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人を助けるとはどういうことか

この本は、私が前職で「カウンセリング・コンサルティング・コーチング」といった相談業務に従事するようになって、半年ほど経って手に取った本です。
キャリアコンサルタント有資格者・目指す人、キャリアや人事、人材関係で働く人なら聞いたことがあるであろうエドガー・H・シャイン先生著。
今思い返すととても学びが大きい本で、私のコンサルティングへの向き合い方が変わったので、リマインドの意味で書きます。

「支援学」への入門書

成功する支援関係とはどのようなものか。
本書では、支援を依頼してきた相手(クライアント)のイニシアティブや自律性を尊重しつつ、相手がうまく問題解決をするプロセスを支えることが重視されています。

私も相談業務に従事するようになってから、自分が担当したクライアントは成功することもあれば、上手く関係が築けない場合もありました。この本を読んで、その原因が、支援関係の不均衡にある事がわかったのです。

支援を求める人・クライアント=「一段低い位置(ワン・ダウン)」
つまり、 次にすべきことが分からない、できない、という地位や自信を失った状態にある。支援を求めること=屈辱 と感じる場面も多くあり、認めたがらない場合もある。
支援を求められる立場・支援者=「一段高い位置(ワン・アップ)」
支援を求められることで、クライアントよりも高い位置にいるように錯覚し、一歩間違えれば横柄な態度を取ってしまう。

この不均衡を放置したまま支援を行おうとすると、以下のような感情反応が出やすいといいます。

支援関係の不均衡による、クライアント側の反応

①最初の不信感
担当のコンサルタントは私の手助けをしたいと思っているのか?またはその能力があるか?を試す言動を取る
例)事細かに多くの質問をしてくる
コンサルタントに対してどう頼っていいのか分からない、本当の悩みをどう打ち明けていいか探っている可能性がある。

【コンサルタントがとってしまいがちな行動】
行動を急ぎすぎて改善に至らない。矢継ぎに質問に答えるだけで解決と思ってしまう。仮定上の問題に助言し、真の問題が何かを知る機会が失われる。

②安堵
最初の不信感は晴れているが、コンサルタントに依存してしまい、クライアント自身の努力を妨げる状態。
例)「この先自分でやっていけるか不安です。」といった発言がある

【コンサルタントがとってしまいがちな行動】
不安と言っているクライアントに対して、契約外の時間で電話やLINEで相手をしてあげることでよしとする。
一見きめ細やかな支援に見えるが、再び同じ問題が起きた時に、クライアント自身で解決できるようにしてあげることも、支援の目的の一つ。

③支援の代わりに、注目や安心感、妥当性の確認を求める
クライアントは助けを求めながらも、全く別のもの(コンサルタントからの注目や賞賛)を望んでいる状態。
例)「〇〇が課題だと思ったので、自分で調べてこの方法を始めました!これって効果的ですよね?」といった発言がある。
コンサルタントに対して「ワン・ダウン」という気持ちを避けるための言動かもしれない。

【コンサルタントがとってしまいがちな行動】
「それはいいですね!」や「それをやるならこうしたらどうですか?」と提案だけで終わってしまう。
クライアントをを安心させつつ、その解決法を取り組む目的を二人で考え直す必要がある。

④憤慨したり防衛的になる
クライアントがコンサルタントを見くびったり、無能に見せる機会を探っている。コンサルタントの面目を失わせることで、対等の立場に立とうとする。
例)「仰っている解決策なんて前からやってますが、うまくいきませんでしたよ」「私には別の解決策の方が必要なのではないですか?」といった発言

【コンサルタントがとってしまいがちな行動】
コンサルタントが弁解がましくなって立場のバランスをとってしまう。
→クライアントの能力を引き上げ、関係を均衡にする必要がある。

⑤ステレオタイプ化、非現実な期待、知覚の転移
クライアントがコンサルタントの言動を過去の経験(親、学生時代の教師、上司のやり方)に照らし合わせて測ること。
これまで生徒がどのような学習支援を受けたか情報を得ておくと良い。

一方、コンサルタント側に出やすい反応

①時期尚早に知恵を与えてしまう
クライアントに提示された問題こそが真の問題だという思い込みがあり、実際はクライアントが自分を試しているだけだという可能性に気づけていない。本当に求められているものが何かを知らないまま、助言を与えてしまう。
例)問題の深掘りをしないまま
「〇〇さんがしなければならないのはこれです」
「私が〇〇さんの状況の時はこうしていました」という答えを与える

②防衛的な態度にさらに圧力をかけて対応する
クライアントが提示した問題が本当と思い込み、また、提示した解決策をクライアントがやり通すスキルも能力もあるという思い込みから、クライアントを説得し人間関係が壊れる原因となる。
例)
「私の提案を理解されていないようなので、もう一度説明させてください」
「これさえやれば解決すると信じてください」という押し付け。
この場合、クライアントはコンサルタントが自分の問題を理解してくれないと結論付けてしまう。

③問題を受け入れ、クライアントが依存してくることに過剰反応する
クライアントについて多くを知らないまま、自信を持って提案する。その結果、クライアントが参加しないままどんどん次の指示を行い、依存状態を強める。
例)
「〇〇さんの課題は理解しています。一緒に頑張りましょう!来週はこれから説明する事を言うとおりにやってください」

④支援と安心感だけを与える
状況を客観的に判断せず、クライアントが何を言おうとそれを支持する。これはクライアントのワン・ダウンの状況を助長してしまう。
例)
「仕事が忙しくて大変でしたね。それは解決策の実行ができなくても仕方ないですよ」など、問題の根本を見ようとしない。

⑤問題から距離を置いてしまう
今までの経験にない事を言われた時に、ワン・アップの状態を維持したいがために、クライアントの意図を探らずに曖昧な態度をしてしまう。
例)
「〇〇についてはわからないのですが…〇〇を試してみてはいかがでしょうか…?」
→クライアントの話を傾聴し、コンサルタントは問題への先入観を捨てる事が大事。

⑥ステレオタイプ化、アプリオリ(事前)の期待、逆移転、投影
無意識のうちに相手を過去のクライアントと同じように扱ってしまう。

感情反応の罠を避ける

シャイン先生によると、支援関係を築くとは、上記の感情的反応(罠)を認識して避け、修復していく事です。
どんな支援関係でも最初は人間関係のバランスが悪いため、第一段階での交流の軸は、クライアントの地位を高めて対等な関係性を築くことです。

成功する支援関係とは

以下のSTEPを踏み、支援関係を築いていく必要があります。

STEP1:生徒とコンサルタントの間にある、「無知の領域」を無くす
ざっくり言うと、『仲良くなる』というワードがしっくりくるのですが、コンサルタントが知らないクライアントのこと、クライアントが知らないコンサルタントのことを埋めていく作業です。

【コンサルタントが知らない事=クライアントから引き出す必要がある事】
①クライアントは情報や助言、尋ねられた質問を理解できるか
②クライアントはコンサルタントの提案に従える知識やスキルはあるか
③クライアントの本当のモチベーションは何か
④クライアントの置かれた状況(家族・仕事)はどんなものか
⑤クライアントは過去の経験から、どんな期待や固定観念、恐怖心を持っているか

【クライアントが知らないこと=コンサルタントが安心させなければならない事】
①コンサルタントには助けを与えるだけの知識やスキル、モチベーションがあるか
②この人に助けを求めれば、どんな結果が得られるか
③コンサルタントは信用できるか。状況を利用して不当に強制したりしないか
④私は提示されたことを実行できるだろうか
⑤支援を受けるとどれだけの対価を払うことになるか

STEP2:役割の選択
「無知の領域」を無くした上で、役割の選択をします。

役割①:専門家の役割 ー 情報やサービスを提供する
専門家の役割では、コンサルタントは自分の持っているものをなんでも提供してしまい、クライアントがどんな解決策や情報が本当に役に立つのか分からなくなってしまうという欠点があります。また、依存関係を深めてしまう恐れもあります。
よって問題が正しく把握され、クライアント側が解決策を実行できるか見極めてから有効な役割です。

役割②:医師の役割 ー 診断と処方
医師の役割では、問題を診断し的確な解決策を提示しますが、コンサルタントが現状を正確に把握できない状態では不適切です。また、支援関係が築けていない場合はクライアントも提案を信じて受け入れようとしなかったりすします。(お医者さんに処方された薬を言われた通り飲まないこと、ありませんか…?)

役割③:プロセス・コンサルタントの役割
結論からいうと、支援関係の初期段階で重要なのはプロセス・コンサルタントだとシャイン先生は言います。

プロセス・コンサルテーションとは

コンサルタントが、相互の態度、声の調子、環境に注意を払い、コミュニケーションのプロセスに焦点を当てる事です。
そうする目的は3つあり、
「無知の領域を取り除く」
「初期段階の立場の差を縮める」
「認識された問題にとって、さらにどんな役割が最適か見極める(→専門家or医師or引き続きプロセス・コンサルタントとして接する)」
ということ。

プロセス・コンサルテーションに有効な問いかけの形

どのレベルの質問を採用するかという選択は、状況にもよりますが、コンサルタントとクライアントが均衡関係にいるか?という評価を常にしておく事が重要です。

➢ 純粋な問いかけ…クライアントを尊重し、自信を持たせる。
         コンサルタントはできるだけ多くの情報を集める。
■ 続けてください、もっと話してください。それでどうなったんですか?
■ 例えばどんな事ですか?
■ 他にも何か思い浮かびますか?
注意点)問題がある事を前提とした質問で促さないこと!(やりがち)
➢ 診断的な問いかけ…クライアントの話の要素を少しずらす。
クライアントが触れたくないかもしれない内容について考えさせるため、多少不安を与える可能性がある。
■ 感情と反応 ● それについてどう感じましたか?
        ● どんな反応をしましたか?
■ 原因と動機 ● なぜそんな事をしたのですか?
        ● この問題を抱えているのは、なんでだと思いますか?
■ 実行に移した行動、検討中の行動
                              ● 今までのところ、何をしましたか
                              ● 次は何をするつもりですか?
➢ 対決的な問いかけ…コンサルタントが自身の考えを会話に差し込む。
■ その事について何か対処はしていますか?
■ このような事はできませんか?
■ 不安だからそんな事をしたのだと思いませんか?
➢ プロセス指向型の問いかけ
■ 問題への対処について満足していますか?

詳しくはぜひ本書を読んでみてください。

この本と出会っていなかったら、支援関係が成功したパターンとうまく関係が築けなかったパターンの違いがわからず、闇雲に自己流を追い続けていただろうと思います。。
クライアントさんと接する上で、一番大事なのは「信頼関係」ということはわかっていたものの、支援関係の均衡に気を配ることで、より客観的に関係性の観察が具にできるようになった気がします。


より実践的なケーススタディをまとめた「謙虚なコンサルティング」も関連本としておすすめです。


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