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アフガニスタンは本当に安全なのか?!  好奇心は猫をも殺す、バックパッカーは要注意!!



【はじめに】

 アフガニスタンへの旅行者が少しずつ増えています。SNS上で旅情報のやりとりがなされていますが、安全だと錯覚させるような投稿ばかりが拡散され、リスクの認識とその対処法に関する情報が欠けているようにも感じられます。こちらで共有する情報は、アフガンへの渡航を促すのではなく「少しでも不安に感じた場合は、一度、渡航を考え直してみませんか」と提案するためのものです。

 記載の内容は、アフガンで仕事をしている筆者が、現地メディアや国連機関などの報告書、現地の方から寄せられた情報、体験に基づいてまとめたものです。アフガンは美しく歴史的にも奥深い国ですが、残念ながら冒険の場としてはまだリスクが高いのが現状です。ご自身の命を守るために可能な限り多くの情報に接し、あらゆるトラブルの可能性を想定した上で、ご自身で対処できるかどうかを考え、慎重に行動することをお勧めします。

南部カンダハルのアイス売り


【治安概況】

 2021年8月15日のタリバンの政権掌握により、旧国軍側への攻撃者だったタリバンが国を統治する立場に変わり、またタリバンがイスラム国ホラサン州(ISKP)の掃討作戦を進めていることで、テロに限った治安は全国的に一定程度回復しています。改善したとはいっても、依然としてテロの危険性は世界トップのままです。国連によると、21年8月15日~23年5月30日の間に、民間人1095人が死亡、2679人が負傷しています。政府関係者やシーア派などの少数派を狙ったISKPによる攻撃は今も散発しており、国民抵抗戦線(NRF)など反タリバン勢力も治安部隊を狙ったゲリラ戦を続けています。

 テロの現場は、血溜まりとがれきに混じって頭や腕が散乱する凄惨なものです。爆風で顔の皮膚全体がずるっと剥け、そのまま吹き飛ばされる場合もあります。もし爆発テロに巻き込まれれば最悪、体は肉片となって飛び散り体のパーツが揃わないまま帰国することになります。負傷で済んでも、首都カブールですらまともな治療が受けられるとは限りません。国際非政府組織(NGO)などで働く外国人は、日常で大きなけがをした場合、医療技術の高いドバイやイスタンブールへ飛び、そこで治療を受けることを選択する場合も多いです。

 またカブール中心部でも、夜になると銃撃戦のような連続した発砲音がよく聞こえます。日本で発生すれば連日大きく扱われるような事件でも、アフガンでは地元メディアですら伝えないことがたくさん起きています。それが日常で、ニュースですらありません。

 テロや銃撃戦に巻き込まれないようにするためには、モスクなどの宗教施設、政府関係施設、大使館、検問所、ハザラ人などシーア派の居住区、乗り合いバス、治安関係者の車両―を避けることが必要です。過去の例をみると、たいていの場合はこれらが攻撃対象となっています。身を守る方法として、即席爆発装置を車の底に貼り付けて遠隔で爆発させる方法があり、起爆を防ぐために電波阻害装置を積む外国機関もあります。宿泊先を襲撃された場合に窓から逃げるため、普段からロープを携帯している人もいると聞きます。

 2022年12月にはISKPが中国関係者を狙い、カブール中心部のホテルを襲撃した例もありますので、中国人が集まる場所も避けた方が良いです。ちなみにISは過去に日本人も攻撃対象として宣言しています。移動する前に、行き先の治安状況についてガイドや現地住人、SNSなどで十分に情報収集をし、日の明るいうちに宿に到着できるよう予定を組んで行動することをお勧めします。


◎参考1:Global terrorism index 2022:アフガンが世界1位

◎参考2:国連アフガン支援ミッション(UNAMA)報告書。21年8月15~23年5月30日の間に民間人1095人死亡、2679負傷。うち4分の3は即席爆発装置を使った攻撃。

https://unama.unmissions.org/sites/default/files/human_rights_situation_in_afghanistan_may_-_june_2023_0.pdf

◎参考3:23年11月12日付のパジュワク通信。過去1週間で13人死亡。カブール・ダシュテバルチでの爆発やゴール州、ジョズジャン州での銃撃など。


南部カンダハルの市場の外



【一般犯罪】

 テロとは別に一般犯罪にも気を付ける必要があります。スリはどこの国でも要注意ですが、アフガンでは誘拐が多発しています。多くは実業家や開業医などのお金持ちを狙ったものや私怨によるものですが、過去には外国人も被害に遭っています。公務員の給与が月1万アフガニ前後、2023年11月16日時点の市場レートは1ドル=68アフガニですので、200~300ドルも持っていれば、現地住人からすると十分に高額です。

 外出時は、必ず男性ガイドを雇うか信頼できる男性と共に行動し、夜は極力出歩かないことが重要です。同じ宿に何泊もする場合は、標的になるリスクを下げるため、行き帰りのルートを変えることをお勧めします。タクシーも、できるだけ信頼できる人に頼んで呼び寄せてください。トゥクトゥクのような乗り物リキシャであればスピードがあまり出ず、ドアもロックできないので、いざとなれば飛び降りることができます。

 イスラム圏ではどこでもそうかもしれませんが、イスラム教徒同士に比べ、異教徒の女性への性犯罪が起こりやすい傾向にあります。保守的な地方のパシュトゥン人などは、西側諸国を堕落し退廃した文化圏と考えており、外国人女性を性的に開放的な娼婦か何かと勘違いしている人もいます。男性もレイプに気を付ける必要があります。ひげの生えていないスリムな日本人男性は好奇の対象になり、過去に実際に被害に遭った方もいます。


◎参考
10月30日、ゴール州で誘拐容疑者拘束、被害者救出

https://www.afghanislamicpress.com/en/news/99015

10月28日、ヘラート州で誘拐容疑者3人殺害


中部バーミヤンのバンデ・アミール湖



【地雷・不発弾】

 2021年に地雷や不発弾に事故に見舞われ死傷者は1073人で、世界トップです。街の郊外では、地雷や不発弾に注意する必要があります。舗装されていない道が多いですが、そういう場所では人が通った形跡がなければできる限りうろつかず、むやみに道から外れて歩き回らないこと、また何でもかんでも触らず拾わないことが肝心です。道の脇に赤く塗られた石があれば、地雷などの汚染地帯を表します。壁にナイキのマークのようなチェックが描かれていれば、除去済みを表します。ただ、新たに埋められている可能性も拭えませんので、要注意です。


◎参考:Landmine monitor 2022. 2021年、アフガンで1073人死傷。世界トップ。
http://www.the-monitor.org/media/3352351/2022_Landmine_Monitor_web.pdf


アイス、うまい


【タリバンの対女性政策】

 タリバンの対女性政策は、西洋諸国からみると人権侵害に当たりますが、彼らは大まじめに女性に権利を守るためのものだと考えています。男性は女性を守り養う義務があり、女性は必要がなければ働く必要はなく、家で家事と子どもの面倒を見るべきだという考えです。アフガンには、女性の尊厳と貞淑さを守るために家族以外の男性と接触させない慣習もあり、それらを厳しく政策には反映させた結果、女性抑圧と批判されています。

 タリバンからすると、女性だけでの長距離移動(約72キロ以上)を禁じる必要があり、公衆浴場や公園などへ女性が立ち入ることも制限することになります。実際には政策の運用は緩く守られていない場合も多いのですが、厳しく運用しているところもあるなど、地域差があります。これらを取り締まる勧善懲悪省の職員(モハタセベ)は白衣を着て見分けが付きやすいですので、見かけたら特に行動に注意する必要があります。彼らに懲罰権は与えられておらず、外国人が手荒な扱いを受けることはまずないと思われますが、怒らせるとたたかれる可能性はあります。女性が肌を露出して堂々と行動することを好まない市民がもともと多い国です。トラブルを避けるためにも、現地女性の行動に合わせた身の振る舞いを心がける必要があります。

 男性は、女性への接し方に気を付ける必要があります。じろじろと現地の女性を見ないこと、勝手に写真を撮らないこと、むやみに話しかけないことが大切です。アフガンではこれらは女性の尊厳を傷つける行為にあたり、女性に同伴している男性親族から叱責されたりたたかれたりする恐れがあります。2023年8月には、女性の写真を撮った男性が治安機関に拘束された例もあります。

 パートナー同士であっても、屋外で男女がいちゃつくのも御法度です。麻薬や酒はもちろんのこと、タリバンの前ではタバコも控えた方が無難です。
 


◎参考:カブール治安当局者のX(旧ツイッター)。女性を隠れて撮影しSNSに投稿、発覚し拘束。


北西部ファルヤブのレストラン。ナン売りの子どもら


【イスラム教勧誘】

 国民のほぼ100%がイスラム教徒で、タリバンは特に敬虔な人々です。タリバンは約20年も異教徒である米軍などとのジハード(聖戦)に身を捧げた集団で、親族や友人を戦いで亡くした人が多く、信仰と国防のために犠牲となったことを誇りとしています。イスラム教の否定は、彼らの人生を侮辱することになります。

 タリバンや地元住人から好意でイスラム教徒に改宗するよう勧められることがあるかと思いますが、トラブルを避けるためにも、イスラム教の否定と受け取られかねない言動は一切避ける必要があります。神はいない、あるいはアッラー以外にも神はいると挑発したり、ことさら自分は無神論者だと強調したりすることも、相手の気を悪くすることになります。イスラム教への尊敬を示した上で、穏便に話題を変えるよう心がけることをおすすめします。


【有事への備え】

 一見、穏やかな日常が流れているようにも見えますが、タリバンもISKPによるテロを警戒し、閣僚クラスが登庁を控えたり全員が一度に同じ場所に集まらないようにしたりと、用心しています。タリバン内部での権力闘争も激化しており、外交関係者だけではなく、タリバン治安当局者の間でも内部対立が戦闘に発展する可能性を指摘する声が高まっています。

 戦闘は突然始まります。もし内戦に発展しカブール、マザリシャリフ、カンダハル、ヘラートの各空港が閉鎖されれば、脱出は陸路に頼ることになりますが、その場合は大量の現地住人が殺到し、迅速な退避は困難になるものと思われます。地元航空会社カムエアによると、有事には航空便のキャンセル待ちはタリバン関係者に優先配布されます。国営のアリアナエアも同じ扱いになると思われます。筆者は西部ヘラートの地震被災地で強い余震に会い、カブールへ戻る便を早めようとしましたが、席は数席空いていたものの、政府職員が乗るかも知れないと言われ席をおさえることができませんでした。実際、その席は後からやってきたタリバン関係者に宛がわれました。そもそも各都市間の便数は1日1~2便しかありません。一度事が起これば、脱出は困難だと覚悟しておく必要があります。

 各国による退避支援が始まれば退避機に搭乗できるはずですが、在アフガン大使館が旅行者の存在を把握していなければ、情報提供や連絡が難しくなります。アフガンでは過去に通信施設も多く攻撃を受けており、有事には通信自体が困難な状況に陥る可能性があります。そうでなくても、普段から街の中心部を離れればスマホの電波が入らないことが多々あります。常に最悪の事態を想定した上で、信頼の置ける第三者か大使館に自身の予定を大まかにでも共有した上で行動することが、身の安全を守ることにつながります。

 テロや銃撃戦に巻き込まれたり旅行先でけがをしたりした場合を想定し、どの病院にどうやって行くべきかを想定しておくこともお勧めします。州都であれば国公立の病院がありますが、医療設備が十分に足りていないため平時でも患者であふれています。英語ができるスタッフがいるとは限りません。衛生レベルはかなり低く、院内感染の可能性を念頭に入れてく必要があります。可能であれば、イスタンブールやドバイなど医療技術の高くビザのいらない海外の都市へ脱出し、そこで治療を受けることをお勧めします。

南部カンダハルの空港とタリバン関係者ら


【情報収集】

 万が一のことが突然起きるのがアフガニスタンです。細心の注意を払って行動するためにも、情報収集が必要です。ただ、タリバンの政権掌握後、多くのジャーナリストが国外へ退避しているため報道の正確性が低下しており、メディア検閲もあり、アフガンメディアのチェックだけでは十分な情報を得ることは難しいのが現状です。現地住人の多くがSNSを利用して情報を共有していますが、英語で得られる情報には限りがあります。そのため、現地メディアとSNSのチェックに加え、ガイドや信頼の置ける現地住人を通じて現状を把握し、安全に旅行が出きるよう努めることをお勧めします。

 無事に出国した日本人旅行者が投稿した治安情報はすでに古く、状況が変わっている可能性があります。うわさや臆測に尾ひれがついた情報が多いのも現状です。もし現地に知り合いがいるのであれば、迷惑を掛けない範囲で、アフガンで活動している国連機関やNGOの関係者や、タリバンに相談しリアルタイムで情報を得ることをお勧めします。ツテがなく現地で信頼の置けるガイドも雇わずにアフガン旅行をするのは、命を粗末に扱う行為です。ガイドも彼らが生活に困っていれば、あなたを犯罪組織に売り渡す可能性もあります。どうしようもなく困った場合、悪事をしてもしょうがないという意識を持った方も多いです。日本での感覚は何も通用しないと肝に銘じる必要があります。

 主な現地メディアは以下の通り:いずれも情報の精度が高いメディアはありません。民間ではトロとアリアナがましな方ですが情報は遅く、アーマジュなどは比較的早いですが、質は担保できません。国営はタリバンの政権発表ですので、参考程度です。反政府系は、こういう話しもあるらしいという参考です。インフルエンサーの情報はさらに確度が落ちます。

・民間
Tolo(トロ)
https://twitter.com/TOLOnews
Ariana(アリアナ)
https://twitter.com/ArianaNews_
Pajhwok(パジュワク)
https://twitter.com/pajhwok
1TV(ワンティーヴィー)
https://twitter.com/1TVNewsAF
Aamaj(アーマジュ)
https://twitter.com/aamajnews_EN

・国営
RTA(アールティーエー)
https://twitter.com/rtapashto
Bakhtar(バフタール)
https://twitter.com/bnaenglish

・アフガン国外の反政府寄り系
Afghanistan international(アフガン インターナショナル)
https://twitter.com/AFIntl_En
AMU(アム)
https://twitter.com/AmuTelevision



上空から見下ろす首都カブール郊外


【あとがき】

 何十年も戦乱が続いてきた国ですので、発砲音がしても誰もあまり気に留めません。現地住人の「安全だよ」という言葉を鵜呑みにしては身の安全は守れませんし、たまたま無事に出国した日本人旅行者の情報は、あなたの安全を担保するものでは全くありません。バーミヤンなどの地方では、一見とても平和そうに見えても、その裏では住人が極度の貧困に打ちひしがれています。とても狭いコミュニティーですので、外国人が旅行をすればすぐにうわさは広まります。実際に最近、日本人旅行者が強盗に巻き込まれた例があります。犯罪者にいつ狙われてもおかしくないと意識し、行動する必要があります。運が悪ければ突然、死の危険性に直面することになります。

 筆者も行動に気を付けてはいますが、それでも宿泊先が武装集団に襲撃されて人が亡くなったり、滞在先を離れた直後にそこへロケット弾が何発も打ち込まれたり、よく行く施設の前で自爆テロがあったり、店に手りゅう弾が投げ込まれたりと、たまたま運が良かっただけだと感じています。「好奇心は猫をも殺す」とも言いますが、興味本位で渡航するのはお勧めしません。何があっても生きて帰るための準備とツテ、そして資金があると言い切れないのであれば、アフガンへの渡航は少なくとも数年先延ばしにすることをお勧めします。


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