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ハリウッド復活:保険から検査体制、群集シーンの撮影からケータリングまで。制作会社が再開前に取り組むパンデミック問題まとめ<日本語訳>

当記事は、ハリウッド関連のニュース・メディア『DEADLINE』2020/4/15 掲載記事を翻訳したものです。アメリカの映像制作の現場では、活動再開に向けてどんな取り組みをしているのか?

読みやすくなるよう、見出しはこちらで付けています。当然この情報だけが全てではないですが、日本でも出演者、スタッフがより安全な環境で撮影に取り組めるよう「ガイドライン作成」の参考になれば、幸いです。

追記:文字が苦手なひと向けに動画を作成しました(2020.5.6)

より正確な情報は、元記事をご参照ください。もし誤訳がありましたら、お手数ですがコメント欄にてお知らせください。適宜、訂正してアップデートいたします。
引用:https://deadline.com/2020/04/how-hollywood-reopens-coronavirus-shutdown-production-insurance-actors-crews-1202908471/
DEADLINE 編集者注:コロナウィルスによる制作中断や解雇の影響を受けるエンタメ業界の人々の闘いに関する特集記事「Coping With COVID-19 Crisis(コロナショックへの対応)」シリーズを継続しつつ、DEADLINE 誌が、本日、立ち上げる新シリーズ「Reopening Hollywood(ハリウッド営業再開)」は、すべての関係者の安全を確保しながら業界を復活させるための、非常に複雑な取り組みに焦点を当てたものです。ビジネスの多くの側面を検討してるつもりですが、考慮すべき点について提案がある場合は、コメントを残してください。

1. ハリウッドの現在の状況は?

火曜日(4/14)に、ギャビン・ニューサム知事は、コロナウイルスの蔓延を抑制するための「自宅待機命令」の解除を当局が検討していることを受け、カリフォルニア州の経済活動の再開に向けた「6つの指標」を発表した。

エンタメ産業はカリフォルニア州の経済の主要な部分であり、制作中断からちょうど1か月が過ぎ、製作スタジオ(reeling studio)による解雇、自宅待機、減給がある中で、どうすればその制作を再開できるか?経営者とプロデューサーの間で、その議論が高まってきています。

すべての関係者に対する保険契約(insurance policy)に基づいた安全の確保、群衆シーンやロケ撮影、そしてコロナウイルスによって変化した社会で流すのに適切なコンテンツの決定など、そこには復帰のために挑戦すべき大きな課題があります。

撮影再開はまだ数ヶ月先になるでしょう。製作スタジオの最も楽観的な予測は、7月、8月にかけての再開であり、より現実的なものは、9月までの稼働を目指すものです。カリフォルニアはまだ自宅待機(Stay At Home)期間で、現在その期限は5月15日まで続くとされています。

2. 保険・補償について

私たちが取り上げるべき問題にはさまざなものがありますが、ロケーションと同録撮影の再開に関するものから始めたいと思います。再び立ち上がって走り出すにあたり、この新しい世界はナビゲートするのが非常に困難です。複数の情報筋によると、ひとつには、ビジネスが再開したときに、保険会社が COVID-19 に対する補償をする可能性が低いとされています。

行政当局(政府)による撮影の中断、制作業務の強制終了を引き金に、プロデューサーはみな数百万ドル規模の請求を抱えています。 事業が再開すると、それは特定のリスクと見なされ、またCDC(米国疾病予防管理センター)によるコロナウイルスの第2波の警告により、保険会社がそれをカバーすることはないでしょう。

それは何を意味するか?ほとんどの場合、映画やテレビ制作のすべての関係者は、制作業務を補償するために、セクハラなどの行動規範をカバーするのと同じように、保険追約書にサインすることが求められます。

情報筋によると、それらのガイドラインにはこんな記述があるようです。

“You acknowledge you are going into a high-density area, and while we will do our best effort to protect you, nothing is failsafe and if you contract COVID-19, we are not liable,”
あなたは自分自身が高密度のエリアに入るのを認めます。私たちはあなたを保護するため最善の努力をしますが、安全装置は何もありません。そしてあなたがCOVID-19に感染した場合にも、私たちは責任を負いません。
 “There is no other way we can think of to address this. If you don’t want to sign, don’t take the job.”
これに対処するために私たちが考えることができる他の方法はありません。署名したくない場合は、その仕事に就かないでください

3. 再開にむけての議論の状況は?

ロサンゼルス郡での新しい COVID-19 の症例と死亡の水準が安定する中、また週末の新しい感染の激減などによる後押しにより、先週後半には「どのように制作再開するか?」に関する会話が立ち上がりました。が、残念ながら、楽観的な見方は短命でした(火曜日、水曜日と死亡数が記録的な急上昇)。しかし、業界が回復するまでは仕事も始められないため、議論は続いています。

これまでのところ、製作スタジオが解決したプロトコルはありませんが、ニューヨークやロサンゼルスの映画委員会(film commissions)を含め、活発な議論が続いていると聞いています。

AMPTP(全米・映画&テレビプロデューサー協会)とIATSE(演劇関係者、映像技術者、アーティスト、米国・カナダの美術監督組合による国際連盟)は、安全上の懸念と解決策を示すのに困難な状況にあります。

ハリウッドのすべての主要な製作スタジオでは、首脳陣が制作を再開する前に対処する必要のあるすべてのシナリオを見つけ出そうとしています。同じ会話は、人々が集まり働くオフィスから、飲食店や映画館まで、ビジネスに関連する他の領域でも行われています。

管轄区域が、現状の「20人以上の集会を禁止する規制」を緩和するまでは、何も起こらないでしょう。これが1、2か月後に起きると予測して、映画やテレビの制作で認識されている重要な問題を次に示します。

4. 制作現場での検査体制

完全に安全な現場を保証するための理想的な方法はありませんが、これはすぐにでも起こり得ることです。

全員が現場に入る前に検査が行われます。処理に数日かかる従来の綿棒テスト(traditional swab tests)ほど正確ではありませんが、迅速な抗原検査(antigen tests)は、15〜20分以内に結果が得られるため、可能な限り最良の選択肢となります。

現場での日常的な使用に関しては、優先度の高い人々や病院からそれらを奪うことなく、検査キットを入手できることを前提としています。さらに、可能な場合は、すでにウイルスに感染している場合に免疫を検出する「抗体検査」を実施することが期待されます。

健康アンケート、温度チェック、衛生指導(咳エチケット)が行われ、医療の専門家が熱や症状を確認するために現場に待機し、それらの症状を示した人は検疫の対象になります。抗体検査である程度の免疫力があることが示されている場合は、毎日検査する必要がない可能性がありますが、このプロセスにより、集合に関しては、各スタッフにつき、最大で1時間半の時間の追加が予想されます。

これらすべてには、法的なハードルとプライバシーの問題がありますが、個人の立場に関係なく、現場にいる以上は、あなたはマスクと手袋を手渡される前に、この検査に参加しなければならないでしょう。

5. 制作現場での衛生管理

「誰しもが自分が安全だと感じていない環境に報告することを望まない、またはすべきでない」とトップのテレビプロデューサーは語った。

あなたが参加する現場は、パンデミック前の現場とは異なります。手で扱うあらゆる種類の道具は、共有することは許されません。そのため、美術セットを建てようとする場合、共同で使用する、のこぎり、ドライバー、ハンマーはありません。各自、個別のものが必要となります。

以前は、ブッフェ形式の食事、器に盛られたお菓子などの軽食で構成される「ケータリング」サービスがありました。が、それは過去のものです。食事は事前に包装された状態で個別に提供され、共有の什器はありません。また密度を下げるため、食事の休憩時間はずらす必要があります。

制作進行とスタッフの雇用を維持するため、とりわけその健康状態が重要となる、役者を保護するための、追加レベルの保護が必要となります。彼らは替えがきかない存在であり、その仕事の性質上、役者はカメラの前で保護用具を着用することはできません。また安全性を保つために、現場で役者や監督と連絡をとる担当者は、常にマスクと手袋を着用する必要があります。

オフィスやバスルームには、開けるために触れる必要のあるドアノブやハンドルがなくなります。今後はスイミングプールと同じようなものになるでしょう。ボタンを押す必要のあるウォーターサーバー(自動販売機)は使えなくなります。また、誰もがペットボトルの管理に責任を負うことを望まないので、箱入りの水が最も可能性の高い選択肢です。

携帯電話を共有することはできません。また毎日、現場を消毒するためのスタッフが必要となります。

映画やテレビの制作関係者が宿泊して集まることができる安全なゾーンを作るためにホテル全体を貸し切る?という制作会社の話もあります。その場合も、番組や映画のスタッフは、家族そしておそらくバーやレストランに立ち寄るでしょうから、毎週、厳密な検査プロセスは行われる必要があります。

6. 群衆シーンの撮影

検査によって、役者が親密なシーンに参加できるようになることが期待されますが、映画やテレビ番組の主役の周りを多数のエキストラを挟むことを要求される「群集シーン」は大きな問題となります。 

ひとつの可能性としては、LiDAR などの 3DCG 技術をより気軽に使用する、というものです。都市は石畳のひとつに至るまで、デジタルで再構築できますし、エキストラの群集の中では、役者はクロマキー撮影で対応することができる。優先順位としては常に、テレビ番組や映画の主役が病気にならないようにすることです。

7. 撮影場所、ロケーションに関して

一度、制作が再開されれば、遠隔地での制作はなくなると期待されますが、情報筋はそうではない可能性が高いと述べています。

ある情報筋はこう伝えます。

“The economics right now are worse than they have ever been, and the box office muted, so it is a double whammy and without the incentives and rebates that come with shooting outside the U.S., you could not absorb the extra costs,”
現在の経済状況はかつてないほど悪化、興行収入は落ち込んでいる、という二重苦の状況で、インセンティブや優遇措置なしでは、国外で撮影するにあたり、余計な費用を吸収しきれない
“The hard part is, you go around the world looking for the best tax incentives and put movies in Budapest, Serbia and Australia, and now you have to tell an A-list actor they have to get on a plane for eight hours to spend 16 weeks away. What if they get sick there? How do you get them to feel safe?”
難しいのは、税制上で最高の条件を求めて世界中を回って、ブダペスト、セルビア、オーストラリアで映画を撮影するとしたら、一流の役者A-list actorたちに8時間飛行機に乗り、16週間を過ごす必要があることを伝えなくてはなりません。もし現地で病気になったらどうするか?安全であると彼らにどう説明するか?

テレビ番組については、撮影をスタジオ区画に制限する可能性があるという話があると聞きます。これには、同録環境に加えていくつかのオープンセットを提供するCBS Radford Studiosも含まれます。実際の街中での撮影と同じレベルでのリアルさ(authenticity)はありませんが、コロナウイルスワクチンが広く普及する前に制作業務を再開するにあたっては、安全性を高めるために、妥協をする必要があります。

多くの撮影は、自宅待機命令(Stay At Home)が解除されれば、すぐに再開できるかと言えば、そうはならないでしょう。一部のスタジオ施設では、保険上の懸念のため、州検疫の検査後2か月間は撮影を許可しないことを検討しているとのことです。

製作スタジオはまた、各スタッフの役割を調査して、現場の人数を必要不可欠な要員のみに制限し、可能な場合は、大規模な集まりを避けるため、現場の別々の場所にそれぞれ小さな集合体として分離させます。

8. コンテンツの演出・描写に関して

新型コロナウィルス(COVID-19)の影響により、実写撮影、ヘアメイク・衣装、ケータリングサービスから、番組内容の変更まで、テレビ番組を制作する上でのすべてを再考する必要があります。

ロケ撮影、大群衆やアクションシーンを回避するための脚本の変更に加えて、パンデミック前の生活を反映した物語は適切なのか?という疑問があります。数ヶ月、さらには数年にわたって、社会的距離(Social Distancing)が私たちの生活の一部になるとの予想もあり、製作スタジオの幹部やクリエイターは、家族の食事のシーンを描写するのに、たとえば『Blue Bloods』の物語のように、または混雑したレストランに行ったりする様子が、不快にならないか?疑問に思っています。

9. あとがき

同じように制作中断が起きた 1918 年のスペインかぜの大流行の時には、ハリウッドは再開し、最終的には1年ちょっとで通常の状態に戻りました。当時は、映画産業だけがあり、まだ初期の段階でした。

コロナウイルスの大流行は、2019年に500を超えるオリジナルの脚本によるシリーズを生み出したTVブームの中で起こりました。

ストリーミングの時代におけるとてつもない制作規模と、製作スタジオとプラットフォーム側による高額な賭け(high stakes)は、企業同士が力を合わせて、検疫が解除され生活が正常に戻るまでの数か月の間に、コンテンツを可能な限り安全に作成するにはどうすればいいか?その厳密なガイドラインを打ち出すきっかけとなるでしょう。

著名なハリウッド関係者は「業界を立ち直らせることは、私たち全員にとって最も重要なことです」と語った。

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