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ため息

高校受験のとき。

「ため息は幸せが逃げていくからつかない方がいいよ。」

その一言が耳に残った。

それから、そのジンクスを目一杯信じてため息をつかないように気をつけた。

グッと肩に力が入って喉に息が詰まった時、その息は飲み込むことにした。

その飲み込んだ、多分、深緑色の息の塊は
お腹の中でぐっと溜まっていった。

「上に向いてため息をつくと、もう一回出ていった幸せが自分に降りかかるから大丈夫」

そんなジンクスも聞いたけど、なぜかそれは受け入れられなかった。

身勝手なものだ。


そうして、月日がたってもう深緑色のグルグルがどうにもならなくなった時、

たばこ  を覚えた。

覚えたてのタバコの銘柄を2種類、年齢確認されないと噂のコンビニで買う。
すぐにコンビニの裏に行って、買ったばかりのタバコをくわえて、ライターで火をつけた。
口でしかふかせず、むせる。

何度も繰り返して、口に溜めた煙を鼻から吸い込む空気と一緒に肺に吸い込んだ。
それから、少し開いた口から、吐きだす。

できた。
溜まったグルグルの息が少しだけ、タバコの煙と共に吐き出された気がした。

うまくはない、味と、吸い方。
いかにも未成年ですと言っているようだった。


それから何年も経った今。
タバコがなくてもため息をつける。
胸いっぱいに空気を溜めて、吐きだす。
これだけの行為が、今はお守りになる。
緊張した時、グッと体に力が入る時、
わざと大きくため息をつく。

タバコがくれた、きっかけ。
ため息の練習。

決まってメンソールを買い、少し甘めのものを選ぶ。
もう、いらないなと思いながら、まだ手元には、ライターだけが残っている。


(私のきっかけ①)

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