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あけびを食べる

職場の近くに、小さくてちょっと古びているけれど、素晴らしい品ぞろえを誇るスーパーマーケットがある。
鮮やかな南国の魚に、つやつやとした北国の果物。タイトルが全く読めない外国のお菓子に、九州でしかまず見かけないどローカルなカップラーメン。お惣菜のバリエーションも豊富で、夕方にはサラリーマンや主婦の方々が集まりたいそう賑やかになる。

そんなスーパーマーケットで、先日あけびを買った。

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あけびは、手のひらよりもやや大きいくらいの卵型の実で、皮は和紙のような風合いの赤紫色をしている。熟すと真ん中から縦にぱかりと割れる。口を「開けている」から「あけび」というらしい。
割るとくすんだ白い果肉が、小さな黒い種と一緒に現れる。いかんせん種が多いので、初めて見る人はぎょっとするかもしれない。
果肉はねっとりとしていて、ほんのり甘い。イチイとかヤマボウシとか、あけびと同じ野山の果実と風味が似ているかもしれない。味が濃い一般的な果物とは、ちょっと一線引いた存在だ。

九州(というか西日本かも)では、あけびを食べたことがないという人が多い。九州ではあけびはそれなりにレア食材らしく、私が10年近く九州住んでいてあけびを見たことがあるのは、冒頭で紹介した例のスーパーマーケットと、熊本の山奥にあった道の駅の2か所しかない。
ちなみに、私が九州で見かけたあけびは、すべて熊本県植木町産だった。植木町はスイカも有名な果物王国である。

一方で、東北だとあけびはメジャーな食べ物だ。秋口になると、スーパーマーケットや八百屋に行くと、たいてい果物コーナーか産直コーナーに並ぶ。東北のあけびは九州のものよりもやや小さめで、皮の色もはっきりとした赤紫色ではなく、穏やかな薄紫色のものが多かったような気がする。

そんな東北では、あけびは「果肉」ではなく「皮」がメイン扱いされる。
その昔、離れて暮らしていた祖父(東北生まれ)があけびを持って家に来たことがあった。祖父は孫たちに果肉を食べさせたあと、しれっと皮を回収し、しれっと台所を拝借し、普段料理なんてほとんどしないくせに手際よく甘辛炒めにして、ビールと一緒に嬉々として味わっていた。「子どもにはまだ早い」と、私には一口もくれなかった。

そんな私も大人になり、あのときの祖父のことを思い出しながら「あけびの皮料理」を作ってみた。

あけびの皮は、切ったとたんにすぐ茶色くなる。そのため小さめに切ったら塩もみをして、しばらく水にさらす。そうすると変色も防げるし、アクも良い感じに抜ける。
サラダ油をフライパンにしいて、弱火~中火くらいであけびの皮を炒める。
あけびの皮を炒めていると、ほんのりと甘い果物の香りがする。林檎や桃を煮詰めている香りに似ており、こういうときには果物みたいな顔をするんかい、と突っ込みたくなる。

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程よく火が通ったら豚肉(我が家では茹でたものを小分けして冷凍保存している)を刻み、あけびの皮と一緒に炒める。こちらも程よく炒めたと思ったら、酒:みりん:味噌:醤油=3:3:3:1を混ぜ合わせて入れて、水気がとぶまで炒める。
最後に鷹の爪を刻んで散らして、あけびの皮の味噌炒めの完成!

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常備菜(※あまり水気がとばなかったのでそんなに持たないと思う)として作ったのでちょこっと味見をした程度だが、適当に作った割にはおいしくできた。あけびの皮のほんのりとした苦みと甘みが、味噌のしょっぱさに良く合っている。確かにこれは、「子どもにはまだ早い」かもしれない。
あけびの皮はこってり味と抜群に相性が良い。豆板醤などを使って中華炒めにしてもとてもおいしい。調べたところ、肉詰めやてんぷらにしても最高らしい。

九州はまだまだ暑いが、空の色や動植物の様子はすっかり秋の装いになってきた。
あけびも赤紫色の身支度をして、さつまいもや栗、早生種のミカンやりんごと一緒に「チーム秋」のメンバーとして、明日もあのスーパーマーケットに並ぶのだろう。

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