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「スタートアップ至上主義」への違和感と「スモールビジネス再評価」の提案

ベンチャー起業コミュニティに関わる中で、私が長年感じている違和感が、「スタートアップ至上主義」的な風潮です。
特に行政が関与する起業支援プログラムでは、オープンイノベーション的に参画する大企業やベンチャーキャピタリストたちの資本の論理によって、志を持つ若者たち(に限りませんが)のチャレンジ精神が、変な形でねじ曲げられてしまっているように感じることが頻繁にあります。

ところで、こちらのnoteにも書いたとおり、同じベンチャー起業でも、「スタートアップ」と「スモールビジネス」は全く異なりますので、その違いを理解してチャレンジすることは、とても重要です。

ある起業家との出会い

つい最近も、とある若者起業家のビジネスプランを聞く中で、この違和感を感じました。
彼らは、ある社会課題をビジネスの手法で解決することを目指す「ソーシャル・ベンチャー」型での事業立上げを目指しています。
その根本には、自分たちの生きる社会のゆがみから目をそらさず、自らリスクを取って、まずは目の前にいる困った人を助けたいという想いがあり、起業支援界隈で活動している多くの「大人たち」からも共感を得る内容でした。

彼らはそのアイデアを持って、いくつかのビジネスコンテストに応募し、見事に優勝して、賞金と名誉を手にしました。
まだ若く自己資金に乏しい彼らにとって力強い後押しとなり、その賞金を資本金として、意を決して株式会社を設立しました。

ところが、そのビジネスモデルを語る彼らは、見た感じ「ぜんぜん元気がない」「ワクワクしていない」印象を受けました。礼儀正しく、素直な一方で、目に生気が感じられません。

何のために起業するのか?

私は「あれ?」と思い、彼らに個別に時間をもらって、Zoomで話をしてみました。最初は、前回と同様の建前を語る彼らの表情は、まるで仮面をかぶっているように見えました。

そこで私は聞きました。
「あなたたちは、本当にこの事業を大きくしたいの?
資金調達して急成長を目指すスタートアップ志向なの?」と。

すると彼らの一人が、涙ながらに話してくれました。
「自分は、ただ目の前の困っている人を救いたいだけなのに、いまは何かが違ってしまっている・・・」と。

そして事業のリーダーも、途中から声をつまらせ、泣きながら本心を語ってくれました。
「いろんな方々から『この事業は素晴らしい!成長させよう!!』と言われ、力を貸してくれて、そうしなければならないんだと思ってやってきた」と。

私からは彼らに、こう伝えました。
そんなことは何も気にしなくていいから、本当に自分がやりたいこと、ワクワクすることに集中したらいいよ」と。

その言葉を聞いた後の、彼らのほっとした表情は、いまも忘れられません。
あぁそうか、苦しかったんだね。資本の論理と大人の思惑にプレッシャーをかけられて、ずっと我慢してきたんだね。

最後に「よく話し合って、もしまた私のサポートが必要なら、声かけてね」と伝えて、1時間の話を終えました。

「成長」より「継続」

私は、彼らのビジネスは「スモールビジネスでのスタートを目指す」のが良いと思っています。
まずは自分の身の丈に合わせて、地域限定で、コストをかけて外注せずに、すべてを自分たちで汗をかいて現場を動かす。
その経験を通じて、さまざまな課題にぶつかりつつも、「誰かの役に立っている」という実感を得られるはずです。
「成長」ではなく、「継続」にコミットするのです。
そういう挑戦ができることこそが、若さの特権であり、私はそういうチャレンジャーを応援したいと思って、起業支援プロボノを続けています。

私は、このような「課題解決型スモールビジネス」という起業スタイルが、もっと評価されてもいいと思っています。
確かに現在の起業コミュニティには、大きな成長を目指すという旗を立てなければ、支援が受けにくい「空気」がただよっています。
しかし本来、地域の金融機関や行政は、こういう地に足のついた、まともな商売としてのスモールビジネス起業に、もっと光を当てて再評価し、その起業の過程で待ち受けている多くの罠やリスクにできるだけハマらないように、支援やアドバイスや資金を提供することが必要なのではないでしょうか?

少なくとも私は今後も、自分の体力と時間と資金力が許す限り、そういう挑戦者たちを応援し続けたいと思います。

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