(読書感想文)寂しさを食べて生きる/根本宗子 著『今、出来る、精一杯。』

・あらすじ
東京都三鷹市のスーパーマーケット「ママズキッチン」で働く人々は皆どこかヘン。しかももっとおかしいのは毎日この店を訪れ「お弁当をタダでくれ」を叫ぶ車椅子に座る女だった。言葉を聞き入れてもらえない少女、自分の意見を捨てた女、完璧に見えるバイトリーダーに、他人の人生を壊してしまった男…。
「黙っていれば、自分の意見を持たなければ、嫌な思いもしませんから」
ーーバックヤードで繰り広げられる言葉の応酬と傷付け合い。めんどうな12人の人間が曝け出した感情の先に希望は灯るのか。
演劇界の異才による傑作群像劇、ついに小説化!

・感想
  読んでいて、ここまで感情が忙しなく動かされるというか、揺さぶられる小説はひさびさ。とにかく感情が忙しい。登場人物が12人もいるんだけれど、それぞれの心理描写が丁寧かつとてもリアルだから、がんばって追わなくても読み進めるにつれて自然とそれぞれの人物像が頭に入ってくる。
  劇作家さんが書いた小説らしいが、この視点が入れ替わりながら進んでゆく書き方は小説ならではで、小説という形であることの良さがとても活かされていた(なんだか上から目線になってしまったけれどめっちゃ下から物申してますぅ)。
  ママズキッチンで働く人達は、所謂社会不適合者やダメ人間と比喩される人達ばかりで言動もかなりぶっ飛んでいる。他の方のレビューを見ていると「誰にも共感、感情移入できない」と書いている方がかなり多いようだ。どうしよう…誰にも共感できるところがままあってしまった…誰にも感情移入してしまった…。つまりわたしは"こっち側"ということか。
  「感情の物語」と謳っているだけあって、とにかくみんな理性というものをどっかに吹っ飛ばして感情のみで生きている。その姿はある意味とても人間らしくて、羨ましくもある。世の中の人間が全て感情だけで生きてしまったら、たぶんこの世はママズキッチン(地獄)と化してしまうのだろう。しかし、ママズキッチンという地獄で生きる"正しくない"彼らに何故か励まされている自分が、確かにここにはいるのだ。
  自分の弱いところやダメなところって、きっと自分が一番よく分かっていて、でも自分の弱いところを認めて受け入れて生きていくのってしんどいよね。当たり前のことを当たり前にできないのって生きにくいよね。現実なんてなんの救いもなくとても残酷だよね。  
  ママズキッチンで働く人もその周りの人も、みんな生きにくそうで、それぞれ違った生きづらさを抱えていて、それでもみんなが、今出来る精一杯のことをして生きてゆかなくてはならない。それが正しくはないことだとしても、それぞれが今出来る精一杯で導き出した答えがそこにはあった。

生きていると、一瞬では理解できないことがたくさん起きる。けど、その都度飲み込んで、ついでにご飯も飲み込んで、生きていくんだ。難しいことを考えるのはそのあとだ。今日を生きてさえいれば、大概のことはどうにでもなる。それ以外のことは明日にならないとわからない。うん。それでいいじゃないか。
本文p196より

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