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「あの日」から10年――3.11という経験から学んだこと

ソロ・スタンディングという「対話」

3.11から10年が経った。
その夜、私は地元の駅前に立った。
プラカードをひとり掲げた。

震災と原発事故で犠牲になった方たちを追悼し、静かに訴えたかった。
シンプルに、折り目正しく、伝えたかった。
プラカードには、白地に黒い字で「原発はいらない」とだけ記した。
コートを羽織り、ワイシャツにネクタイを締めて、路上に立った。

久々のソロ・スタンディング。
最初は少し緊張した。
だが、時間が経つにつれて、気持ちが落ち着いてきた。

家路を急ぐ人たち。その多くは、素通りしていく。

だが、関心を示す人とも出会った。

振り向きざまにプラカードを見つめていた男女の2人連れ。
「原発はいらない」と声に出した若い女性。
「そりゃ、原発いらないよな、3.11……」と呟きながら、通り過ぎていった年配のサラリーマン風の男性。

ちらっと見ていく人たちも少なくなかった。
声や態度には出さずとも、何かしら感じ、考えてくれたかもしれない。

1時間ほどの間に、静かな「対話」ができたと思った。

福島第一原発の電気を使っていたのは、私だった…

3.11で痛感したのは、「黙っていたら、殺される」ということだ。
この地震大国に、50基以上もの原発が連なっている。
このまま原発が存在し続ければ、私たちは殺される。
「原発やめろ」と声を上げ、社会を変えなければ生きていけないと身につまされた。

さらに、福島第一原発で作られていた電気を使っていたのは、福島の人たちではない。東京で暮らしていた私が、その電気を享受していた。
震災前まで、そんなことも知らなかった。
そのことにも愕然とした。福島の人たちへの申し訳なさが募った。

原発を一日も早くなくすこと。そのために、声を上げること。
それが、震災前まで福島第一原発の電気を使ってきた一人の人間としての責任と役目だと思った。

この10年、仕事や生活の合間に、原発反対のデモや抗議に何度となく足を運んだ。
地元でも、友人知人たちとデモなど、さまざまなアクションを企画し、訴えてきた(*)。

社会も、自分も、変えられる

人道に反する政治がしばらく続いている。
為政者は利権に群がり、自分勝手な妄想と支配欲で世間を振り回し、保身に明け暮れる。
この国で暮らす私たちの命と暮らしを守る気などなく、私たちの声に耳を貸そうともしない。
ともすれば、投げやりになり、無力感に陥りがちになる。

だが、思ったことを声に出せば、社会は変えられるということも、3.11から学んだ。

原発についても、そうだ。
3.11前までは、54基の原発が運転していた。
ところが、3.11後に再稼働した原発は9基(3月16日現在、動いている原発は5基)にとどまっている。
脱原発の圧倒的な世論と、各地での粘り強い市民運動が、原発再稼働の動きを抑えているといっていい。

私は時々、ガンジーの言葉を刻むようにしている。

「あなたがする行動のほとんどが無意味であったとしても、それでも、あなたはそれをしなくてはならない。それは、世界を変えるためにではなく、世界によって自分が変えられないようにするために」

「あなたがこの世界に望む変化に、あなた自身がなりなさい」

自分にできることを続けていくこと。
ささやかなことでいい(そもそも、ささやかなことしかできない!)。
その一つ一つが繋がり、積み重なって、未来が切り拓かれていく。

社会は少しずつではあるけれど、変えることができる。
何より、少なくとも自分は変えられる。

「忘れてもいい、何度でも思い出せばいい」

もう一つ、3.11後、大切にしている言葉がある。

震災から2年後、取材で岩手の被災地を訪ねたとき、地元の方が語ってくれたものだ。
彼女は、仕事で上京した際、東京の人たちから震災の記憶がすでに薄れかけていることにショックを覚えたと言い、こう続けた。

「でも、考えてみれば、私だって、阪神大震災や新潟中越地震のことを、その2年後に覚えていたかと言われれば、たぶん覚えてなかった。忘れるのは当たり前なんですよね。『忘れるな』とは、とても言えない。忘れてもいいんです、また思い出してくれれば」

その想像力とやさしさに、背筋が伸びる。

できることを続けていきたい。

*…2012年3月から始まった「再稼働反対!金曜官邸前抗議」にもほぼ毎週、参加してきた。この抗議は、主催の首都圏反原発連合(反原連)の活動休止に伴い、今月末で終了する。3月26日が、通算400回目の抗議となる。
日時…3月19日(金)夜6時半~7時半、3月26日(金)夜6時半~7時半
場所…首相官邸前。東京メトロ丸の内線「国会議事堂前駅」の出入口3番からすぐ。
詳細は以下のリンクを参照。
再稼働反対!首相官邸前抗議
首都圏反原発連合 活動休止のご報告
なお、3.11後、反原発運動に関わったことについては、「路上からのメッセージ~田村あずみ著『不安の時代の抵抗論』(花伝社)を読んで」で詳しく述べた。

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