでも、行動によって私たちの生活を改善させる思考や感情をもたらしてくれるのです。

効果的なルーチンを決めるにあたって最大の障害は、おそらく自分の「虚栄心」や「プライド」です。
それさえ乗り越えて、謙虚に「シンプル」で「簡単」なルーチンと、下限に「失敗するほうが難しい目標」をもつ幅のある目標を設定できれば、ルーチンについては完璧でしょう。

たとえ最初はささいなルーチンに思えても、そのルーチンをずっと継続していくうちに、運動依存症が次第に走る距離を伸ばしていくように、薬物依存症が次第に薬の服用量を増やしていくように、次第にルーチンのレベルもエスカレートしていきます。

また、たとえルーチンがささいなままだったとしても、その日々の『小さな勝利(スモール・ウィン)』は、あなたの自尊心を満たし、他の生活を改善してくれるでしょう。

DiQtは、単なる「効果的な学習」だけでなく、「学習習慣」という「キーストーン・ハビット」を提供できるサービスを目指しています。
ちなみにある実験では、勉強の習慣を身につけることによって、喫煙量、飲酒量、テレビを観る時間も減り、運動を多くするようになり、健康的な食事を多くするようになったそうです。#1 p.207

【ルーチンまとめ】
・ルーチンには、『シンプルで簡単な行動』を設定する。
そうすることで、ルーチンを習慣化しやすくなる。

・ルーチンは、『一つずつ』習慣化していくようにする。
まず一つ易しいルーチンを習慣化したら、その身につけた習慣を「きっかけ」にして新たなルーチンを追加することで、習慣をレベルアップしやすくなる。

・ルーチンの目標を立てるときには、幅を持たせる
『頑張れば達成できる目標(上限目標)』『失敗するほうが難しい目標(下限目標)』の2つを設定して、その間であれば目標達成とする。
そうすることで、ルーチンに取り組みやすくなり、心理的慣性による「やる気」を得て、結果的に目標も達成しやすくなる。
また、習慣化を阻む本当の原因を発見しやすくなり、習慣の仕組みを改善しやすくなる。

・良い習慣は、それがどんなに些細なものであっても、他の分野にまで良い影響を及ぼすことがある。


2種類の『報酬』を組み合わせる

さて、ここからは「きっかけ」「ルーチン」「報酬」のうち、『報酬』について解説したいと思います。
やっと最後まで辿り着きました。

さて、「ルーチン」の章で紹介した、B・J・フォックス博士の『人を行動させるために不可欠な3つの条件』を覚えていますか?#7 p.75,76

1, 十分なモチベーションをもっている。
2, 行動するための能力をもっている。
3, 行動を起こすトリガーが存在する。

3,の「トリガー」の条件を満たすためのテクニックは、『きっかけ』の章で詳しく紹介しました。
2,の「能力」の条件を満たすためのテクニックは、『ルーチン』の章で詳しく紹介しました。

『報酬』の章で紹介するのは、1,の『モチベーション』の条件を満たすためのテクニックです。

ルーチンを実行する能力が十分に足りているならば、モチベーションは、この『報酬』によって決まります。

「報酬」と聞くと、私たちは『お金』のようなモノばかり思い浮かべますが、実はこの報酬には、モノに限らない多くの種類があります。

そして、私たちが「報酬」について工夫すべきことは、さまざまな種類の報酬を組み合わせることによって、ルーチンを行うモチベーションを高めていくことです。

それではまず、「報酬」の種類を見ていきましょう。

報酬は、心理学では『強化』と呼ばれています。
強化とは、『ある行動を促進させること』という意味です。
そしてこの強化には、『正の強化』『負の強化』の2種類があります。#3 p.13,14 #5 p.98~120

まずは、わかりやすい『正の強化』から解説していきたいと思います。


『ご褒美』で人を動かす(正の強化)

正の強化とは、簡単にいえば、『ご褒美』です。
あなたにとって「気持ちがいい」「嬉しい」「楽しい」と感じるものは、すべて脳にとって『ご褒美』として解釈されます。

たとえば、直感的なご褒美としては、次のようなものが挙げられるでしょう。

・賞賛など社会的承認
・金銭など物質的な報酬
・おいしい食事
・その他、あなたが欲しがっているものならなんでも

一方で、このご褒美には、次のような直感的ではないものもあります。

・何かが正しくできたという感覚。
・何かが進捗しているという感覚。
・達成感。
・自分が成長している感覚。
・優越感。
・楽しいという感覚。

このように、私たちの脳が『ご褒美』だと感じるものは多岐にわたります。

このリストをすべてを解説するのは、ただでさえすでに長いこの記事がもっと長くなってしまうのでやめておきましょう。

その代わりに、正の強化をとても効果的に使っている具体例を紹介することで、正の強化をわかりやすく解説していきます。

その具体例とは、『ゲーム』です。

私は、ゲームは極めて巧妙に報酬設計された、現代でもっとも洗練された習慣システムだと考えています。

優れたゲームは、『楽しい』ものです。
この『楽しい』『わくわくする』という感覚は、見逃されがちですが、実は強力な『正の強化(ご褒美)』なのです。#2 p.111,112

では、『楽しい』とは具体的にどういうことをいうのでしょうか?
ゲームを具体例にすると、次のような要素が私たちに『楽しさ』をもたらします。


『フィードバック』
楽しいゲームは、煌びやかなエフェクトや豪華なSEで、私たちユーザーの行動を祝福してくれます。
ラットを使った実験によって、こうした光の点滅やファンファーレなどのSEは、脳の原始的な部分を刺激し行動を促す『正の強化』となることがわかりました。
一見ささいにも思えるゲームのエフェクトなどは、見逃されがちですが、実はとても強力な「ご褒美」なのです。#3 p.140,162,163
また楽しいゲームは、ユーザーの操作のたび、その操作が成功 or 失敗したことを伝えるフィードバックを細かく伝えます。
これを『マイクロ・フィードバック』と呼びますが、これらもまた快楽を伴います。#3 p.140
私たちが操作を学ぶときには大脳基底核という部分が働くのですが、ここでは「正しい操作」ができたときにドーパミンを放出することで、その操作に使った神経回路を強化して、操作を学習します。#6 p.121
そしてドーパミンの放出は、脳には『快楽(正の強化)』として解釈されるのです。#3 p.78
こうしたユーザーに快楽をもたらすフィードバックを、ゲーム業界では『ジュース』と呼ぶそうです。#3 p160~163
楽しいゲームやギャンブルは、こうした『ジュース』をうまく使って、ユーザーに「正の強化(ご褒美)」を提供しています。
(動画:光の点滅や音は、それ自体が「正の強化」となる)


『上達を感じやすい仕組み』
楽しいゲームは、自分の技術の上達を感じやすいようにできています。
実は、こうした上達はそれ自体が快感をもたらし、『正の強化』となるのです。#3 p.209,210
また「上達が感じやすい」仕組みは、『熟達願望』を煽りやすいという点でも極めて効果的です。
熟達願望というのは、『ある技術を習熟したい』という人間が生来もつ欲求のことです。#5 p.142~158
この熟達願望は、『内発的動機』と呼ばれる動機なのですが、この内発的動機は、ここで紹介している「強化」よりも、長期的にヤル気を引き出せるとされています。#5 p.145 #11 p.32~34
もちろん、内発的動機というくらいですから、『その技術を上達したい』と当の本人に自発的に思ってもらわないと発生しません。
しかし、楽しいゲームは、私たちの自発性・自律性さえも、演出によってうまく誘導しているように思えます。
『上達を感じやすい』仕組みというのは、その演出のひとつです。
(例」マリオやFlappyBirdなどは、進んだ距離によって技術の上達が一眼でわかる仕組みになっています。)

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『進歩を実感させる仕組み』
楽しいゲームでは、自分のステータスがはっきりと可視化されます。
これには、私たちに『進歩を実感させる』というメリットがあります。
先ほどの『熟達願望』にも通じる話ですが、私たちは「進歩している」「成長している」ということに喜びを感じます。
技術を向上させていくこと自体にも喜びを感じますが、成長それ自体によって自尊心が満たされたり、社会的比較の中では成長がまさにステータス(地位の高さ)となることで報酬(正の強化)となります。#2 p.241
現実では、たとえ成長していたとしても、それを実感して報酬として認識できる機会は少ないかもしれません。
しかし、楽しいゲームは、進歩を数値化するなど『見える化』することで、私たちにうまく成長を実感させてくれます。
たとえば数値化には、過去の自分や他人との比較が簡単にできるようになるという利点があります。
こうした数値化やビジュアライゼーションは、アナログよりデジタルのほうが得意な分野ですが、楽しいゲームはこのデジタルの利点を活かし、ユーザーのさまざまな行動を「見える化」することで、「進歩」というご褒美(正の強化)として提供しています。#8 p.146~150
(例:DiQtでは、連続解答日数や日別の解答数を表示することで、進歩を見える化しています。)

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『目標』
楽しいゲームでは、明確な目標が与えられます。
実際に目標には、人間の行動を促す力があるのです。#3 p.104,105
その原動力は、目標を達成することによって得られる『達成感』などの報酬への『欲求』でしょう。
実はこの欲求は、目標に近づくにつれて上昇していくことがわかっています。
これは心理学で『目標勾配効果』として知られています。#8 p.132~134

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楽しいゲームは、 この目標と目標勾配効果をうまく使うことで、ユーザーの行動を促しています。
たとえば、『頑張れば手が届きそうな目標』を次々と提案する、というような具合にです。
目標は、達成によって得られる『正の強化(達成感や目標達成報酬など)』によって、目標達成までの行動を促します。

【補足】
どうやら目標の価値は、達成させること以外にもあるようです。
目標の達成に失敗しても、『惜しい』という感覚が、その後の行動のモチベーションにつながることがあります。#1 p.369~371 #3 p.221~223
これも『目標勾配効果』の一種だと思われますが、「あとちょっとで目標を達成できる」というときにそれに失敗すると、その後の(目標達成以外のことでも)行動に対して意欲を燃やすそうです。#3 p.221~223
「惜しい」とはいえ失敗は失敗ですし、ときにかなりイライラさせるこのニアミスを「正の強化」に含めて良いか迷ったので、今回は別に解説しました。
ただ、このニアミスのもたらすモチベーションはかなり強いらしく、多くの楽しいゲームは、『惜しい』という感覚を引き出すために工夫しています(動画はパチンコの例)。


『社会的相互作用』
ゲーム、とくに依存性が高いとされる「オンラインゲーム」は、社会的な要素によって人々を惹きつけています。#3 p.287,289
人間は、社会的な生物です。
そもそも人間は他人との関わり合いを前提に設計されているので、人間関係で発生する快楽は多いのです。
『承認欲求』や『社会的比較』が悪く言われがちな昨今ですが、『社会や他人に認められること』による快楽は、それ自体が『正の強化』として社会的な行動を促進します。
そのおかげで、私たち人間は他の生物と比べて高度な社会を形成できました。
あるいは、承認欲求によって社会を形成できた個体だけが生き延びることができました。#3 p.279~281
承認欲求に問題があるとしたら、この狩猟採集時代に形成された脳は、「良い社会的活動」も「そうでない社会的活動」も同じように強化することでしょう。
社会的承認による「快楽」という「正の強化」は、社会を選ばないのです。
楽しいオンラインゲームは、この脳の特性を活かして、現実と同じように、多種多様なコミュニティをを内部に作り出し、そして交流させています。
それもシステムの介入によって、現実よりも洗練された形で。
これはSNSにも言えることですが、結局のところ人間は社会的生物なので、こうした社会的なシステムを楽しく思うものなのです。

さて、ここまで楽しいゲームの要素として、『フィードバック』『上達を感じやすい仕組み』『進歩を感じやすい仕組み』『目標』『社会的相互作用』の5つを紹介してきました。

これ以外にもゲームを楽しくする要素はたくさんあると思いますが、習慣化において生活に取り入れやすいのは、この5つだと思います。

たとえば、『フィードバック』でいえば、自分が習慣にしたい行動を正しくできているかすぐに確認できる仕組みがあると、正の強化を受けやすいことがわかります。
『上達を感じやすい仕組み』『進歩を感じやすい仕組み』でいえば、習慣にしたい行動(たとえば、走るペースや走行距離など)を記録しておくと良いでしょう。
『目標』の効果的な設定方法については、ルーチンの章ですでに解説しました。
『社会的相互作用』についていえば、あなたは同じ習慣を励ましあえる他人と関わったり、コミュニティに参加すると良いとわかります。
実際に、同じ習慣を目指すコミュニティに参加することは、習慣の定着を助けることがわかっています。 #1 p.144,145,149,150

こうしたゲームの報酬設計は、自分の習慣化にも役立ちますが、教師やインストラクターなど他人の習慣化を助ける指導者にとっても役立つものでしょう。

このように、ゲームとは異なる分野にゲームの報酬設計を採用することによってモチベーションの向上を図る手法は、『ゲーミフィケーション』と呼ばれています。

ゲーミフィケーションは、多くの企業やアプリが採用している手法でもあり、たとえば、運動の習慣化にこのゲーミフィケーションを利用している例としては、「Nike Run Club」などが挙げられます。


ちなみにDiQtでも、ユーザーの学習を習慣化するために、このゲーミフィケーションを取り入れています。

DiQtが取り入れているゲーミフィケーションは、『PBL』と呼ばれる手法です。

ゲーミフィケーションの専門家として知られるペンシルベニア大学ウォートン校のケビン・ワーバックと、ニューヨーク・ロースクール教授のダン・ハンターは、ゲーミフィケーションの例を100件以上検証し、共通する3つの要素を明らかにしました。
『ポイント制であること(Point)』『バッジがあること(Badge)』『上位に入ったプレイヤーを発表するランキング表があること(LeaderBoard)』です。 #3 p.372

【PBL】
・Point:経験値やレベル。サービス内通貨など。
・Badge:プレイに応じて手に入る称号。
・LeaderBoard:ランキング。

これらはすべて『正の強化』すなわち『ご褒美』です。

経験値やレベル(Point)は、あなたに『進歩している』という実感を与えるご褒美になります。
称号(Badge)は、目標として機能し、あなたに『達成感』、達成後には『進歩』を感じさせるご褒美になります。
ランキング(LeaderBoard)は、あなたに『社会的承認』を感じさせるご褒美になります。

DiQtもまた、このPBLによる『正の強化』を取り入れることで、ユーザーの学習習慣を助けています。

(Point)

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(Badge)

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(LederBoard)

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このようにゲームは、ユーザーに継続させるという目的のために、さまざまな優れた報酬設計をもっています。
そのデザインは、あなたの良い習慣をつくるために必要な『報酬』を考える上で、有益な手がかりにもなります。

もしもあなたの習慣にゲーム的な要素を取り入れられるなら、ぜひそうしてみましょう。
きっと役立つはずです。

強力な、予測不能な『ご褒美』

実は「ご褒美(正の強化)」は、与え方を工夫することによって、報酬としてより大きな効果を発揮することができます。

ご褒美のちょっとした欠点は、時間経つにつれ、私たちがご褒美に慣れてしまうということです。
ご褒美が予測できるようになってしまうと、次第にご褒美の快楽は薄れてしまいます。 #3 p.251,252,253

この欠点を克服する方法は、ご褒美の与え方を『予測不能』にすることです。
数々の研究から、この「予測不能なご褒美(正の強化)」は、予測できるご褒美よりも行動に対する意欲をあげることがわかっています。#3 p.146,147,251~253 #8 p.135~138

たとえば、この『予測不能なご褒美』を巧みに利用して依存性を高めているのが、ギャンブルやソーシャルゲームやSNSです。

カジノやパチスロやソーシャルゲームのガチャでは、常に賭けに勝利してご褒美がもらえるわけではありません。
むしろ、勝てることのほうが少ないはずなのですが、それによってご褒美に予測不能性が生まれ、人を依存させるほどに惹きつけます。
SNSの「いいね」のような機能も同じです。
あなたの投稿した画像やポストに「いいね」がつくかどうかは、予測することができません。
しかし、その予測不能性によって人は「いいね」というご褒美を渇望し、せっせと投稿を続けるようになるのです。#3 p.143~154

予測不能なご褒美(正の強化)は、人を動かす力として強力です。

しかし、習慣化においては、この「予測不能なご褒美」は気をつけて扱う必要があります。

なぜなら、ランダム性によって「正の強化」が完全になくなってしまった場合には、「きっかけ」「ルーチン」「報酬」のサイクルが途絶えしまうためです。

なんどでもいいますが、習慣化にとって重要なのは、「きっかけ」「ルーチン」「報酬」のサイクルを繰り返して、大脳基底核にこの3つをセットで覚え込ませることです。

なので、予測不可能性を取り入れるなら、最低限、習慣化のサイクルを回せるだけの報酬(正の強化)を用意しつつ、手に入る報酬が予測不能に増えるような仕組みにしたほうがいいでしょう。
少なくとも、予測不能性によって「負け続ける」仕組みになってしまうと、人々は行動に依存する前に離れてしまいます。
そのため、カジノでは、負けが混んでいる客に「特別ボーナス」をプレゼントしたり、スロットでは、実際には負けているにも関わらず、まるで勝っているかのような演出を提供したり、少額を払い戻すなどして「正の強化」を演出するのです。#3 p.154~162

いわゆるガチャも「予測不能性なご褒美」ではありますが、完全なハズレはなく、ノーマルレアであれ基本的に「正の強化」であることは留意しておくべきでしょう。

ちなみに現時点では、DiQtに「予測不能なご褒美(正の強化)」を用意していません。
一応準備はしているので、今後に期待していただきたいのですが、「予測不能な正の強化」は、強力であると同時に倫理的にも議論の多いところなので、慎重に実装していきたいと考えています。


『不快感の除去』で人を動かす(負の強化)

さて、ここまでが報酬のうち『正の強化(ご褒美)』の解説です。

ここからは、正の反対、『負の強化』について解説していきたいと思います。

負の強化とは、『不快感の除去』です。
負の強化は、ご褒美に比べて見逃されがちなのですが、かなり強力に人を動かします。#3 p.14,15 #5 p.117,118

負の強化は、正の強化に比べて少しわかりにくいので、具体例を使って説明していきましょう。

ここでつかう具体例は、『過食嘔吐』という依存症です。

「過食」という習慣については、直感的に理解できるでしょう。

過食嘔吐と習慣 (2) (1)

「ストレス」のような「きっかけ」から、「過食」という「ルーチン」を実行すれば、「エンドルフィン(快楽)」という「報酬(正の強化)」が得られます。
エンドルフィンは、「癒やし」をもたらす神経伝達物質で、おいしい食事から得られます。
そのため、ストレスの吐け口を食事に求める心理は理解できるものです。

しかし、「嘔吐」は理解が難しいのではないでしょうか?
一応、嘔吐は安堵感をもたらす「セロトニン」という神経伝達物質を提供するので、正の強化がないわけではありません。#2 p.103
しかし、それでも嘔吐は苦しいものなので、あえて実行しようとはほとんどの人は思えないでしょう。

それを実行させるのが、『負の強化』なのです。
過食嘔吐に陥るのは、若い女性が多いのですが、そうした方々は『太ること』に対する恐怖を抱いています。
過食のあとなら、その恐怖はいっそう大きくなっていることでしょう。
その「太る恐怖」を取り除く行動が、『嘔吐』なのです。
人は、恐怖から逃れることに対して、並々ならぬモチベーションを発揮します。
なぜなら、人間にとって『恐怖から解放されること』は、極めて大きな『報酬』だからです。
そして、この『不快感(恐怖)の除去』という報酬を、『負の強化』と呼びます。

負の強化刺激と習慣 (3) (1)

負の強化は、人を動かす力としてとても強力なので、企業のありとあらゆるマーケティング活動で確認できます。

たとえば、『割引クーポン』がそうです。
割引クーポンは、一見、「お得に商品を買える」という正の強化しか持たないように思えます。
しかし実際には、クーポンには巧妙に『有効期限』が設定されており、それによって「期限内にクーポンを使わないとお得に買える機会を失う」という「不快感」を植え付けられます。
そして、その不快感の解消が「負の強化」となるため、たとえ商品が「不要」だったとしてもクーポンを使いたくなり、実際に商品を購入してしまうのです。

【割引クーポンの強化】
正の強化:商品が安く買える(得をする)。
・負の強化:安く買える機会を失う不快感から解放される(機会損失の不快感の除去)。

『タイムセール』『期間限定』という売り文句にも、クーポンと同じ『機会損失の不快感からの解放』という『負の強化』が利用されています。
あなたの部屋にも、本当は必要ではなかったけれど、タイムセールで安くなっていたのでつい買ってしまった商品はないでしょうか?
負の強化刺激は、不要なものにまで『欲望』を生み出す、極めて強力な刺激なのです。

ギャンブルは、この「負の強化」をより強力な形で利用しています。
たとえば、パチスロのようなギャンブルは確率的に負けるようにできているのですが、それでもあなたは『負けていれば負けているほど、さらにギャンブルを続けようとする』でしょう。
これははたから見ればとても奇妙ですが、『負の強化』を考えれば理解できます。
『損をしたまま帰るのは、とても不快』なのです。
そのため、この『損失の不快感の解消』という「負の強化」を求めて、ギャンブルを続行します。
なぜなら、ギャンブルを続けるかぎりは、『損失』は確定せず、つぎ込むお金は『投資』に思えるからです。
こうして『負けを取り戻す』という『負の強化』を求めて、皮肉にもさらに損を重ねていくのです。

ソーシャルゲームのガチャが批判されがちなのも、こうした『負の強化』が強力に働きすぎることがあるからかもしれません。
1000円分のガチャを回してお目当てのものが手に入らなかったときは、「1000円の損失」なので、悔しくは思えますが、そこでやめることもできます。
しかし、1万円分ガチャを回してもお目当てのものが手に入らなかったら、「1万円の損失」なので、そこでやめるのは『とても悔しい』です。
そしてこの『悔しさ』を解消できる『負の強化』は、皮肉にも、もう一度ガチャを回すことなのです。
ガチャを回し続ける限り、心の中では、今までつぎ込んできた金額は「投資」に感じられるので、損失の不快である「悔しさ」が避けられるからです。
そして2万3万と投資額が膨れ上がるにつれて、さらにやめることが難しくなります。
そこでやめれば、今までの投資額がすべて「損失」に思えてしまい、とても悔しいからです。
この「負の強化」による皮肉な悲劇は、『サンクコストの錯誤(Sunk-cost fallancy)』として知られています。#10 p.204~207

サンクコストの錯誤 (1)

【補足】
あなたがギャンブルで破滅しないように、この「サンクコストの錯誤」を克服するための魔法の質問を教えましょう。

『もしも、あなたが今までギャンブルに注ぎ込んだ額の『現金』を、ギャンブルに注ぎ込んだのではなく、単に「落としてしまった」としたら、それでもあなたはそのギャンブルを始めたいと思いますか?』

もしこの質問にYesならギャンブルを続けるのは合理的ですが、もしNoなら続けるのは不合理です。
ちなみにこの質問は、サンクコスト(埋没費用)で判断を誤りがちな、ギャンブル・ガチャ・投資・事業などを続行すべきかどうかを判別するのにも役立ちます。#10 p.250~252


『負の強化』の原理と応用方法

負の強化は、限定販売のようなマーケティングや、ギャンブルのようなビジネスモデルにまで幅広く取り込まれるほど強力です。

なぜ負の強化は、これほどまでに強力に人を動かすのでしょうか?

それは負の強化には、『損失回避(Loss aversion)』と呼ばれる人間の本能が働くからです。
損失回避とは、人間の「ポジティブな物事よりも、ネガティブな物事に強く惹きつけられる」本能のことをいいます。
「恐怖・怒り・不快・損失・危険」などのもたらす悪感情は、それ以外の良い感情よりも「2倍」以上も強く私たちに重視されます。#10 p.98~100,128~132

損失回避 (1)

そのため私たちは、得や快楽を得るために行動するよりも、損や不快を避けるために積極的に行動する傾向があるのです。

そして負の強化とは、まさに『損や不快を避けるための痛み止め』です。
そして、人の損失回避性は、この「痛み止め」という報酬を得るためなら、とてつもないモチベーションを燃やすのです。

皮肉なのは、先ほども紹介したような、ギャンブルを途中でやめられなくなる『サンクコストの錯誤』も、根本の原因は『損失回避』にあることです。
損失を避けようとした結果、かえって損失を受け入れるよりもはるかに大きな損失を抱え込む悲劇的なケースも多いのです

【補足】
「損失」と同じようにお金が減るのに、「投資」や「購入」という言葉は受け入れられやすいのは、「投資」や「購入」はそのリターンによって損失を取り戻せるものだと考えられているからです。
私たちも「勉強料」という表現で損失を慰めたりしますが、こうした損ではなく利得に焦点づける解釈も、サンクコストから逃れる手段として効果的です。#4 p.161,162

ギャンブルで身を崩す人たちを、私たちは「恐れ知らずの人たち」だと思いがちですが、実際のところは、私たちと同じように「損を恐れる普通の人たち」なのです。

「負の強化」が、人の「損失回避性」に基づいていると理解できると、習慣化にも応用しやすくなります。

たとえば、習慣化をスムーズに勧めたいなら、自分がルーチンを達成したことを、毎日誰かに報告するようにすると効果的です。
他人にルーチンの達成を報告し続けることで、あなたは、そのルーチンの達成を報告できなかった場合に「面目を失う」という恐怖を得られます。
その恐怖が大きければ大きいほど、その恐怖を解消する「負の強化」であるルーチンを実行するモチベーションになります。
「みんチャレ」や「stickK」などの習慣化サービスは、この「負の強化」をうまく利用して人々の習慣化を助けています。

負の強化は、強力な『正の強化(ご褒美)』が用意しずらい習慣で、とりわけ大きな効果を発揮します。

たとえば自分だと、「毎朝7時前に起きる」という習慣に「負の強化」を利用しています。

自分は布団からかなり離れたところに「めちゃくちゃうるさい目覚まし時計」をおいているのですが、この目覚ましは『二度寝できないほど不快な騒音』と『鳴らし続けると近所迷惑になって面目を失うかもしれない』という不快感をもたらします。
そしてこの不快感を除去できる「負の強化」は、「目覚ましが鳴る前に起きて、目覚ましを止めに行く(上限目標)」か「目覚ましが鳴った瞬間に布団から飛び起きて、急いで目覚ましを止めにいく(下限目標)」というルーチンしかないので、自分はどんなに眠くても眠気に悩む暇もなく、朝すぐに布団から出ることができます。

一応、きちんと起きれたらコーヒー1杯という「正の強化」も用意しているのですが、自分は朝に弱いので、コーヒーだけで習慣化できたとは思えません。

このように負の強化は、正の強化だけでは十分なモチベーションが得られない場合に、とりわけ効果を発揮します。

ちなみに、DiQtでも「負の強化」を利用することで多くのユーザーの学習習慣を助けています。

それが『連続解答記録』『リマインドメール』です。
DiQtでは、連日解答記録を保持しているユーザーで、かつその日の問題をまだ解いていないユーザーに対して、午後9時に次のようなメールを送っています。

警告メール (2) (1)

このメールは、受け取ったユーザーに、次の3つの恐怖(不快感)を植え付けます。

1, 「せっかく積み上げてきた連続解答記録を失う」という損失への恐怖。
2, 「連続解答記録に応じたボーナス経験値がもらえなくなる」という機会損失への恐怖。
3, 「3時間後には、連続解答記録を更新する機会を失う」という機会損失への恐怖。

そしてこの恐怖から解放してくれる「負の強化」は、『今すぐDiQtにアクセスして、問題を1問でも解くこと』によってしか得られないのです。

この「負の強化」は、自分でもかなり継続に貢献していると実感しています。
連続解答記録が400日を超えた今となっては、私はこの記録を途絶えさせることが考えられないくらいです。
それは一種の『強迫観念』です。

注意点として、これは自戒をこめていうのですが、この「負の強化」によるモチベーションは、心理学でいうところの『強迫観念』であって、決して『気持ちの良いものではない』ということです。#3 p.13,14
恐怖や不快感を取り除いたときに「安堵感」はありますが、そもそも恐怖や不快感を植え付ける時点で、相手にストレスを与える手法でもあります。

そのため「負の強化」は、使い方や用途には十分に気をつけるべきだと思います。

個人的には、モチベーションの設計は、基本的には『正の強化』で行うべきだと考えています。
また、『負の強化』を用いる場面でも、『正の強化』と併用することで、「期限付き割引クーポン」のように損失ではなく利得に焦点づけることで、不快感を減らす努力をしたほうがいいと考えています。

ランニング依存症の方の中には、連続ランニング記録を絶やさないために出産直前にも走り続けた方もいるらしいですが、
負の強化によってそこまで負担を強いられるくらいなら、DiQtを中断していただきたいので、私も何かしらの対応策を考えているところです。#3 p.130~132

報酬の目的は、『欲求(ドーパミン)』を生むこと

さて、ここまで2種類の報酬である『正の強化』『負の強化』を紹介しました。
報酬の種類については、これで理解できたかと思います。

ここからは最後に、報酬について重要なことをお知らせします。

それは、習慣化における報酬の目的は、報酬自体(快楽や不快の除去)ではないということです。

習慣化における報酬の目的は、『報酬への欲求』を生み出すことです。

どういうことでしょうか?
その説明のためには、まず『欲求』の正体である『ドーパミン』について解説する必要があるでしょう。

これまでにも何度かドーパミンについては触れてきましたが、そのうちのいくつかでは、ドーパミンを『やる気(欲求)』の正体として紹介しました。
たとえば、覚醒剤やコカインやヘロインのような違法薬物や、アルコールやニコチンなどの依存性物質は、脳内でドーパミンの産生量を増やします。
そのドーパミンによって、それらの物質を強烈に求める『渇望感(やる気)』が生み出されるのです。#2 p.89

一方、ほかの説明では、ドーパミンを『快楽』の正体として紹介しました。
最近の研究によると、快楽はドーパミンより、エンドルフィンなどのオピオイド系の影響が強いそうなのですが、ともあれ、脳はドーパミンの放出を『快楽』として解釈します。 #3 p.78
欲求によって何かに『のめり込んでいる』とき、私たちは『心地良さ』を感じているのです。
この快楽のために、ドーパミンは極めて強力な『正の強化(ご褒美)』となり、習慣を強化する『報酬』となります。

そして、これこそがドーパミンのもっとも恐ろしい、習慣と依存を形成する特徴なのですが、
ドーパミンの欲求は、「報酬」だけでなく、『報酬を得るための行為』にまで執着させるのです。#2 p.109

たとえば、薬物依存者は、薬物によるハイだけでなく、薬物を手に入れて摂取する行為自体に依存します。
ギャンブル依存者は、ギャンブルで手に入れるお金だけでなく、ギャンブルという行為自体に依存します。
タバコ依存者は、ニコチンのもたらす気分だけでなく、タバコを吸うという行為自体に依存します。
買い物依存者は、手に入る商品という報酬だけでなく、買い物という行為自体に依存します。
ある買い物依存症の女性は、買い物への依存について、こう語っています。

「要は、店で感じるスリルなのよ。買い物をしているときのほうが、家に帰って買った物を袋から出すより、ずっと楽しい。買ったものの半分はワードロープの下にしまいこんで、見もしないわ」#2 p.110

かつて神経科学では、依存症は、ドラッグやアルコールのような特別な物質に対してのみ起こるものであり、行動には起こり得ないと考えられていました。
しかし、研究によって最近わかったことは、この買い物依存症の女性のように、人間は特別な物質だけでなく、『行動自体にも依存する』ということでした。
薬物常習者がヘロインを注入するときと、買い物依存症患者が買い物を行うときの脳の反応は、ほぼ同じなのです。 #3 p.71,72,76~79

こうした行動への依存は、『行動嗜癖』と呼ばれています。#3 p.vii

ここで重要なのは、「行動嗜癖」とは、まさに強力な「習慣(ルーチンへの依存)」であり、それをもたらすものこそが『ドーパミン』であるということです。

なぜドーパミンは、「行動への依存(習慣)」を引き起こせるのでしょうか?

それは、ドーパミンに誘発された快楽を経験すればするほど、私たちはその経験を繰り返したくなるからです。
精神科医ノーマン・ドイジの言葉をかりると、『私たちをワクワクさせるドーパミンの急上昇はまた、私たちに目標達成行動をとらせたニューロン結合を固定化する』のです。#2 p.88
これはつまり、『ドーパミンによって促された『きっかけ』『ルーチン』『報酬』のサイクルは、神経レベルで深く覚え込まれ、繰り返される』ということです。
これほどまでに習慣化に役立つ報酬が、ほかにあるでしょうか?

たとえば、ドーパミンには、『「きっかけ」に結びつきやすい』という性質があります。#2 p.92~94,109,128,129,165,234,276 #3 p.71,72

そして、これこそドーパミンの恐ろしいところなのですが、
ドーパミンによって、ひとたび脳が「きっかけ」と「報酬」を結びつけて学習すると、脳は『「きっかけ」に反応してドーパミンを放出する』のです。#2 p.93
(ドーパミンをもたらす報酬系は、快楽の経験の記憶に影響を受けるため。#6 p.128,129)

たとえば、ネットゲーム依存症患者は、パソコンの電源を入れるときに、ドーパミン値が急上昇します。
運動依存症患者は、ランニングシューズの紐を結ぶときに、ドーパミン値が急上昇します。#3 p99,100
ほかにも、この「きっかけ」に反応して放出されるドーパミンについて、買い物依存症の男性はこんな証言をしています。

もっとも興奮するのは、決済が成立して、端末機がウィーンという音を立てるときだよ。本当にドキドキしてくる。正直言うと、その音を聞くと、勃起しそうになるほどだ。一番やっかいなのは、他の人のカードにも影響されてしまうこと。たとえば、セーターを見ているときに、決済端末機がだれかのレシートを吐き出す音を聞くと、ぼくはまったく無力になってしまう。そして、そのセーターは、ぼくのワードロープに収まることになるんだ。でも、自分のレシートを手にしたとたんに、興奮はどこかに消えてしまうんだけどね。」#2 p.111

彼をドキドキさせているのは、まさしくドーパミンです。
しかし、彼をドキドキさせたのは、「手に入れた商品」ではなく、『決済端末機のレシートを吐き出す音』だということに注意してください。
彼は、「報酬」にではなく、『きっかけ』に興奮したのです。

「きっかけ」のもたらす『報酬への期待』によって、脳は、ルーチンに対する『やる気・欲求(ドーパミン)』を、興奮とともに生み出します。

皮肉にも、この買い物依存症の男性のように、期待している報酬自体からは、もはやさほど快楽が得られないにも関わらず、です。
ドーパミンには、もはや快楽を感じなくなったものを追い求めさせる力があるのです。 #2 p.92 #3 p.100

手に入れたあとより、求めているときのほうが楽しい。
それが依存症とドーパミンの業深さなのです。#8 p.140

ここには、習慣と依存について重要な事実が隠れています。
それは、人を依存させるのは、『報酬の快楽』ではないということです。

人を依存させるのは、むしろ『きっかけ』によって思い起こされる『報酬への期待』すなわち『欲求(ドーパミン)』なのです。#1 p.90,91

「きっかけ」の章で、「自分の意思に反して麻薬を打たれても依存症にはならない」という話をしました。
依存症になるのは、自ら望んでその麻薬を求めたときだけなのです。#3 p.78~82

依存や習慣は、報酬の快楽ではなく、報酬への『欲求』によって定着するのです。#1 p.91,92,101~103

ここからは、習慣化における報酬を決めるにあたって、もっとも重要なテクニックが引き出せます。

それは、報酬には、『あなたが求めるもの』を設定するということ。
そして、ルーチンを始めるにあたっては、その報酬を実際に『求める』ということです。

ここまで、習慣化には『きっかけ』『ルーチン』『報酬』の3つのサイクルを繰り返すことが重要であると述べてきました。
しかし、もしもその習慣を長続きさせたいなら、あともう一つだけ大事なことがあります。

『報酬への欲求を持つこと』

それが「長続きする習慣」の最後のピースとなります。#1 p.91,92,101~103


実は、この「報酬への欲求をもつ」ためのテクニックについては、「きっかけ」の章の最後ですでに紹介しています。
『きっかけで報酬を思い出させる』というテクニックです。
読み返してみると、理解が深まって面白いかもしれませんね。


【報酬まとめ】
・報酬には、『正の強化』『負の強化』がある。

・正の強化は、ルーチンを実行したことによって得られる『ご褒美』である。
正の強化をもたらす刺激には、さまざまな種類があるが、とりわけ『ゲーム』の報酬設計は参考になる。
その中でも、『フィードバック』『上達を感じやすい仕組み』『進歩を感じやすい仕組み』『目標』『社会的相互作用』は、日常生活にも取り入れやすい。

・正の強化は、ランダム性・予測不能性をもつと、とりわけ大きな効果を発揮する。

・負の強化とは、ルーチンを実行したことによって『不快感を除去すること』である。
負の強化は、人の「損失回避性」という本能に基づいて強力に人を動かすので、正の強化だけではモチベーションが足りない場合に併用すると良い。

・習慣は、『報酬への欲求(ドーパミン)』によって定着する。
報酬の目的は、報酬自体ではなく、『報酬への欲求を持たせること』なので、「きっかけ」で「報酬を思い出させる」仕組みがあると効果的である。


【補足】
注意点として、ドーパミンは『欲しい』という感情を引き起こすものであり、『好き』とはまた異なります。#2 p.82,83 #3 p.95~100
「欲しい」と「好き」は、まったく別の神経回路なので、あなたは「好きではないもの」に対して、「欲しい」と感じたりします。
私たちの「好きなもの」と「欲しいもの」はたいがい一致しているので混同しやすいのですが、アルコール依存症や薬物依存症など依存症の方々は、自分が依存している対象を好きではなく、むしろ憎んでさえいます。
つまり、あなたの脳は、「あなたが嫌いなものやイヤなこと」であっても「欲しい」と感じることがあるのです。
実際、負の強化で「欲しい」と思わされても、それを「好き」だという人は少ないでしょう。


諦めないことが、一番大事

さて、ここまで習慣を形成する3つのステップ『きっかけ』『ルーチン』『報酬』のそれぞれのテクニックをご紹介してきました。

短くまとめたつもりでしたが、結構長くなってしまいましたね。

ただ今回ご紹介したさまざまなテクニックはすべて、同じ一つの目標を目指しています。

つまり、『習慣を続けさせる』ことです。

結局のところ、習慣の形成でもっとも重要で、そしてもっとも困難なのは、『続けること』なのです。

『続けること』は、習慣形成のために大事なことであると同時に、『大変なことを簡単にする方法』でもあります。

最初のほうで述べたとおり、『きっかけ』『ルーチン』『報酬』のサイクルを繰り返すことで、それら一連の行動は大脳新皮質のような『意識的な記憶』ではなく、大脳基底核のような『無意識な記憶』に保存されます。

新しく物事を記憶する能力を失った患者でさえ、新しい習慣を獲得し、新しい習慣にしたがって行動できるようになるのはこのためです。#1 40~55

つまり、意識的な自制心の必要だった大変なことも、『続けること』によって、無意識に自制心の必要ない『簡単なこと』に変えることができるのです。

これこそ、『続けること』、そして『習慣』の価値でしょう。
そして一度身につけた習慣は生涯消えることがないので、『一生ものの財産』でもあります。#1 p.48,49

ただ、もしも続けられなかったとしても、自分を責めないであげてください。
習慣になる前なら、「続けること」はそれ自体大変なことですし、自分を責めても何一つ得られるものはありません。
それに1日休んだ程度では、習慣化に遅れはでないことも研究からわかっています。 #8 p.163

自分を責めるよりもよっぽど大事なことは、『続けられなかった原因を分析すること』です。

・『きっかけ』が不十分だった。
・『ルーチン』が不十分だった。
・『報酬』が不十分だった。

続けられなかった原因は、大体この『3つ』のいずれか、あるいはその組み合わせになります。

原因が判明すれば、もはや問題は解決したようなものです。

「きっかけ」が不十分だったなら、このnoteの「きっかけ」の章で紹介したテクニックを使って改善し、
「ルーチン」が不十分だったなら、「ルーチン」の章を参考に改善し、
「報酬」が不十分だったらな、「報酬」の章を参考に改善していきましょう。

実は、こうした失敗と試行錯誤は、長期的に習慣を変えるために重要であることが、研究によって示されています。

たとえば、禁煙は成功するまでに、だいたい7回失敗すると言われています。
禁煙を決意し、しかししばらくしたらまた吸ってしまって、というのを7回も繰り返して、やっとタバコをやめられるそうです。

では、この7回の失敗は無駄だったのでしょうか?
そうではありません。

ロードアイランド大学のジェームズ・プロチャスカらの研究によると、喫煙者はタバコをやめたり吸ったりしながら、自分の喫煙パターンについて、何が「きっかけ」や「報酬」になっているのか、認識を高めていることがわかっています。#1 p.409

つまり、何度も失敗する中で自分について理解を深め、試行錯誤したおかげで、禁煙に成功しているのです。

新しい習慣を身につけるのも、これと同じことです。
失敗を重ねる中で自分について理解を深め、ついに新しい習慣を身につけることができるのです。

ここからは、習慣化にあたってもっとも大事な『心構え』を引き出せます。

それは、『諦めないこと』『失敗から学ぶこと』
そして、『自分は変われると信じること』です。#1 p.137~139,149,150

あなたが良い習慣を身につけられることを願っています。

【まとめ】
・習慣化においてもっとも重要なのは、『きっかけ』『ルーチン』『報酬』のサイクルを繰り返すことを『続けること』である。

・ここまで紹介してきた『きっかけ』『ルーチン』『報酬』のテクニックはすべて、『習慣のサイクルをスムーズに続けられるようにするためのもの』である。

・習慣は、続けるうちに『無意識に簡単に』できるようになっていく。

・たとえ継続に失敗しても、自分を責める必要はない。
その失敗から学び、習慣化の仕組みを改善して、再挑戦することが大事。

自分は変われると信じよう。


学ぶ習慣をつくるサービス

私が習慣について学び始めたきっかけは、私が開発している学習サービス『DiQt』の定着率を上げるためでした。

現在のDiQtは、『挫折させない学習サービス』というコンセプトを掲げて、ユーザーの学習習慣を助けることを目指しています。

なぜなら、『学ぶ習慣を身につけること』こそが、もっとも効果的な学習法であるためです。

しかし、DiQtは開発当初、『心理学に基づいた効果的な学習サービス』というコンセプトを掲げていました。

主に『テスト効果(Testing Effect)』と『分散効果(Spacing Effect)』といった、記憶と学習の研究分野で信頼されている科学的知見を採用して設計した、『学習効率の高いサービス』を目指していました。

最初のうち、それはとても上手くいくように思えました。

テスト効果とは、『テストを解くことによる高い学習効果』のことです。#11 p.78~80,338 #12 p.34~52,78~82,285~287,276 #13 p.120~157 #14 p.118,124~130 #15 p.31~43

テスト効果 (1)

今でも多くの人々が、テストは、学校の「試験」のような自分の学力を測るための単なる「計測手段」でしかないと考えています。
しかし、数多くの研究によって判明したのは、テストは、それ自体に高い学習効果がある、優れた『学習手段』であるということなのです。
テストを解くことは、従来私たちが行いがちだった「教材を繰り返し読む」「重要な箇所に下線を引く」「蛍光ペンでマーキングする」「まとめ図(コンセプト・マップ)を書く」といった学習法よりも、学習内容を記憶に残し、理解を深めることがわかっています。#11 p.80 #12 p.15~23,35,46~50,123 #13 p.122~124 #14 p.127~130 #15 p.34~38
この知見に感銘を受けて、「テスト効果を活用した学習ツールを開発しよう!」と思い立ったのが、DiQtの始まりでした。
そのためDiQtは、『オンライン問題集サービス』なのです。


分散効果とは、『間隔をあけて繰り返し学習することの高い学習効果』のことです。#11 p.347 #12 p.54~56 #13 p.96~119 #14 p.90~113 #15 p.44~59

分散効果 (1)

今でも多くの人々が、短期間に間隔をあけずに繰り返し学習することを効果的だと信じています。
こうした学習方法を、心理学では『集中学習』と呼びます。
しかし、数々の研究が示しているのは、『集中学習で得た知識は、忘れやすい』という事実です。#12 p.38 #13 p.97 #14 p.92~94
一方で、長期にわたって間隔をあけて繰り返し学習することを『分散学習』と呼びます。
そして数々の研究によって示されたのは、『長期的な記憶の定着には、分散学習が効果的である』という事実なのです。#12 p.53~56 #13 p.96~98 #14 p.96~103 #15 p.44~59
この分散学習の高い学習効果を、『分散効果』と呼びます。
分散効果は、『実験心理学の中でもっとも頑健な現象の一つ』と言われるほど信頼性のある学習効果です。#15 p.44
DiQtは、この分散効果を活用できる学習サービスを目指しました。
そうしてできたのが、DiQtでもっとも人気のある『復習機能』です。
この機能は、分散効果を得る上で重要な『学習内容をある程度忘れるまで復習の間隔をあける』という人力では難しかったことを、自動で行ってくれます。

私は、こうした科学に基づいた効率的な学習サービスを作れば、みんなが使ってくれると考えていました。

しかし、それは『甘い考え』だったのです。

そのことに気づいたのは、『自分がDiQtを使い続けていないことに気づいたとき』でした。
自分にすら使い続けてもらえないサービスを、誰に使い続けてもらえるというのでしょうか?

そして『使い続けてもらえない』ということは、それ自体がDiQtの学習効果を毀損するものでした。
なぜなら、『分散効果』は、長期にわたって繰り返し学習を続けてこそ、得られる効果だからです。

私は当初、単純な、そしてもっとも重要な事実を見落としていたのです。

それは、『どんなに効率的な学習法も、続けられなくては意味がない』ということです。

結局のところ、『続けること』『習慣にすること』こそが、学習においてもっとも重要なのです。

この事実に気づいてから、私はDiQtの価値の中心に『挫折させないこと』『学習を習慣化すること』をおきました。

そして『継続するための方法』や『習慣』について調べ、DiQtにその知識を実装しました。

その結果が、冒頭の1年連続の学習、そしてこのnoteです。

私はDiQtを、なんとか自分が毎日使えるレベルにすることには成功しました。
そして習慣化について得た知見を、こうして体系的にまとめることもできました。

しかし、これだけではまだまだ不十分です。
DiQtはまだまだ改善の余地がありますし、もっと学習を習慣化しやすくできます。
言い換えれば、DiQtはもっと依存性を高めることができます。

自分で言うのもなんですが、私はやりがいのある、幸福なビジネスモデルを選んだと思います。
ゲームやSNSに依存させるのは、社会的な批判もあるのかもしれません。
しかし、学習に依存させることには、きっと批判は発生しないでしょう。
なぜなら、私も含めて、多くの人々が『学習依存症』になりたがっているのですから。
ユーザーと開発者の利益が一致している稀有なケースだと思います。

ユーザーの方々と話していて感じたのは、私と同じように、多くの人々が『学習を続けられない』というところに課題を感じていたことです。
私たちは、『勉強はツラくて当然』と考えていて、『続けられないのは自分が悪いのだ』と考えがちです。
しかし、DiQtは、『個人ではなく、仕組みが悪いのだ』という立場に立ちます。
現実に、「死にゲー」のような困難でありながら人々を惹きつけるゲームが存在するなら、勉強だって仕組みによってハマらせることができるはずです。
私はもっと、学習は『楽しくする』ことができると信じています。

DiQtは、今のところ、私の個人プロジェクトです。
プログラムもデザインも、すべて私一人で行っています。
しかし、最近考えているのは、自分はエンジニアとしてもデザイナーとしてもそれほど筋の良いほうではないだろう、ということ。
また、そろそろタスクが一人で抱え込める量を超えてきたこと。
また、そろそろ大きく資金を投じて、テコを効かせてDiQtを成長させていきたい、ということです。

なのでもし、『学ぶ習慣をつくる』というDiQtの方向性に共感してくれたエンジニアやデザイナーや投資家の方がいらしたら、ご連絡いただけると嬉しいです。
手伝う、あるいは投資するという関係でなくても、DiQtのビジョンに共感いただけただけでも、ぜひお知り合い・お友達になりたいです。
(ご希望があれば、DiQtのGitHubのリポジトリにもご招待します。)

また心理学研究者や第二言語習得の研究者、ゲームのUI/UXに関わられていた方がいらっしゃいましたら、ぜひお話を聞かせていただきたいです。
理由としては、
『DiQtは学習法・習慣化の方法について、心理学に基づいて設計していきたいため』
『DiQtは初めのうちは、英語・語学に分野を集中させるつもりで、そのため第二言語習得の知見を活かした設計にしたいため』
『私は、ゲームは現代でもっとも洗練された習慣化システムだと考えているため』です。

aikawa@booqs.net あるいはTwitterのDMより、いつでも年中無休でお気軽にご連絡ください。
ご連絡お待ちしています。



参考文献

文中のところどころに、「#n P.n」という記述がありました。
これは参考文献とページ数を表すもので、(主に自分があとで)論拠を確認できるようにつけたものです。

このnoteは、次に紹介する参考文献の内容をまとめたものなので、
習慣や依存症についてより詳しく知りたい方は、参照元の書籍を読まれることをオススメします。
とくに依存症や悪い習慣を克服する方法については、このnoteでは触れられなかったので、現時点で悪い習慣に悩まされている方には、#1,#2,#3の書籍は役立つと思います。

また無料で読めるものとして、Coachatさまのnoteなどはとても参考になります。

もしもここで紹介しているもの以外で、習慣化に役立つ本や記事などをご存知でしたら、ぜひ教えていただけたら嬉しいです...!🙇‍♂️


#1   『習慣の力』

#2  『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』

#3  『依存症ビジネスのつくられかた 僕らはそれに抵抗できない』

#4  『プリスエージョン :影響力と説得のための革命的瞬間』

#5  『説得とやる気の科学 - 最新心理学研究が解き明かす「その気にさせる」メカニズム』

#6  『大人のための図鑑 脳と心のしくみ』

#7  『Hooked ハマるしかけ 使われつづけるサービスを生み出す[心理学]×[デザイン]の新ルール』

#8  『インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針』

#9  『続・インタフェースデザインの心理学 ─ウェブやアプリに新たな視点をもたらす+100の指針』

#10  『ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?』

#11  『自分では気づかない、ココロの盲点 完全版 本当の自分を知る練習問題80』

#12  『使える脳の鍛え方 成功する学習の科学』

#13  『脳が認める勉強法――「学習の科学」が明かす驚きの真実!』

#14  『進化する勉強法: 漢字学習から算数、英語、プログラミングまで 』

#15  『英単語学習の科学』


【補足】
このnoteでは、意図的に「習慣」と「依存症」を同一に扱ってきました。
その理由は主に、私がここまで参考にしてきた#1,#2,#3の書籍がすべて、依存症を疾患ではなく、習慣と同一に扱っていたからです。
同書籍でも示されていますが、立場によって依存症の定義は、かなり異なるようです。#1 p.116,117,374~381 #2 p.69~72 #3 p.76~100
そうした背景を踏まえた上で、面白い事実があります。
このnoteでも紹介した『行動嗜癖(行動に対する依存)』についての研究なのですが、調査対象の全体の41%がこの「行動嗜癖」に該当したそうです。#3 p.18~20
この内訳には、「ギャンブル」「恋愛」「セックス」「買い物」「インターネット」「仕事」なども含まれているのですが、こうした事実を踏まえると、「学習」に対する行動嗜癖も、世間一般が思うほどには非現実的ではないと思います。
たとえば、エンジニアだと、仕事につながらなさそうでも好きで色々な技術を常に勉強されている方は、結構いらっしゃる気がしています。




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