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タルコフスキーの『ノスタルジア』

渋谷のbunkamura le cinemaにアンドレイ・タルコフスキー監督の『ノスタルジア』を観に行った。
1982年制作の伝説的な映画で、今回は4K修復版でより美しい映像が楽しめるとのこと。

私が初めてこの映画を観たのは十代のころ。
当時はこのような単館系の映画を独りであちこちに見に行ったものだ。
自由が丘や高田馬場にマニアックな映画を上映するミニシアターがあったっけ。

大人になり、小難しい映画はほとんど観なくなった。
十代のころはあれほど「難解さ」「深遠さ」に惹かれたのに。
多分、時間と心の余裕がなくなったのだろう。
仕事や育児に疲れて、夜、独りでルイス・ブニュエルではさらに疲れる。
単純明快なラブコメで十分だ。

というわけで、私は過去にはなかなかマニアックな映画を観てきたのだが、ここ十数年は映画を観に劇場に行くこと自体めったになくなっていた。

去年、身体を壊してから、私はしばらく仕事を休んでいる。
家に閉じこもりがちで体力が落ちているので、『ノスタルジア』上映のニュースを見て、リハビリついでに渋谷まで出かけることにした。

数年ぶり?の渋谷はすっかり変わっていて、少し迷った。
ようやく劇場に着き、着席する。
移転して新しくなったle cinemaはとても広々して快適だ。
座った途端、「あ、寝るな…」と思った。

いよいよ上映開始。
美しいロシアの田園風景が映し出される。
しばし映像に没入し…
…ちょっと寝た。

観終わった率直な感想は、「思ったほど難解なストーリーではなかった」というもの。
自分だけの世界に囚われた3人の大人がそれぞれ勝手なことをするだけ。
それ以上、深掘りするほどの意味は見いだせなかった。
十代のころは、どこかに深い意味が隠されている気がして、様々な解釈を探ったのに。
果たして意味があるのか、ないのか、答えはわからない。
わかったのは、大人になった私に、この映画に胸打たれる感性は残されていなかったということだ。

ただし、この映画の映像美はやはり素晴らしかった。
最後のトリックのようなシーンは、30年以上の時を経て観ても、圧倒的だ。
CGのない時代に、人間の想像力を映像化しようとする執念を感じた。


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