見出し画像

介護の言葉⑨「施設に入って、一安心ですね」。

 この「介護の言葉」シリーズでは、家族介護者に対して使われたり、また、介護を考える上で必要な「言葉」について、改めて考えていきたいと思います。

 今回は、第9回目になります。どちらかといえば、家族介護者ご本人というよりは、支援者、専門家など、周囲の方向けの話になるかと思います。よろしかったら、読んでいただければ、ありがたく思います。

(私自身の経歴につきましては、ここをクリックしていただければ、概要は伝わると思います)。

 この「介護の言葉」シリーズでは、前回(リンクあり)と同様に、今回も、かなり個人的な感覚ですし、もしかしたら、反発を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、それでも、お伝えしたいと思いました。もし、ご意見や疑問などがありましたら、お伝えくだされば、うれしいです。

「施設入所できて、一安心ですね」

 この言葉が出る場面を想像すると、それを言わないでほしいとは、とても言えません。
 要介護者の方が、在宅で介護をするには厳しくなり、そのことによって、施設に入所してもらうしかなくなることはあると思います。(場合によっては、病院かもしれません)。

 もし、介護の専門家か支援者であれば、まずは、そのことに関して、家族介護者ともよく話をして希望などを聞き、現状を把握し、その上で、どの施設が合っているのかを考え、入所できる施設を探すのだと思います。さらには、要介護者のご本人に、説明し、納得してもらわなくてはならない場合も少なくないのではないでしょうか。そして、状況によっては、介護保険の介護認定を再調査する必要もあるでしょうし、私では想像もしにくい煩雑な手続きもしなくてはいけないし、家族介護者やご本人に、施設の見学をうながすこともあるかもしれません。

 こうしたことだけを考えても、それは主にケアマネージャーさんにお願いすることが多くなるとは思うのですが、やることが多く、さらには、施設入所が決定したとしても、実際に、その日がきたとしても、本人が強く拒否をして、延期になることさえあると思います。

 入所への手続きをしている途中で、家族介護者の気持ちが揺れ動き、それに対しても丁寧に対応し、施設入所を決断したということは、在宅介護は限界にきているということがほとんで、だから、家族介護者も疲労の蓄積がひどいはずですが、それを見ているからこそ、少しでも早く施設入所をしたほうがいいのではないか、というような気持ちもあって、作業や手続きを進めて、やっと入所できた。

 「施設入所できて、一安心ですね」。

   この入所手続きを進めていた担当のケアマネージャーさんに、他の同僚の方が、こうした言葉をかけている姿は想像できます。そして、このことは自然だと思いますし、これに関しては、問題もないような気がしますが、いかがでしょうか。

家族介護者に対しての「施設に入って、一安心ですね」

 この言葉を、入所後にかけてはいけないのは、おそらくは、要介護者のご家族に、施設入所してもらった家族介護者に対してだと、思います。

 周囲の人から見て、本当に限界を超えるほど介護をしていて、体力も気力もつきそうに見えて、だから心配して見守っていた人ほど、こうした言葉をかけてしまいそうですし、それは、かなり自然なことだと思いますが、この段階の家族介護者は独特の心理状態にあることが多く、そうした言葉によって、表面的には分からなくても傷つくことが多いと考えられます。

 これは、以前も書いたのですが、「介護しないと分からない」という言葉が発せられやすい場面(リンクあり)でもあります。つまりは、家族介護者の心理が乱れやすい状況といえます。ここから先しばらくは、以前の内容と重なる部分もありますが、もう一度、書いていこうと思います。

 入所の日も、なかなか動かない父親の前に、散歩してそれで送って行こうという思惑はうまくいかず、施設に電話をして頼むことになってしまった。
 男性と女性の職員の方が迎えにきてくれました。嫌がる父を後ろから抱きかかえるようにして、車に乗せてくれたのです。
 その姿は、羽交い締めにされて、引きずられていくように見えました。もう、言葉になりません。これだけはしたくなかった、こんな場面だけは見たくなかったという状況が目の前に展開されていたのです。父が乗った車の後ろから、私は主人と一緒に車に乗ってついていきました。涙が止まりませんでした。
 あれからもう三週間が過ぎました。しかし、気持ちの整理はついていません。とにかく残念でたまらないのです。住み慣れた家で、最期まで暮らしてほしかった。それができなかった。させてあげられなかった自分が腹立たしくて。頭のなかで、そんな想いがぐるぐると回っています。この気持ち、介護を経験した人でなければ絶対に理解できないと思います。

 こうした思いは、この本の著者だけでなく、他の家族介護者から聞かれることでもありますし、他にも、『そうかもしれない』(耕治人)では、施設入所の時だけ、それまで淡々と介護を続けた家族介護者の思いがあふれる描写もあるので、やはり、この場面では、気持ちがもっとも乱れるのかもしれません。


施設入所したあとの、家族介護者の気持ち

 どうして、この状況で、家族介護者の気持ちが揺れ動いているのかといえば、いくつか理由が考えられます。

 まず、理由の一つとして考えられるのは、この時に感情が強く意識されたせいだと思われます。
 入所、もしくは入院を決意するまでの在宅介護で、家族介護者は、かなり追い詰められていて、抑うつ状態でもあることが多いですし、過酷な介護状況では、目の前の出来事に対応することが優先され、まるで感情がないかのように振る舞い続けた可能性もあると考えられます。
 
 入院や入所が決まって、実際に要介護者が家から移った後は、家族介護者も、前よりは眠れるはずですから、在宅で介護を限界を超えるようにしている時から比べたら、負担が減ってくるのも事実だと考えられます。
 その段階になって、ほんの少し体に余裕が出て来たことで、気持ちにも動きが出て、急に感情的なものが吹き出すようなこともありえます。それまでの感情の蓄積が、一気に蘇えり、辛さも押し寄せて来て、気持ちが大きく揺れているのかもしれません。

 もう一つ「気持ちが揺れる」理由として推測されるのは、施設入所、または入院に対しての“世間”からの見られ方に対しての、反発する気持ちが存在する可能性です。
 施設入所、もしくは入院に対しての“世間の目”は、残念ながら、決して好意的とは限りません。

 さらに、入所に理解があり、介護に関しても詳しいと思われる介護の専門家から、家族介護者の実感とは微妙にずれる解釈をされる可能性もあります。そのことで、反発をおぼえる可能性もあります。

 それに加えて、入院や入所に際して、身内から非難されることもありえます。

 そして、なにより大きな理由として考えられるのは、在宅介護が長い人ほど、施設入所に関しては、後ろめたさや後悔や自責の念に苛まれている可能性が高いと思われます。できたら、家でみたかった、施設に入れるのは可哀想ではないか、と自分自身の消耗よりも、施設入所あとも、ずっとそのことを思い続ける場合も少なくないと思います。

 そうしたことを思っている人に、「一安心」という言葉がかけられたとすると、それは、いい方向ではなく、どちらかといえば、自分自身の自責の念に拍車がかかることさえありえます。自分は楽をしてしまったのではないか。家族に申し訳ないのではないか。そんな辛さをます言葉にさえなってしまうことがあります。

周囲の人の思いのあらわれとしての「一安心ですね」

 さらに考えれば、「一安心」は、なにより周囲で見ている人たちの気持ちかもしれません。
 介護をされる人。介護をする人。どちらもが限界を超えてしまっているような状態をみているわけですから、介護のことに詳しい専門家ほど、在宅では無理ではないか。これ以上、この時間が続くと最悪の場合は、悲惨な事件にならないだろうか、といった恐怖心すらあるのかもしれません。

 そうであれば、在宅から施設介護に移ったことは、そうした危険性はひとまず回避できたわけですから、「一安心」になってもおかしくはありません。

 ただ、全員ではないと思いますが、その時に「一安心」と思っている家族介護者は、かなり少ない気がします。
 要介護者が施設に入ったとしても、介護が終わるわけではありません。施設に通い続けるという「通い介護」(リンクあり)に移行しただけかもしれません。

 まだ介護は終わっていない。だけど、介護の形態は変わった。だから、タイミングなども難しいのですが、まだ介護が続くから、なんともいえない、といったことを前提として、これまでの在宅介護を労う言葉であれば、この状況の家族介護者にも届くかもしれません。

難しい時期

 施設入所で介護が終わる、と考えていれば「一安心」も自然ですが、多くの場合は、ここで介護が終わりません。場合によっては、「通い介護」を続け、体調が悪くなる家族介護者もいます。ただ、それは、施設に入ったことで、自分が病気になってもいい、というような気持ちの変化の可能性もありますが、どちらにしても、施設入所のあとは、いろいろなリズムが変わるので、実は家族介護者にとっては難しい時期だと思います。

 逆にいえば、この介護の形態が変わる「難しい時期」に、かける言葉なども含めて、適切な支援がされたとすれば、その後の家族介護者の心身の調子には、かなりの好影響が出るとも言えそうです。



他にも介護のことをいろいろと書いています↓。読んでいただければ、ありがたく思います)。


#私の仕事   #自己紹介

#介護相談    #家族介護者   #介護者支援   #臨床心理士  
#公認心理師    #家族介護者への心理的支援   #介護

#施設入所   #介護の言葉   #ねぎらいの言葉
#心理学     #支援者 #要介護者
#介護専門家   #医療関係者   #認知症   #臨床心理学
#家族介護者の心理   #家族介護者   #通い介護

#認知症   #介護家族   #認知症対応  


この記事が参加している募集

自己紹介

 この記事を読んでくださり、ありがとうございました。もし、お役に立ったり、面白いと感じたりしたとき、よろしかったら、無理のない範囲でサポートをしていただければ、と思っています。この『家族介護者支援note』を書き続けるための力になります。  よろしくお願いいたします。